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【アニメーションMV有】最弱アイテム士は世界を科学する〜最弱の職業と呼ばれ誰にも期待されなかったけれど、気づけば現代知識で異世界の常識を変え無双していました〜  作者: 東雲 寛則
第2章 ヴァルハラ帝国編

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97話 信用の意味

挿絵(By みてみん)

 待ち合わせ場所となっていた噴水広場で、大輔とさくらが佇んでいた。

 2人の足元では、るなが尻尾を揺らしながら寝そべっている。噴水から零れ落ちる水音が、夜の空気に心地よく溶け込んでいた。


「涼介、遅かったな」

 美咲たちの姿を見つけて大輔が声をかける。その表情には、心配と安堵が混ざっていた。

「遅い」

 さくらの言葉は短いが、その声には僅かな安心が滲んでいる。るなも「きゅう」と小さな鳴き声を上げた。


「ごめんなさい、色々あって...」

 美咲が申し訳なさそうに答える。その言葉の重みに、大輔は眉をひそめた。何かあったのは明らかだった。


「誰?」

 さくらの鋭い視線が、デミットに向けられる。

 商人の街とはいえ、この時間に見知らぬ男性が同行しているのは不自然だった。

 デミットは一歩前に出ると、優雅な仕草で軽く会釈をした。月明かりに照らされた彼の立ち姿は、まるで舞台上の役者のように洗練されている。


「これは失礼を。私はデミット・ラスコーリ、武器ギルド長であるゴルビン・ラスコーリの一子でギルド長補佐もしております」

 その自己紹介は、完璧な作法で行われた。噴水の水音さえも、その優雅な雰囲気を邪魔することはできない。


「それでギルド長補佐がどういったご用件でここに?」

 大輔が冷静に尋ねる。

「まさか迷子を連れてきた訳じゃないんでしょう?」

 その言葉には、わずかな警戒心が込められていた。


 デミットは優しく微笑んだ。

「もちろんでございます。立ち話もなんですから、私の行きつけの店で食事でもしながら、お話はいかがですか?」

 彼は右手を胸元に当て、軽く前かがみになる。


「いいねー気が利くじゃん」

「失礼よ、千夏」

 美咲が軽く諫めるが、千夏は全く気にする様子もない。むしろ、デミットの紳士的な態度に、すっかり警戒心を解いているようだった。


「事情は話す、2人とも来てくれ」

 涼介の声が、夜風に乗って響く。


 大輔とさくらは顔を見合わせ、静かに頷いた。


 デミットの案内で入った酒場は、「夕闇の灯火亭」と呼ばれる店だった。

 厚い木の扉を開けると、温かな明かりと料理の香りが漂ってくる。店内は予想以上に広く、天井が高い。壁には世界各地の地図や武具が飾られ、冒険者たちの憩いの場という雰囲気を醸し出していた。


「お待ちしておりました、デミット様」

 店主が丁寧に一行を案内する。窓際の大きなテーブルには、既に料理が並べられていた。

「これは...」

 美咲は目の前に広がる料理の数々に息を呑んだ。


 まず目に飛び込んできたのは、深紅の汁に浮かぶ「山角獣の尾肉スープ」。山角獣は高地に生息する大型の牛に似た獣で、その尾の部分は特に美味とされる。スパイシーな香辛料と共に立ち昇る湯気が、食欲をそそる。

 その隣には「青羽鳥の包み焼」が盛られていた。外側は黄金色に焼き上がり、中には高山に生息する青羽鳥の肉が詰められている。青羽鳥は寒冷地に住む大型の鳥で、その肉には爽やかな清涼感があるという。

「岩背豚の炙り焼き 大地の実添え」は、硬い外皮を持つ岩背豚の背肉を丁寧に炙り、大地の実と呼ばれる香り高い豆と共に供される一品。岩背豚は岩場に生息する珍しい豚で、その肉は驚くほど柔らかいことで知られる。


「すごい...」

 千夏は既に箸を手に取り、目を輝かせている。さくらも普段の冷静さを忘れたかのように、料理に見入っていた。るなにも特別に用意された皿が床に置かれ、嬉しそうに尻尾を振っている。

 一行は早速、それぞれに舌鼓をうった。


「...という訳だ」

 涼介が、ゴルビンとの話を大輔に説明し終えた頃には、テーブルの上の料理は半分ほどになっていた。

「なるほどな」大輔が腕を組む。

「で、俺たちはどうすればいいんだ?」

 彼の視線は、デミットに向けられていた。その目には依然として警戒の色が残っている。むしろ大輔の直感は、このデミットという男を信用するなと警告を発していた。


 デミットは静かに口を開く。

「それではお答えしましょう。信用を示すには行動あるのみ、かと思います」

 彼は「氷精のブリヌイ」を丁寧に切り分けながら続ける。


「金銭を集めるのも信用を得られる行動の一つかと思いますが、ギルド長の心を動かすのは並大抵の額では無理でしょう。何せ国民の生命や財産がかかっていますからね」

 その言葉に、美咲と大輔が頷く。涼介は無言で足を組んだまま、じっと考え込んでいる。


「ならばこの国に有益な事をするのです」デミットは続ける。

「それも命を懸けて、誰も出来なかった事を」


「具体的には何をすれば良いのでしょうか?」

 美咲が尋ねる。

「私では分かりません。しかしそれを知っている人なら居ます」

「...誰だ」

 涼介の声が低く響く。


 デミットは相変わらずの笑顔を崩さずに答えた。

「冒険者ギルドですよ」

「冒険者ギルド?」

 大輔が聞き返す。


「はい」デミットは優雅にナプキンで口を拭いながら説明を続ける。

「冒険者ギルドには様々な依頼が来ます。その中には国を挙げて対処をしている物や、複数の国家間で問題視しているような案件もあります。もしこれらを解決出来れば十分な信用が得られると考えます」

「なるほどな...」

 大輔が考え込む。彼の頭の中では、(かなり危険な行為になる、どうする?)という思考が巡っていた。


「わかった、冒険者ギルドはどこだ」

 涼介の決断に、大輔は驚きの表情を見せる。

「おい、決めちまっていいのか」

「それ以外に方法があるのか?」

 涼介の眼差しは真剣そのものだった。決して軽い決断ではないことが、その表情から窺える。


「面白そうじゃん」

 千夏が「岩背豚の炙り焼き」を頬張りながら割って入る。


「冒険者ギルドはこの酒場の隣ですよ」

 デミットの言葉に、美咲は思わず目を見開いた。

(最初から決められていたんだ...)

 その用意周到さに、彼女は舌を巻くしかなかった。

「食事が終わりましたら行きましょう」

 デミットの言葉は、美咲たちを更に過酷な運命へ誘うための標だった。

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