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【アニメーションMV有】最弱アイテム士は世界を科学する〜最弱の職業と呼ばれ誰にも期待されなかったけれど、気づけば現代知識で異世界の常識を変え無双していました〜  作者: 東雲 寛則
第2章 ヴァルハラ帝国編

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77話 街に潜むアンデッド

挿絵(By みてみん)

 暗い街路を走りながら、遥斗はマーガスのことを心配していた。心臓の鼓動が耳に響く中、不吉な予感が彼の心を締め付けていく。

 夜風が冷たく頬を撫で、街灯の明かりが不規則に揺れている。その光と影の境界線が、まるで生き物のように蠢いていた。石畳を踏む足音が、異様な反響を生む。


「ゴースト系が出たら、攻撃魔法の使えないマーガスは危ないよね?」

 遥斗の声には、明らかな不安が滲んでいた。その声が、夜の闇に吸い込まれていく。


「大丈夫かもしれないわ」

 しかし、エレナは意外な答えを返す。彼女の表情には、僅かな自信が浮かんでいた。

「なぜ?」

 遥斗の声が、風に揺られる街灯の光のように震える。


「マーガスは魔力を武器に付与できる技を習得しているの。多分シルバーファングのみんなに教わったんだと思う」

 エレナは走りながら説明を始める。息遣いは乱れているが、声は冷静さを保っていた。

「技の多様さだけなら天才だと思うわ。しかも使っている武器は『銀』で出来てる。『銀』にはアンデッドに対して特殊効果があるの。多分ゴースト系相手でも引けは取らないと思う」

「へぇ、あいつ口だけじゃなかったんだね」

 トムは感心したように呟く。その声には、かすかな安堵が混ざっていた。


「そうね」エレナは頷く。

「おそらく学園でも戦闘職クラスでもやっていけたと思うわ。でも...」

 彼女の声が一瞬緊張を帯びる。街灯の光が、その表情に不安の影を落とす。

「あくまで戦えるだけで、勝てるかどうかは...」


 その時、路地の先から悲鳴が聞こえた。絶叫が、夜の静寂を引き裂く。

 血の気が引くような悲鳴に、3人の足が一瞬すくむ。


 曲がり角を回ると、小太りの中年男性が襲われている場面に遭遇した。

 そこには、人の形をしたものが立っていた。だが、それは既に人ではない。


 全身が骨で出来た姿。胴には錆びた鎧を纏い、刃こぼれした剣を振るう姿。月明かりに照らされた白い骨が、不気味な輝きを放っている。それは紛れもなくリビングデッド系モンスター「ボーンハンター」だった。


 男性は既に背中を切られ、息も絶え絶えに助けを求めている。血の匂いが、夜風に乗って漂ってくる。


 遥斗の動きは速かった。

 マジックバックから魔力銃を取り出し、「ファイア!」の掛け声と共に発射。青い光が夜の闇を切り裂く。


 エレナとトムも遅れて銃を構える。

 弾丸は見事にボーンハンターの頭を粉砕した。砕けた骨が、月明かりに照らされて舞い散る。


(よし!)

 遥斗は心の中でガッツポーズを取る。


 しかし―


 頭が吹き飛んだボーンハンターは、なおも剣を振りかざして襲いかかってきた。

 その異様な光景に、遥斗は背筋が凍る。頭蓋骨のない首から、赤い光が漏れ出している。


「ファイア!」

 今度は3人の声が重なった。闇を貫く3筋の青い光が、夜の静寂を引き裂く。


 3発の弾丸が鎧に命中し、大きな穴を開ける。金属を貫く音が、不気味に響き渡る。

 ボーンハンターは大きく吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。

 骨がバラバラになり、光の粒子となって消えていく。その様は、まるで死の舞踏のようだった。


 ボーンハンターのいた場所に「スケルトンの骨」という素材が残された。それは、どこか物悲しい輝きを放っていた。


「大丈夫ですか!」

 遥斗は男性に駆け寄る。背中の傷は深く、早急な処置が必要だった。血が石畳に滴り落ちる音が、心臓の鼓動のように響く。

 マジックバックから中級HP回復ポーションを取り出し、傷口に注ぐ。

 瞬時に傷が塞がっていく様子に、男性は涙ながらに感謝を述べた。

「ありがとう...ありがとう...」


 その声には、死の恐怖から解放された安堵が滲んでいた。

「早く逃げてください!」

 エレナが急かす声を上げる。その声は切迫感に満ちていた。

 男性は何度も頭を下げながら、足早に立ち去っていった。足音が、次第に闇に消えていく。


 しかし、街のあちこちから悲鳴が聞こえてくる。それは、まるで地獄の合唱のようだった。

「いったい何体いるんだ?」

 遥斗の声には焦りが混じる。冷や汗が背筋を伝う。


「思ったより大変な事態になっているね」

 トムの表情も曇っていた。その目には、はっきりとした恐怖が浮かんでいる。


(アンデッドは通常のモンスターとは全然勝手が違う)

 遥斗は先ほどの戦いを分析する。彼の頭の中では、冷静な分析力と人間としての恐怖が交錯していた。

(おそらく頭は依代の一部なだけで、完全に破壊しないと戦闘力が落ちない。しかもゴースト系は、完全物理攻撃の魔力銃では通用しないだろう)


 不安が胸に広がる中、先ほど逃がした男性がふらふらと歩いて戻ってきた。

 その姿は、明らかに異常だった。まるで糸で操られる人形のようだ。

 口からは声にならない呻き声が漏れ、目の焦点は合っていない。その姿は、先ほどと同じ人間とは思えなかった。


「大丈夫です―」

 声をかけようとする遥斗を、エレナが強く制止する。彼女の手が、氷のように冷たかった。

「ダメ!」


「後ろを見て!」

 トムの声が震えている。その瞳に映る光景に、戦慄が走る。

 男性の背後には、炎のような形をした半透明の存在が浮かんでいた。


 それはゴースト系モンスター「ミストレイス」。青白い炎のような姿は、この世のものとは思えない不気味さを放っていた。

 その姿を見た瞬間、遥斗の全身が粟立った。背筋を走る寒気は、まるで死の予感のようだった。


 暗い街路に、不気味な炎が揺らめく。その青白い光が、石造りの建物に歪な影を作り出す。

 そして男性の体が、ゆっくりとこちらを向く。その動きは、人体の自然な動きとは全く異なっていた。

 その目は、既に人間のものではなかった。暗い路地に浮かぶその瞳は、死者特有の虚ろな光を放っていた。


「くっ...」

 遥斗は唾を飲み込む。喉から漏れる音が、異様に大きく響く。

 通常のモンスターとは比べものにならない恐怖が、彼らを包み込んでいた。それは、生命そのものへの冒涜を目の当たりにした時にのみ感じる、根源的な恐怖だった。

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