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【アニメーションMV有】最弱アイテム士は世界を科学する〜最弱の職業と呼ばれ誰にも期待されなかったけれど、気づけば現代知識で異世界の常識を変え無双していました〜  作者: 東雲 寛則
第2章 ヴァルハラ帝国編

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92話 アルマグラードへ

挿絵(By みてみん)

 草原の向こうに、白い街が見えてきた。赤レンガの城壁が夕陽に染まり、まるで炎の輪のように街を取り囲んでいる。大輔が馬車の窓から身を乗り出し、嬉しそうに声を上げた。


「やっと辿りついたぞーーー」

 美咲は目を凝らして街を見つめた。ノヴァテラ連邦の首都アルマグラード。武器商人の街。フロンティを出発してからの長い道のりを思い出す。

 旅は、エドガー王からの紹介状のおかげで快適なものだった。各地の関所では、VIPルームで休息を取らせてもらい、豪華な食事まで振る舞われた。

(王様の影響力って、本当に凄かった...)


 金貨の入った小袋は、手付かずで重たいままだった。使う機会すらなかったのだ。

 直行便と言われる馬車は確かに速く、美咲たち一行を運んでくれた。しかし、その分だけ揺れも激しい。長椅子に座る千夏が、大きなため息と共に不満を漏らした。


「やっと?もう体中ガタガタなんですけど。やすみたーい」


 彼女の声には不満と疲れが滲んでいた。確かに、三日間の馬車での移動は、誰にとっても楽なものではない。


「回復魔法使えばいい」

 さくらが淡々とした口調で言った。膝の上で「るな」が「きゅーん」と可愛らしく鳴き、その言葉に同意するかのようだった。銀色の狐の毛並みは、主の丁寧なブラッシングのおかげで輝きを増していた。


「そういう事じゃないの!キモチの問題よ、キモチの!」

 千夏の声が一段と大きくなり、馬車の中に響き渡る。美咲は思わず微笑んだ。疲れているのに、相変わらずエネルギッシュな千夏。その様子は、むしろ彼女の元気の証だった。


「もう少しで着くから我慢しましょ?この馬車だってかなり無理を聞いてくれたんだから、ね?」

 美咲が優しく諭すように言うと、千夏は「うー」と唸りながらも大人しくなった。


 街並みがより鮮明に見えてきた頃、涼介が真剣な面持ちで切り出した。

「街に着いたら武器屋を探そう、結局今の所、手持ちの武器以上のものは無かったからな」

 その言葉に大輔が眉をひそめる。長旅の疲れか、普段より少しイライラしているようだった。


「すぐにか?先に宿屋を見つけるべきじゃないか」

「先に武器屋探した方がいいって、武・器・屋。売切れたら困るじゃん」

 千夏が疲れも忘れたように勢いよく言う。涼介の意見には、いつも真っ先に賛同する彼女だった。


「休みたいって言ってたのは誰?」

 さくらの小さな呟きが、馬車の揺れる音に紛れて聞こえてきた。

「えっ、何か言った?」

「...別に」

 険悪な空気が流れ始めるのを感じ、美咲は急いで提案した。こんな時は、誰かが間に入らなければならない。それは、いつも彼女の役目だった。

「なら2手に別れて宿屋と武器屋探すのはどうかな?」

「いいねー美咲。私は賛成だよ!涼介もいいよね!」

 千夏の声が馬車の中で弾んだ。その明るい声に、少し重くなっていた空気が払われる。


 涼介は既に街の方を見つめ、瞳の奥で何かを探っているようだった。武器を求める彼の眼差しは、まるで獲物を追う狩人のように鋭い。

「...ああ、そうだな、その方が効率的だ。全員で武器屋を探しても意味ないしな」


「俺も異存はない、さくらはどうする?」

 大輔が声をかける。その声には、さりげない気遣いが込められていた。

「宿屋組」

 さくらの返事は素っ気なかったが、るなが嬉しそうに尻尾を振る。

「そうか、なら一緒だな」

 大輔が頷き、さくらも小さく頷き返した。


「美咲はどうする?」

 大輔の問いかけに、美咲は少し考えを巡らせた。

「私は武器屋組に行くわ。途中までだけど」

「そっか、魔導書探してたもんな」

「うん」

 馬車の揺れに身を任せながら、美咲は自分の目的を改めて考えていた。

 マジックキャスターである彼女には、まだ見ぬ可能性が眠っている。魔法を習得する道は二つ。一つは自らの内に秘めた力を、レベルを上げることで解放していく方法。そしてもう一つが、魔導書から新たな力を得る方法だった。


(この世界の多くの人は、みんな同じように魔法を使える。でも、攻撃魔法と特殊魔法は違う...)


 確かにこの世界では、魔法は珍しいものではない。しかし、美咲のように強力な攻撃魔法や、特殊な魔法を操れる者は極めて稀少だ。人智を超えた破壊力を持つ攻撃魔法は、時として軍事力にも匹敵する。それ故、どの国もマジックキャスターを手厚く保護し、その能力の研究に力を注いでいる。


 その研究の成果の一つが「魔導書」だった。

 美咲は自分の特殊性を改めて噛み締めた。通常、魔法を使う職業の者が、潜在能力として持てる魔法の系統は最大でも三つまで。しかし彼女は、五つもの系統を操ることができる。それは紛れもない天賦の才だった。


(...それじゃ足りないんだ)


 その答えが「魔導書」にある。古の魔法使いたちの知識が詰まった魔導書は、使用者の魂に直接、新たな魔法の系統を刻み付ける。それは単なる知識の伝達ではない。魔法使いとしての新たな可能性を、魂そのものに刻む神秘の行為なのだ。

 美咲が今、求めているのは「空間魔法」。場所と場所を繋ぎ、瞬時に距離を超える力。移動手段の限られたこの世界では、それは比類なき価値を持つ。商人たちが、軍が、そして冒険者たちが、血眼になって探し求める魔法。


(でも、魔導書は誰にでも使えるわけじゃない)

 魔導書は選ぶ。使い手を、心を、魂を。

 まさに選ばれし者のみが、その力を受け継ぐことができる。

 美咲は自分の杖を見つめた。火と雷、風と水と土。五つの系統を操る彼女の才能は、確かにこの世界で貴重な物だろう。しかし、その先にある可能性を掴むために、彼女は新たな一歩を踏み出そうとしていた。


(空間魔法...私を選んでほしい)

 アルマグラードの街並みが近づくにつれ、その思いは強さを増していった。

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