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【アニメーションMV有】最弱アイテム士は世界を科学する〜最弱の職業と呼ばれ誰にも期待されなかったけれど、気づけば現代知識で異世界の常識を変え無双していました〜  作者: 東雲 寛則
第2章 ヴァルハラ帝国編

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95話 アストラリア王国の願い

挿絵(By みてみん)

「無理...とはどういう事だ。俺たちに教える事はないと、いう意味で合っているか」


 涼介の声が、重く沈んだ空気を切り裂く。窓の外では夕暮れが深まりつつあり、橙色に染まった空が次第に紫がかった色に変わり始めていた。

 薄暮の中、涼介とゴルビンの間で、本当に火花が散るように見えるほどの緊張が漂っていた。


 デミットは手早く状況を打開しようと立ち上がった。

「失礼、灯りを付けます」

 彼は慣れた手つきで、部屋に設置された数々のランプに魔力を送っていく。

 淡い青白い光が、一つまた一つと部屋を照らし始めた。これらのランプは、この世界では一般的な魔導具の一つだ。中には発光石が組み込まれており、わずかな魔力を送り込むだけで長時間安定した光を放つ。ダンジョンの深部でさえ、この発光石のおかげで探索に必要な光量を確保できる。魔力を帯びた鉱石は、文明の発展に欠かせない存在となっていた。


 部屋が徐々に明るくなっていく中、ゴルビンの表情が一層険しさを増す。

「お前らマジで終わってんな」

 その言葉は、まるで氷の矢のように鋭く突き刺さった。


「なっ!?」

 さすがの美咲も、この暴言には声を上げずにはいられなかった。

「父上!」

 デミットが慌てて制止の声を上げる。

「勇者様に対し、流石に礼を失すると思いますよ!」

「礼儀がなってねえのはこいつらだろうが!」

 ゴルビンの拳が机を強く打つ。重厚な黒檀の机が、その衝撃で軋むような音を立てた。


「おっさん!どういう事か説明してくんない?」

 千夏が前のめりになって叫ぶ。涼介を侮辱されたことで、彼女の目は普段の可愛らしさを失い、鋭い光を宿していた。

「千夏、落ち着いて!」

 美咲は咄嗟に千夏の腕を掴む。このまま事態が悪化すれば、取り返しのつかない事になりかねない。


 ゴルビンは立ち上がると、両手を机について前傾姿勢になった。その体勢は、まるで猛獣が獲物に襲いかかる直前のようだった。

「お前らいい武器を探してるんだってな?」

 その声は低く、しかし部屋中に響き渡る。

「今装備してるのは何かわかってんのか?」


 美咲は思わず考え込んだ。

(そう言えば...)

 新緑の試練洞窟に向かう前に支給された装備だったはずだ。当時は訓練用の備品程度にしか考えていなかった。性能も、詳しい説明も受けていなかった。

「お前らはわかっちゃいねぇ」

 ゴルビンの声が轟く。

「全身ミスリルの装備だ。どこへ行っても最上級の装備として扱われる代物だ」

 その言葉に、美咲は目を見開いた。ミスリル。伝説の金属と呼ばれる希少な素材。その価値は金の何倍にも及ぶと言われている。


「まぁ魔力は付与されていないようだが、それでもミスリルの効果でダメージ軽減、体制付与、耐久劣化軽減。おまけに攻撃力はとんでもなく高い」

 ゴルビンは指を折りながら説明を続ける。

「どこにそれ以上の装備を売っている店がある?」


 美咲は、自分の杖を見つめた。訓練用の初期装備だと思っていたそれは、実は最上級の魔具だったのだ。アストラリア王国は自分達を守るために、惜しみない支援をしていた。それを理解せず、軽々しく扱ってしまった自分たちの無知。

(申し訳ない...)

 美咲は顔を伏せた。エドガー王への謝罪の念と、ゴルビンへの恥じらいで胸が潰れそうになる。

 今ここに穴があったら入りたい。いや、自分の得意な土系魔法で本当に穴を作ってしまいたいとさえ思った。


「それで?」

 涼介の声が、静かに、しかし確かな力を持って響く。美咲は思わず息を呑んだ。

「俺たちはこの世界を救う」

 涼介はゆっくりと立ち上がった。

「お前らの態度を見ればわかるぞ。別に俺たちの装備がこの世界で最高のものじゃないんだろ?さっき魔力の付与がどうたらって言ってたしな」

 彼の声は決して大きくはなかった。しかし、その一言一言には重みがあった。

「俺たちはこの世界の人間が全て集まったより強くならなきゃいけない。この世界の誰も出来なかった、『闇を終わらる』ためにな」

 その言葉には、まるで物理的な重さがあるように感じられた。ゴルビンの威圧的な態度さえも霞ませるような、純粋な意志の力が込められていた。


「へっ、言うじゃねえか若造が!」

 ゴルビンの口元が歪む。


「確かにあるぜ、ミスリル以上の武器がな。なら代価を払えるのかお前に!」

 その声は挑発的で、もはや商談ではなく喧嘩のようだった。ランプの青白い光が、二人の緊張した表情を浮かび上がらせる。


 涼介は無言で、王から託された金貨の入った袋を円卓に置いた。重みのある音が、静かな部屋に響く。

「確認しろ!」

 ゴルビンの一声に、デミットが静かに頷く。

 彼は慎重に袋を開き、一枚一枚丁寧に金貨を数え始めた。その手つきには無駄な動きが一切ない。


「父上、金貨80枚です」

「はっ、それじゃおめえらの持っている武器ひとつ買えねえな!」


 その言葉に、美咲は息を呑んだ。

(そんな...私たちの装備が、そこまで価値のあるものだったなんて)

 今まで何気なく使っていた杖を、改めて見つめる。その一本だけでも、この袋の金貨を超える価値があるというのか。自分たちの認識の甘さに、胸が締め付けられる思いがした。


「国王様とは友達なんでしょ!まけてくれればいいじゃん!」

 千夏の声が響く。その声には、どこか子供じみた焦りが混じっていた。

「友達...」

 ゴルビンは言葉を噛みしめるように繰り返す。

「じゃねぇが同盟は結んでるな。でもな」

 彼の表情が一層厳しさを増す。


「ミスリル以上の武器は国防に係るもんだ!おいそれと売買できるもんじゃねえんだよ」

 ゴルビンは立ち上がり、窓際まで歩いていく。夜の闇が深まりつつある街並みを見下ろしながら、彼は続けた。

「アストラリア王国は今、壊滅の危機に瀕してるよな?一方的に助けてたら共倒れだ」


 そして、ゆっくりと振り返る。その目には鋭い光が宿っていた。

「お前らだって自分の身に危険が迫ったら、友達だって見捨てるだろうが!」


「私たちはそんな事しない!」

 千夏の声が悲鳴のように響く。

「どんなことがあっても仲間は守る!涼介は勇者なんだからっ!」

 彼女の瞳には、大粒の涙が光っていた。


 その言葉に、美咲は顔を真っ青にして俯いた。涼介もまた、固く口を閉ざしている。

 二人の脳裏に、同じ光景が浮かんでいた。

 あの日の王都。スタンピードの危機が迫る中、彼らは遥斗を置いて旅立った。友を、仲間を、その場に残して。


 千夏の必死の叫びは、その事実の前では余りにも空虚に響く。

 部屋の空気が凍りついた。ランプの光も、まるで彼らの罪を照らし出すかのように、冷たく感じられた。


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