表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【アニメーションMV有】最弱アイテム士は世界を科学する〜最弱の職業と呼ばれ誰にも期待されなかったけれど、気づけば現代知識で異世界の常識を変え無双していました〜  作者: 東雲 寛則
第2章 ヴァルハラ帝国編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

86/512

86話 デュラハン・ナイトメア(4)

挿絵(By みてみん)

 遥斗はデュラハン・ナイトメアの戦いを見つめながら、頭上の大蝙蝠を睨む。

(グリフォンガードなら、あの大蝙蝠を倒せるかもしれない...)


 しかし、その考えは即座に打ち消される。

 眼前では凄まじい戦いが繰り広げられていた。


 マーガスの剣が閃く。

「はぁっ!」

 銀の刃が、デュラハン・ナイトメアの腕を狙う。

 だが、レクイエムを逆手に持ち替え、瞬時にガードし弾き返す。


「破っ!」

 アディラウスがその隙を突く。無数の斬撃を繰り出すが、ソウルリーヴァーがすべてを受け止め、その攻撃を封じ込める。


「グォォォ!」

 グリフォンガードの鋭い爪で引き裂こうとするが、もう1本のレクイエムが完璧に防ぎきる。

 さらにEフォートレスを押し付け死角を作り、レクイエムで首を切断しようとするが、間一髪のけぞり斬撃を躱す。

 しかし、そのままの勢いで回転し、今度はマーガスの胴を狙う。


 マーガスは「加速のポーション」でスピードだけではなく、思考速度や動体視力も上昇している。

 何とか太刀筋を見切ることが出来ていたおかげで、銀の剣でその攻撃を受け止めた。

 しかし衝撃で後方に吹き飛ばされる。


 地面に衝突し一瞬目を閉じてしまったマーガス。空中に舞い上がったデュラハン・ナイトメアのソウルリーヴァーが狙いを定めていた。

 いち早く危険を察知したアディラウスが、マーガスを蹴り飛ばし攻撃の範囲から脱出させる。

 その勢いを利用して体制を立て直すマーガス。

 アディラウスも蹴った反動を利用して、ソウルリーヴァーの射程より外に退避する。


 遥斗は息を呑む。

 目の前で繰り広げられる戦いは、もはや人智を超えた領域にあった。


 マーガスが右上段から斬りかかると同時に、アディラウスが下段から突きを繰り出す。

 完璧な連携。しかし、デュラハン・ナイトメアの四本の腕は、それさえも想定内であるかのように対応する。

 グリフォンガードの爪が閃くも、それはEフォートレスに阻まれ、即座にソウルリーヴァーの反撃に晒される。


(今の状況は...ギリギリのバランスで保たれている)

 遥斗は歯噛みする。

(もしグリフォンガードが抜ければ、一瞬でバランスは崩れる。2人は...生きてはいないだろう)


 しかし、遥斗は自分がグリフォンガードの代わりになれないことも痛いほど理解していた。

 決意が固まる。

(やっぱり僕がやるしかない!)


 魔力銃を構える両手に力が入る。

「ファイア!」

 今度は意図的に的を散らして四連射。ランダムショットで大蝙蝠を追い詰めようとする。


 しかし、それすらも完璧に回避される。

「くそっ!」

 遥斗は再び魔力銃に弾を込める。


(何とか動きを止めないと...!)

 左手の握りこぶしを大蝙蝠に向ける。

 中指には、遥斗には似つかわしくない装飾品―ルシウスから預かった「ジンの指輪」が輝いていた。


 エメラルドの宝石が埋め込まれたその指輪に、遥斗は魔力を注ぎ込む。

 赤い光がエメラルドから漏れ出す。


 遥斗は空気の流れをイメージする。頭の中で竜巻の形が結ばれていく。

 大蝙蝠の周囲の空気が、ゆっくりと回転を始める。

 その速度は徐々に上がり、次第に目に見える竜巻となっていく。


「今だ!」

 遥斗は魔力銃を連射する。

 しかし、大蝙蝠の動きは止まらない。


(そうか...!翼で飛んでいるんじゃない。周囲の空気を魔力で捕まえて噴射している...)

 その推進力は、通常の生物とは比べ物にならなかった。


「だめだ、他の方法を...」

 遥斗が再び眼前の戦いを見た時、彼の心臓は凍りついた。


 血まみれになりながら戦うマーガスとアディラウス。

 その動きは既に限界を超え、意識が朦朧としながらも死に物狂いで剣を振るっていた。


 グリフォンガードの状態はさらに深刻だった。

 両翼を切断されながらも、主人を守ろうと狂ったように戦い続けている。

 その光景に、遥斗の心が締め付けられる。


(だめだ!このままじゃ...!)

 デュラハン・ナイトメアの放つ斬撃の一撃一撃が、確実に彼らの命を削っていく。


(だめだ!だめだ!だめだ!)


 遥斗の心に怒りが渦巻く。目の前で友人たちが血を流し、傷つき、そして命を削られていく。

 その光景に、遥斗の理性が揺らぐ。


(させない!させない!させない!)

 怒りは、無力な自分自身へと向けられる。

 ただ見ているしかできない。ただ助けを求めるしかできない。

 そんな自分への憤怒が、心を焦がしていく。


(許さない!許さない!許さない!)

 遥斗の怒りは、この不条理な状況そのものに向けられていた。


 遥斗の心は静かに、深く、そしてゆっくりと沈んでいった。

 茶色がかった遥斗の瞳が、漆黒へと染まっていく。

 その瞳には、もはや迷いの色は微塵も残っていなかった。


 遥斗は無言で魔力銃に弾を込める。

 そして再び、ルシウスから預かった「ジンの指輪」を大蝙蝠に向ける。


「キキキキ」

 大蝙蝠が、まるで遥斗の行動を嘲笑うかのように鳴く。

 しかし、遥斗の表情は変わらない。

 ジンの指輪が魔力を帯び、不気味な光を放つ。


 その瞬間―

「キィ!?」

 大蝙蝠が突如として、地面へと真っ逆さまに落下を始める。

 何が起きたのか状況を把握しようとする大蝙蝠。

 しかし、その胴体には既に三つの穴が空いていた。


 魔力銃から立ち上る紫煙が、月明かりに照らされて幻想的な光景を作り出す。

 大蝙蝠は何が起きたのかを理解する間もなく、光の粒子となって夜風に消えていった。


「真空では飛べないの知らないかな?」

 遥斗の呟きが、静かに夜に溶けていく。


 彼はジンの指輪で風を操作したのではなかった。

 空気そのものを操り、大蝙蝠の直下に真空地帯を作り出したのだ。


 飛行不能に陥った瞬間を狙っての、完璧な狙撃だった。

 その時、強烈な敵意が込められた視線を感じ、遥斗は振り返る。


「頭が無いのに器用だね」

 軽口を叩く遥斗の目の前には、デュラハン・ナイトメアが佇んでいた。

 その漆黒の鎧からは、これまでとは比べものにならない殺気が放たれている。


 まるで深淵そのものが具現化したかのような、底知れぬ闇の気配。

 月光の下、遥斗とデュラハン・ナイトメアが対峙する。

 決着の刻は迫っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ