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寂しさと切なさ(1)

 ヘークション!

 夜の酒場から裸一つで追い出されたヒイロ。

 あらぬ濡れ衣をきせられて土下座までさせられたヒイロは、道の真ん中で立ち尽くしていた。

 今日は、やけに夜風が身に染みる。

 ヘークション!


 通りの真ん中で裸で震える男は目を引いた。

 まだ時間は10時を回ったころだろうか。

 飲み屋が連なるこの通り。

 この時刻ではまだまだ人の行きかいが多かった。

 興味津々の目が、ヒイロを見ながら通り過ぎていく。

 蔑む目が、ヒイロに向かって笑みを飛ばす。

 憐れむ人々の目に将来の自分の姿を想起させたのだろうか。

 人々は嫌なものでも見るかのように視線をそらした。

 どこぞのぼったくりバーで身ぐるみをはがされたのだうか。

 それとも、どこぞのホテルで美人局つつもたせにでもあったのであろうか。

 通りを歩く人々は、興味深げに裸の男を見つめるものの、誰も気遣うことはしなかった。

 先ほどから何事もなかったかのように、街の喧騒がヒイロの前を通り過ぎていく。

 ココはキサラ王国港町2丁目!

 王国内でも一二を争うガラの悪さだ。

 底辺が集まる街と言った方がいいだろう。


 これがツーブロック先の1丁目になるとがらりと雰囲気が変わる。

 そこは高級街。

 飲み屋のホステスさんの知的レベルも格段に上昇する。

 商売のトレンドや政治的な会話、はたまた男女の愛情の駆け引きまでオールラウンドのホステスさん達である。

 キサラ王国の商人たちがこぞって重要な客の接待に、この高級クラブを用いるのもうなずける。


 それに対して2丁目のホステスさん。

 客の方から話題をふっても、まるで興味なし。

 求人雑誌片手に気のない返事。

 あまつさえ、喉乾いたと勝手にドリンクを頼む始末。

 最悪である。

 それでも、底辺の男たちにとっては憩いの場所だったのだ。


 そんな2丁目でひときわ輝くのが、【クラブエルフ】である。

 ヒイロの目の前に煌々とネオンが輝いている、その店だ。

 2丁目と言うだけあって、ホステスの質は悪い。

 悪いというか、最悪の部類。

 エルフと言いながらダークエルフでも雇っているのではないだろうかと思えるぐらいに毒を吐く。

 その毒がいいんだよ!

 などと、ムツキのようなどうしようもない男が、身震いしながら、どっぷりとはまっているのだ。


 そんな店横みせよこの細い路地。

 一人の女が煙草をふかして、夜空を見上げていた。

 今日も月が悲しい表情を浮かべている。

 ヘークション!

 【クラブエルフ】の前から大きなくしゃみが聞こえてきた。

 女は、何気にその方向に目をやった。

 そこにはパンツ一丁で震える男。

 女は、また、何もなかったかのように月を見上げた。

 ココじゃ、たいして珍しくもない……いつものこと

 煙草の煙がゆっくりと夜空に昇っていく。


 ヒイロこと俺は、家路につこうと歩き出した。

 だが、よくよく考えれば、一切合切身ぐるみをはがされたのである。

 そう、家の鍵もテコイたちによって奪われたのだ。

 帰ってもドアを開けることができない。

 今の俺は、帰る場所も失っていた。

 パンツ一丁で途方に暮れる俺。

「うぅ……さみぃ……」

 港町と言うだけあって、海からの潮風が冷たい。

 夜ともなると、ぐっと気温が下がる。

 せめて、何か身にまとうものでも欲しいな……

 鼻水をすすりながら俺は歩いた。


 そんな、俺の肩にふわっと何かがかかった。

 そこには半透明の薄紫のショールがかかっていた。

「あんた……そんな恰好で歩いていたら、風邪ひくよ……」

 それは真新しい煙草の臭いを身にまとった女の声。

 見た目はアラサーのいい女であった。



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