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【アニメーションMV有】最弱アイテム士は世界を科学する〜最弱の職業と呼ばれ誰にも期待されなかったけれど、気づけば現代知識で異世界の常識を変え無双していました〜  作者: 東雲 寛則
第2章 ヴァルハラ帝国編

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78話 MP依存物質

挿絵(By みてみん)

「ファイア!」

 トムの掛け声が夜の街にこだまする。銃声が石壁に反射し、不気味な残響を生む。

 魔力銃から放たれた弾丸は、男性の背後で揺らめくミストレイスを貫いた。青白い炎のような姿が四散する。


「やった!」

 トムの声に安堵が混じる。しかし、その喜びは束の間だった。

 散り散りになった破片が、まるで意志を持つかのように一箇所に集まり始める。時間を巻き戻すように、ミストレイスの姿が元に戻っていった。その様は、生命の摂理に反した不気味さを放っていた。


「うぅぅ...」

 呻き声を上げながら、操られた男性がトムに襲いかかる。

 その動きは人間離れしており、関節が曲がる角度も、筋肉の動きも、全てが異常だった。


「うわっ!」

 トムは後ずさりしようとしたが、間に合わない。

 男性に押し倒され、首を絞められる。冷たい指が、容赦なく喉を締め付けていく。

「が、がっ...」

 苦しむトムの顔が紅潮していく。酸素が足りず、視界が徐々に暗くなっていく。


 魔力銃を構えるが、操られているだけの男性を撃つことはできない。その葛藤が、さらにトムを追い詰める。

 エレナと遥斗は必死で男性を引き離そうとした。しかし、その腕は鉄の棒のように硬く、びくともしなかった。


「おじさん、離して!」

「大丈夫!トム!」


 必死の叫び声が、夜の闇に吸い込まれていく。

 しかし、操られた男性の力は尋常ではなかった。人体の限界を超えた力で、トムの喉を締め付けていく。


 エレナが魔力銃の銃身で男性の後頭部を強打するが、まるで痛覚が存在しないかのように、全く動じない。


 その時、彼らの傍らにミストレイスが接近していた。青白い炎のような姿が、まるで死の影のように迫る。

 その存在に気付いた瞬間、ミストレイスが雄叫びを上げる。その声は、人間の耳に入ってはいけない種類の音だった。


 遥斗の全身を、何とも言えない恐怖が襲う。

 体が震え、力が入らない。思考が混濁していく。まるで悪夢の中にいるような感覚。心臓が早鐘を打ち、冷や汗が背中を伝う。


(これは...)

 遥斗は学園での授業を思い出していた。脳が必死で理性を保とうとする。


「恐怖」状態―状態異常の一種で、戦闘行為が行えなくなる。

 麻痺とは違い動くことはできるが、思考は

「この場でうずくまりたい」

「目を瞑りたい」

「逃げたい」

 という本能的な恐怖に支配されてしまう。全身の細胞が、逃走を叫んでいるかのようだ。


 エレナはその場で蹲ってしまった。

 彼女の瞳には、限りない恐怖の色が宿っている。普段の凛とした姿からは想像もつかない、子供のような怯えた表情。


 ミストレイスがそっと近づき、青白いオーラがエレナを包み込む。まるで魂を吸い取るかのように。

(そうか!こうやって支配下に置いているのか!)


 遥斗は恐怖に震えながらも、決して分析を止めない。

(自分では戦闘力がないから、人間に取り付いて攻撃手段にしているんだ)


 遥斗は震える手を自分に向け、声を絞り出すように「ポップ」と唱える。

 ルシウスの所で様々なアイテムを登録した時、「恐怖心のポーション」があった。相手を「恐怖」状態にして逃走させるためのアイテムだ。

 遥斗の手に「恐怖心のポーション」が生成される。


 と同時に、遥斗の「恐怖」状態が解除された。まるで悪夢から覚めたかのように、意識が清明になる。

「ポップ!」

 すぐさまエレナに向かって唱える。

 再び「恐怖心のポーション」が生成され、エレナが正気を取り戻す。彼女の瞳に、再び戦士としての光が宿る。


 状況を把握したエレナは、猫のような俊敏な動きで素早く身を翻して距離を取った。

 ミストレイスが少し戸惑っているように見える。炎のような形が、わずかに揺らめいた。


 その隙を突いて―

「ポップ!」

 遥斗は一か八かで、中級HP回復ポーションの生成を試みる。

 しかし、何も生成されない。手の中は空っぽのまま。


(どうすれば...)

 悩む遥斗の耳に、再びミストレイスの雄叫びが響く。

 まるで地獄からの呼び声のような音に、遥斗は再び「恐怖」状態になる。全身が氷のように凍りつく。しかし反射的に「恐怖心のポーション」を生成し状態異常を回復する。


 完全に鼬ごっこだった。戦いは圧倒的に不利だった。

(せめて...)

「ポップ!」

 スキルを使わせないよう、MPを削る。それが遥斗に出来る唯一の行動だった。


「中級MP回復ポーション」が生成される。

「ギヤアアアアァァァ」

 この世のものとは思えない叫びを上げるミストレイス。


 その体が明らかに薄くなっていく。まるでろうそくの炎が消えゆくように。

 光明を見出した遥斗は、立て続けに詠唱する。手が震え、喉は乾いているが、それでも声を振り絞る。


「ポップ!」

 中級MP回復ポーションが生成され、ミストレイスの体は光の粒子となって消滅した。最後の叫びが、夜空に溶けていく。


 息を切らせる遥斗の頭の中で、思考が駆け巡る。心臓は早鐘を打ち続けているが、頭の中は冷静さを取り戻していた。


(MPを犠牲にして魔法でHPを回復する効果は等価交換。HP回復は失った四肢も回復した。つまりHPは物質と等価...)

(エーテルライトの時に感じたように、MPも物質と等価...HPとMPと物質は基本的に同じものなんだ)

(人間がHPに依存した物質に魂を宿して生きているように、ゴーストはMPに依存した物質に魂を宿しているんだ。存在の仕方は違うけど、ゴーストも生命なんだ)


「遥斗くん大丈夫?」

 エレナの声に、遥斗は我に返る。彼女の声には、まだわずかな震えが残っていた。


「そうだ!トムは!?」

 あわてて確認すると、ミストレイスを倒したことで支配から解放された男性は気絶しており、トムはせき込みながらも無事な様子だった。喉に残る赤い痕が、先ほどの死闘を物語っている。


「良かった...」

 安堵の声と共に、遥斗はその場にへたり込む。全身から力が抜けていく。

 足元には「レイスの嘆き」という素材が落ちていた。

 青白く光るそれは、まるで魂の欠片のようだった。その光は、夜の闇の中で不気味な輝きを放ち続けている。

 遥斗の手は、まだ小刻みに震えていた。

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