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【アニメーションMV有】最弱アイテム士は世界を科学する〜最弱の職業と呼ばれ誰にも期待されなかったけれど、気づけば現代知識で異世界の常識を変え無双していました〜  作者: 東雲 寛則
第2章 ヴァルハラ帝国編

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83話 デュラハン・ナイトメア(1)

挿絵(By みてみん)

 月光の下、漆黒のマントをはためかせるデュラハン・ナイトメアの姿は、まさに死の具現であった。

 その存在感に畏れをなしたのか、周囲のアンデッドたちは一斉に後退していく。彼らでさえ、その戦力の凄まじさを理解しているかのようだった。


(アンデッドたちが下がった...あれがあの鎧の攻撃範囲か)

 遥斗は冷静に状況を分析する。しかし、その額には既に冷や汗が浮かんでいた。


 デュラハン・ナイトメアの四本の腕が、それぞれに持つ武器を微かに動かす。その所作には無駄が一切なく、何百年もの戦いを潜り抜けてきた者のみが持ち得る、研ぎ澄まされた技が感じられた。


「オーラブレイド!」

 戦いの火蓋を切ったのはマーガスだった。彼の声が空気を震わせる、銀の剣が青白い光を帯びる。


「この距離からなら...!」

 地を蹴る音が響き、マーガスの体が宙を舞う。


(空中から上段からの一撃!いける!)

 遥斗の分析が頭をよぎる。しかし、次の瞬間、その読みは完全に覆された。


「この一撃で...!」

 マーガスは渾身の力を込めて剣を振り下ろす。アンデッドに効果的な銀の剣に、魔法の威力が加わった必殺の一撃。

 その一撃は、デュラハン・ナイトメアの剣ごと両断するはずだった。


 キィィィン!


 甲高い金属音が、夜の静寂を引き裂く。

「なっ!」

 マーガスの動揺の声が漏れる。

 デュラハン・ナイトメアは左上腕の剣を僅かに動かしただけで、まるで初心者の攻撃を受け止めるように剣で受けた。


 その瞬間、デュラハン・ナイトメアの右下腕が流れるように動く。その剣先には、果てない殺意が込められていた。

 マーガスの意識が、奇妙な感覚に支配される。

 全ての物がスローモーションのように見えた。しかし、それは死の予兆でしかなかった。


(ああ、これが死の瞬間か...)

 デュラハン・ナイトメアの剣が、ゆっくりとマーガスの首筋へと向かう。


「流水の太刀!」


 一条の光が閃く。アディラウスの姿が、まるで幻のように現れる。

 その剣は日本の剣術を思わせる中段からの一撃。デュラハン・ナイトメアの胴を狙う、鮮やかな太刀筋だった。


 しかし、マーガスを狙っていた剣が、まるで意思を持つかのように縦方向へと変化する。アディラウスの攻撃を、完璧なタイミングで受け止めた。

 さらに、右上腕の槍が、アディラウスを串刺しにせんと狙いを定める。


「くっ!」

 アディラウスの顔が苦悶に歪む。


「ファイア!」


 遥斗の声が響く。

 魔力銃から放たれた弾丸は、デュラハン・ナイトメアの左下腕が持つラージシールドに阻まれる。


 しかし、その一瞬の攻撃が、マーガスとアディラウスに生還のチャンスを与えた。二人は死地の間合いから素早く後退する。


「助かりました!遥斗殿!」

 アディラウスの感謝の声が響く。しかし、遥斗の表情は暗かった。

(今のは単に手の内を読まれていなかっただけだ。次は...ない)

 遥斗の額から、冷や汗が流れ落ちる。

(強すぎる。中級MP回復ポーションなら多少なりともダメージは与えられるかもしれないけど、生成している間に真っ二つだ)


「まさか、これほどとは...」

 その手に握られた銀の剣には、先ほどの衝突の跡が刻まれていた。


「あれはただのアンデッドではない」

 アディラウスの声が重く響く。

「まさしく、アンデッドの王と呼ぶに相応しい存在だ」


 デュラハン・ナイトメアの動きには、何の前触れも、意思もなかった。

 ただ、そこにいたアディラウスに向かって疾走し、無感情に剣を振り下ろす。まるで散歩の途中で虫を払うような、そんな何気なさで。


「ファストアクセル!」


 アディラウスが叫ぶ。

 魔力が全身を包み込み、その動きが一気に鋭さを増し剣を払う。

 そして巧みな足さばきで間合いを離すが、今度は槍の間合いに入ってしまっていた。


 右上腕から繰り出される槍の連続突きを、アディラウスは剣で弾き、体を捻って躱す。その動きは空を舞う羽のように美しかった。


 しかし―


「くっ!」

 アディラウスの腕に、浅い切り傷が走る。高速で繰り出される連続の突きを、完全には避けきれなかったのだ。


「このままでは...!」

 マーガスが介入のタイミングを窺うが、あまりの速さに手を出すことすらできない。二人の戦いは、もはや人知を超えた領域に達していた。


「ファイア!」

 遥斗は援護射撃を放つ。しかし、デュラハン・ナイトメアは片手の剣で、まるでハエを払うかのように弾丸を弾き返す。

(もはや、足止めにすらならない...!)


 アディラウスの動きが、さらに加速する。

 しかし、その限界に挑戦するような速度の中でも、確実に傷は増えていく。肩、腕、脇腹―。


 そして、ついに左手の剣が頭上から振り下ろされる。

 その刹那、閃光が走る。

 デュラハン・ナイトメアの剣は、突如として軌道を変え、何かを払う。

 それは、マーガスが放った「チャージショット」の矢だった。


「くそっ...!」

 マーガスの声が震える。しかし、デュラハン・ナイトメアにとって、それすらも計算内だった。

 反対の腕の剣が、既にアディラウスの首を狙って奔っていた。


 その時―轟音が響く。

 グリフォンガードが、渾身の力で突進してきた。その巨体がデュラハン・ナイトメアの胴に直撃する。


 衝撃でたたらを踏む。そして、グリフォンガードの口から解き放たれる追撃の魔力の光球。

 デュラハン・ナイトメアの姿が、眩い光に包まれる。


「やった!」

 マーガスの歓喜の声が上がる。


「まだだ!」

 遥斗は叫びながらアディラウスに駆け寄る。マジックバックから中級HP回復ポーションを取り出し、躊躇なく彼にかける。

 光が全身を包み、アディラウスの傷が次々と癒えていく。


「はぁ...はぁ...」

 光が晴れた先に、アディラウスが見たものは―

 ラージシールドで攻撃を完璧に防ぎきり、まったくの無傷で佇むデュラハン・ナイトメアの姿だった。


 アディラウスの荒い息遣いが響く。それは単なる疲労からではない。

 絶望的な戦力差を目の当たりにした者の、重い吐息だった。

 デュラハン・ナイトメアは、まるで時間を持て余すかのようにゆっくりと四本の腕を構え直す。

 その仕草には、これまでの攻防が、ほんの前哨戦に過ぎなかったことを示唆していた。


「な、なんて化け物だ...」

 マーガスの声が震える。


 遥斗は必死に頭を巡らせる。

(ここまでの戦いで分かったことは...戦闘経験は圧倒的。四本の腕の連携は完璧。そして何より、こちらの動きを完全に読んでいる)


 月光の下、デュラハン・ナイトメアの漆黒の鎧が不気味な輝きを放っていた。

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