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【アニメーションMV有】最弱アイテム士は世界を科学する〜最弱の職業と呼ばれ誰にも期待されなかったけれど、気づけば現代知識で異世界の常識を変え無双していました〜  作者: 東雲 寛則
第2章 ヴァルハラ帝国編

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85話 デュラハン・ナイトメア(3)

挿絵(By みてみん)

 アディラウスの体を包んでいた青白い光が、力を失い消えていく。

 ファストアクセルの効果が切れたのだ。


「ファストアクセル!」

 試すように詠唱するも、予想通り魔法は発動しない。


「やはりダメか...覚悟を決めねばならんな」

 アディラウスの呟きには、重い決意が滲んでいた。


 絶望が戦場を支配していく中、遥斗の思考だけは加速を続けていた。


(魔法とスキルは使えない。でも、グリフォンガードの魔力攻撃は?アイテムの使用は?)

 遥斗は自身のマジックバックの中身を頭の中で確認する。

(加速のポーションがあと2本...ここで使った方がいいの?でも、もし効果がなかったら...)


 デュラハン・ナイトメアが再び剣を構える。

 漆黒の鎧から放たれる剣気が、まるで実体を持つかのように膨れ上がっていく。


「この構え...!」

 マーガスの声に驚愕が見える。


「ザシュッッッ!」

 デュラハン・ナイトメアの放つ斬撃が、音声なき言葉で雄弁に死を語る。


「そんな...スキルが使えるなんて!」

 遥斗の驚愕の声が響く。それを認識は出来たが、あまりに遅かった。


 閃光が走る。

 十字を描く斬撃が、音速にも匹敵する速度で襲いかかってくる。

 全員が反射的に回避行動を取る。しかし、その速度は人知を超えていた。


「ぐわっ!」

 アディラウスの左腕が、まるで紙を切るように両断される。


「熱っ!」

 遥斗の右足も、足首から下が消し飛んでいた。その感覚は痛みというよりも、焼けた鉄を押し付けられたような錯覚を伴うものだった。


(このままじゃまずい...動けなくなる!)

 遥斗は咄嗟にマジックバックから上級HP回復ポーションを取り出す。


(頼む、効いてくれ!)

 祈るような思いでポーションを飲み干す。

 すると、焼けるような感覚が消え失せ、切断された右足が光の粒子となって再生していく。

(やった!アイテムは使える!)

 遥斗の目が光る。

(そうか、魔道具もアイテムの一種だから結界の影響を受けないんだ。なら、魔力銃は使えるはず)


 同時に不吉な閃きが、遥斗の脳裏を走る。

(やられた...!奴の武器は全て魔道具だ!この状況下で全く戦力が落ちていない)

 思考を巡らせながらも、遥斗は即座に次の行動に移る。

 上級HP回復ポーションと加速のポーションを手に、アディラウスの元へと駆け出す。


 その動きを見逃さず、デュラハン・ナイトメアが遥斗に疾駆する。その姿は、命を刈り取る悪魔の影そのものだった。

 しかし―


「グォォォォ!」

 轟音と共に、グリフォンガードが立ちはだかる。

 鋭い爪が閃くも、それはラージシールドに阻まれる。


「はぁっ!」

 グリフォンガードの背後からマーガスの剣が閃く。しかし、その一撃もレクイエムによって易々と弾かれる。


 だが、その僅かな時間で遥斗はアディラウスの元に辿り着いていた。

 上級HP回復ポーションが光を放ち、切断された左腕が再生される。

「これを!」

 遥斗は加速のポーションを差し出す。

「これは?」

「加速のポーションです。マーガスにも渡してください!」

 アディラウスは一瞬で遥斗の意図を理解し、静かに頷く。


 彼はポーションを受け取ると、一気に飲み干す。

 光に包まれたアディラウスは、沸き上がる力を感じていた。


 そして躊躇なくデュラハン・ナイトメアへと突進する。

 その速度は、先ほどのファストアクセル以上だった。


 アディラウスがマーガスとグリフォンガードの戦線に合流する。

 その剣筋には、以前にも増して鋭さが宿っていた。


「はぁはぁ...大丈夫ですか!」

 激しい息遣いと共にマーガスが声をかける。わずか数十秒の戦いで、既に何度も死線を潜り抜けてきた証だった。


「ああ、遥斗殿のおかげだ!」

 アディラウスの返答に、マーガスの胸に温かいものが広がる。

 かつては"特別扱いの異世界人"としか見ていなかった遥斗への感情が、確かな信頼へと変化していくのを感じていた。


「マーガス殿!これを」

 アディラウスが加速のポーションを差し出す。

「遥斗殿からです!」

 その言葉と共に、アディラウスが再びデュラハン・ナイトメアへと斬りかかる。


 マーガスは躊躇なくポーションを飲み干す。すると、体中に力が湧き上がってくるのを感じた。

(あのやろう...粋なことを...)

 思わず口元が緩む。遥斗の気遣いが、確かに心に響いていた。


 アディラウスの攻撃に呼応するように、マーガスも切り込んでいく。

 二人の繰り出す剣撃は、もはや目で追えないほどの速さだった。


 しかし―

 デュラハン・ナイトメアは一歩も動かない。四本の腕が舞い、全ての攻撃を完璧に受け止めていく。


 ソウルリーヴァーが輝き、そこから放つ無数の突きが、スコールのように降り注ぐ。

 その一撃一撃が、致命傷となりうる威力を秘めていた。


 2人を救うために後方からのグリフォンガードが飛び掛かる。が、それもEフォートレスによって易々と防がれる。


(状況はまるで良くなっていない...)

 遥斗は冷静に分析する。

(僕達は紙一重で生き延びているに過ぎない)


 魔力銃をリロードしながら、遥斗は頭上の大蝙蝠を睨みつける。

(あの鎧のダークレゾナンスを増幅し、拡散しているのはアイツだ。アレさえ打ち落とせれば...!)


 かなりの距離があったが、遥斗は迷わず魔力銃を四連射する。

 しかし、命中を確信した瞬間、大蝙蝠は優雅に回避していた。


(そうか...蝙蝠は超音波で周囲を把握している。こいつも360度の視界を持っているってことか)

 その完璧な防御に、遥斗は一瞬たじろぐ。


 しかし、諦める気は毛頭なかった。

 目の前で必死に戦う仲間たちの姿が、彼の覚悟を支えていた。

「リロード...」

 静かに呟きながら、遥斗は再び弾を込めていく。

 その瞳には、決して消えることのない闘志が宿っていた。

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