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薫の推理

「どうしてだろう。山本が被せたのかな?」

「分からない。まだ生きているときに帽子を被った可能性も或る。どちらにしても、井戸に遺体を投げ入れたのは、雪菜と接触した後ということになるやろ」


雪菜が祖父母の家に入るのを母親は見たと思った。

だがそれは、マンションの駐車場の見間違いだったしれない。

だが、どちらにしても雪菜は一人で鋪道から左へ入った。


駐車場に、やはりマユと山本夫婦(どちらか一人かも知れない)が居たのか。

久しぶりに友達の姿を見て、嬉しくて側に行く。

その後……マユが雪菜の帽子を被り、死体となって井戸に遺棄された。


「そういう事に、なるやろ。あとから、わざわざ古井戸に遺棄しに来たとは考えられない」

「ちょっと待って、誘拐は計画的では無いんだ。マユが生きているときに雪菜と会っているとしたら。……駐車場に山本親子が居たのは偶然なのか?」

「偶然の可能性は大いに、有る。マンションを引っ越して二週間後くらいや。転送届けの間に合わなかった郵便物を取りに来て、鍵を郵便受けに投函する。退去者が退去の後、一ヶ月以内に、訪れる理由はある」

「郵便受け、有ったな。偶然雪菜ちゃんが通り掛かって……そこから、どうして雪菜の帽子を被ってマユちゃんが死ぬ展開になるんだろう」

「セイ、俺は駐車場に居たのはマユと母親やったと思う。父親も一緒に東大阪から車で来て、駐車する場所がないから、二人をマンションの前で降ろし、作業が終わった頃に、戻ってきて二人を乗せる予定やったと。……そんでな、」


母親は郵便受けの鍵を開ける。娘が(ゆきなちゃん)と呼ぶ声を背中で聞く。

振り向けば(雪菜)が居た。

水色のリボンの付いた紺色の帽子。

紺色のジャケット。

A大学附属幼稚園の制服だと分かる。


再び子供達に背中を向け、作業を続ける。

終わって振り向けば子供達が居ない。


(かわいい、ぼうし、いいなあ、)

(かしてあげる、ね)

(いいの?)


幼い子供達のやりとりはがあったとしたら?

可愛い帽子が雪菜の頭からマユの頭へ移動していたとしたら?


辺りは薄暗い。

街灯が一斉に灯る。その光の届かない、駐輪場の奥に、子供の陰を見つける。

辺りには誰も居ない。


水色のリボンが見える。

あれは、古井戸の上ではないか。

自分でもなぜだか分からないが、静かに近づく。

水色のリボンが、手を伸ばせば届く位置に或る。

竹の蓋は半分めくれている。

子供が、蓋を開けたのか?

危ないのに。

 この井戸はとても深くて、そこには小石と泥が詰まっている。

 (ゆきなちゃん、危ないわよ。今、誰かに頭を押されたら、落ちて、しまう)

 そう、頭から落ちて即死。

 誰も見ていない。

 蓋をしたらオシマイ。

 永遠に見つからないかもしれないよ。


「魔が差して、帽子に、手をかけてしまった。井戸を覗き込んでいる頭を、とん、と押した。三才や。大人と違う。頭が大きい。するっと、落ちたと思うで」

「雪菜を、殺したつもりだった訳?……動機は、なんだと? 」


「妬み、程度かもしれない。殺したいと常々考えていた程では無くても、完全犯罪の条件が揃っていると、心に巣くっていた悪魔が囁いた」


 指紋が付かぬモノで蓋を閉める。

 丁度、クラクションが聞こえる。

 夫が車を停めている。

 あ、マユはどこ?


 井戸から少し離れた、暗い処でしゃがんでいる小さな陰。

(早く、乗って)

 夫が窓を開けて言っている。

 車のライトが眩しい。

 急いで、<娘>を抱えて、後部座席に乗り込む。

 母親はぼんやりと、窓の外に目をやっている。

 

 夫が話しかけても、心此処にあらず。答えはしない。

(おい、どうした?)

 夫はルームミラーで妻の顔を見る。

 そして、

 

 妻が抱いているのが、娘では無いと、気がつく……。




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