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【アニメーションMV有】最弱アイテム士は世界を科学する〜最弱の職業と呼ばれ誰にも期待されなかったけれど、気づけば現代知識で異世界の常識を変え無双していました〜  作者: 東雲 寛則
第2章 ヴァルハラ帝国編

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76話 マーガスの暴走

挿絵(By みてみん)

 シャワーを浴びながら、遥斗は旅の間のことを思い返していた。

 窓から差し込む夕暮れの光が、湯気と混ざり合って幻想的な空間を作り出している。


 御者たちが日常魔法で行ってくれた洗浄は、実に便利なものだった。

「滅菌」と「分解」が行われているようで、髪や服のべたつきまでなくなる。その効果は科学的に見ても、清潔を維持するのに問題がないと言えるものだった。

(でも、やっぱりお湯で体を洗い流すのは気持ちがいいな)

 遥斗は湯気の立ち込める中、温かな水流に身を任せる。その感覚は、異世界にいることを忘れさせるほど懐かしいものだった。


 シャワーを終えて宿屋に併設された酒場に向かうと、すでにみんながが食事を始めていた。

 豪華な料理の香りが、まるで目に見えない霧のように店内に漂っている。

 ローストした肉の香ばしい匂いと、スパイシーな香辛料の刺激的な香りが、食欲をそそる。


「遅かったね遥斗くん、こっちよ」

 エレナが笑顔で隣の席を示す。

「ありがとう」

 遥斗も微笑みを返す。


 酒場は宴会のような賑わいを見せていたが、一行の誰もアルコールには手を付けていない。

 周囲のテーブルでは、商人たちが派手に酒を飲み交わし、兵士たちが休暇を楽しんでいた。


(さすがだな。職務を忘れていないんだ)

 遥斗は感心しながら、料理を眺める。


 テーブルには肉料理と魚料理が所狭しと並んでいた。ワインソースで煮込まれた肉塊は、ナイフを入れると肉汁が溢れ出し、香ばしく焼かれた魚は、スパイスの香りを纏っていた。


 王国の料理は素材の味を活かした薄味で、野菜を多用するのが特徴だった。

 上品で洗練された味わいは、まさに王国の文化を体現するかのようだ。

 一方、帝国の料理は濃い味付けで、まるでジャンクフードのような趣がある。その大胆な味付けは、帝国の軍事的な気質を感じさせた。

 その違いに、遥斗は文化の差を感じていた。料理一つとっても、その国の性格が如実に表れているのが興味深かった。


「聞いたか」

 オルティガがナッシュに向かって話し始める。その声には、普段の軽さは感じられなかった。


「ここ最近フェルドガルドでは、アンデッドが出没して被害が出ているらしい」

 その言葉に、周囲の空気が一瞬凍りついたように感じられた。


「ああ」ナッシュが重々しく頷く。

「街の中にいつの間にか侵入して、人々が犠牲になっているという話だ」


 彼の声には、経験豊富な戦士としての警戒心が滲んでいた。

 その会話を聞いたマーガスが、突然立ち上がる。椅子が軋む音が、周囲の喧騒を突き抜けて響いた。


「やはり騎士たるもの、いついかなる時でも民草を守らねばなりませんね!」

 その声には、若さゆえの正義感が溢れていた。瞳は情熱的な光を放ち、その姿は理想に燃える若き騎士そのものだった。


 ガイラスが冷静に、しかし威圧感のある声で答える。

「いや、我々は何もしない。姫に害がないならな」

「どうしてですか!」

 マーガスが食い下がる。その目は真摯な光を放っていた。拳が震えているのは、抑えきれない正義感のためだろう。


「我々の使命は姫と遥斗殿の護衛だ。疎かにするわけにはいかん」

 ガイラスの声は厳しさを増す。その言葉には、長年の経験に基づく冷徹な判断が込められていた。

「それにリビングデッド系ならどうにでもなる。しかしゴースト系ではどうにもならん。邪魔になるだけだ」

 あまりの正論に、マーガスは「むぐぐっ」と言葉を詰まらせる。その表情には、理性と感情の葛藤が浮かんでいた。

「この国の治安はこの国に任せておけ。面子もある」

 ナッシュが諭すように付け加える。

「わかりました...」


 マーガスは渋々と答えたが、遥斗はその表情に見覚えがあった。下を向いた顔には、諦めではなく決意の色が浮かんでいる。

(この顔...何かあれば絶対に一人で飛び出すぞ)


 宴も終わり、それぞれが部屋に戻る。

 遥斗はトムと同じ部屋で、「ブルの4本角」の素材について話に花を咲かせていた。窓の外では、街の灯りが夜空に映える。


「これを使って、どんなアイテムが作れるかな」

 トムの目が好奇心で輝いている。その瞳には、錬成士としての純粋な探究心が宿っていた。


 その時―

「キヤアァァァァァ!」

 外から大きな悲鳴が響き渡る。その声は、夜の静けさを引き裂くように鋭く、そして恐ろしいものだった。

 遥斗は3階の窓から外を見る。街にはポツポツと灯りが見える。沢山の光が、生きているかのように不安げに揺らめいている。


「お祭りじゃないよね?」

 トムの声が不安げに響く。その問いかけには、既に答えを悟っているようだ。


 遥斗が黙って首を振ると同時に、隣の部屋の窓からマーガスが飛び出すのが見えた。

「危ない!」

 遥斗が叫ぶも、マーガスは銀のガントレットを棒状に変形させ、器用に着地。そのまま悲鳴のあった方向へ走り去っていく。


「追いかけよう!」

 遥斗とトムは慌てて部屋を飛び出す。廊下を駆ける足音が、夜の宿の静寂を破る。


 廊下でエレナとばったり出会った。彼女の表情には、まだ事態の深刻さを知らない平穏さが浮かんでいた。


「どうしたの?2人ともあわてて」

 トムが手短に状況を説明する。その声には焦りが混じっていた。


「どうするの?」

 エレナの声には迷いが混じっていた。護衛の任務と、仲間を助けたい気持ちの間で揺れているのが分かる。


「放ってはおけない」

 遥斗のその瞳には、仲間を見捨てられないという強い意志が宿っていた。


「わかったわ。私も行くわ」

 エレナも覚悟を決めた様子で頷く。彼女の表情からは、迷いの色が消えていた。


「無茶はせず、マーガスを連れ戻すことに専念しよう」

 遥斗が作戦を提案する。そして3人は宿屋から飛び出した。


 夜の街は、昼間とは全く異なる顔を見せていた。建物の影が不気味に伸び、街灯の光が怪しく揺らめく。月明かりは雲に遮られ、通りは不自然な暗さに包まれていた。

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