表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【アニメーションMV有】最弱アイテム士は世界を科学する〜最弱の職業と呼ばれ誰にも期待されなかったけれど、気づけば現代知識で異世界の常識を変え無双していました〜  作者: 東雲 寛則
第2章 ヴァルハラ帝国編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

69/512

69話 出発の朝

挿絵(By みてみん)

 霜が降りた早朝、王城の前に集まった一行の息が白く霧となって立ち昇る。空はまだ薄暗く、東の空がわずかに明るくなり始めたところだった。

 遥斗、エレナ、トム、そして不貞腐れた表情のマーガス、アリア、エリアナが静かに待機していた。彼らの周りでは、馬具を整える音や兵士たちの低い会話が聞こえる。


 マーガスは腕を組み、顔をしかめながらぶつぶつと不満を漏らしていた。

 彼の豪華な貴族の服装は、この早朝の寒さにはそぐわないようだった。

「なぜ自分が行かねばならないんだ...こんな奴の護衛など...朝も早いし、寒いし...」


 アリアはマーガスの肩を力強く叩き、彼の目をしっかりと見つめながら言った。

「お前だけが頼りなんだ、マーガス。この任務の成否はお前にかかっているぞ。お前の剣技と判断力が、みんなを守ることになる」


 その言葉を聞いた途端、マーガスの表情が一変した。

 彼の目が輝き、背筋がピンと伸びる。彼は胸を張り、誇らしげに宣言した。

「お任せください、アリア師匠!この私が必ずや遥斗を守り抜いてみせましょう!いや、一行全員をこの手で守ってみせます!」


 エレナとトムは、マーガスの急激な態度の変化に呆れたように顔を見合わせた。

「やれやれ...相変わらずね」エレナが小さなため息をつく。

「マーガスは本当に単純だよね。でも、その熱意はすごい思う」トムが小さく笑いながら、少し羨ましそうに言った。


 エリアナが優雅に一礼し、皆に挨拶をした。彼女の姿は、早朝の薄暗がりの中でも気品に満ちていた。

「皆様、この度はご同行していただき、誠にありがとうございます。この旅が平和な未来への第一歩となることを願っています。どうぞよろしくお願いいたします」

「姫様、どうかご安心ください。このダスクブリッジ家次期当主のマーガスが、必ずやこの任務を成功に導いてみせます」

 マーガスは、まるで舞踏会での紳士のように優雅に腰を曲げ、エリアナに向かって答える。彼の態度には少し大げさな面があったが。


 アリアは思わず苦笑いを浮かべた。

 彼女の目には、マーガスへの信頼と心配が混ざっているようだった。


 遥斗は、エリアナに向かって心配そうに尋ねた。彼の声には懸念が込められていた。

「本当にエリアナ姫も一緒に行かれるのですか?危険ではないでしょうか?もし何かあったら...」


 エリアナは遥斗の目をまっすぐ見つめ、凛とした声で答えた。

「だからこそ、私が行かなければならないのです。異世界召喚が他国を脅かすものではないことを、私自身の言葉で説明しなければなりません。それに...」


 彼女は一瞬言葉を詰まらせ、柔らかな表情を見せた。

「遥斗様だけを危険に晒すわけにはまいりません。私たちは共に歩むべき者です」

「エリアナ姫...」

 その言葉に、遥斗は胸が熱くなるのを感じた。彼の心の中で、エリアナへの感謝と、彼女を守らねばという気持ちが沸いて出た。


 マーガスは両手を広げ、朝もやの中で大げさに叫んだ。

「さすがは我らが姫様!なんと気高い決意でしょう!この感動、私の心に刻み付けておきます!さぁ姫様、どうぞこちらへ」


 準備された馬車は4人乗りで2台。それぞれに護衛の兵士が合計3人乗ることになっていた。

 馬車は王家御用達で、豪華ではあるが長旅に耐えうる頑丈さも備えていた。


 マーガスが得意げに言いながら、エリアナと同じ馬車に乗ろうとした。

 しかし、護衛の兵士に肩を掴まれ、マーガスは別の馬車へと連れて行かれる。

「君はこちらの馬車だ」兵士は冷たく言い放った。


 結局エリアナと遥斗は同じ馬車に乗り、護衛の兵士2人が同乗し、もう一台の馬車には、エレナ、トム、マーガス、そして護衛の兵士1人が乗ることになった。


「なぜだ!なぜ私が姫様と同じ馬車に乗れないのだ!」

 マーガスが激しく抗議する。彼の声は朝の静けさを破り、近くにいた鳥たちが驚いて飛び立った。

「今回はエリアナ姫と遥斗が主賓で、僕たちはお供だからでしょう?同行を許してくれただけでも感謝しないと」

 トムが冷静に説明した。


 マーガスは不満げに顔をしかめ、小声でぶつぶつ言い続けた。

「なんであいつだけいつも...俺だってちゃんとした貴族なのに...」


 その時、アリアがマーガスに近づき、首にペンダントをかけた。

 ペンダントは小さいながらも、不思議な輝きを放っていた。


「こ、これは?」マーガスは驚きと戸惑いを隠せない様子で、照れくさそうにアリアを見上げた。彼の態度は、突然子供のように無邪気になった。

「無事に帰れるお守りだ。いかなる時でも必ず持っておけ。お前たちを救ってくれるはずだ」


 マーガスの顔が喜びで輝いた。彼は得意げに遥斗の方を向き、ペンダントを見せびらかした。

「見たか、遥斗!これが師匠からの贈り物だ!」


 遥斗は優しく微笑んで答えた。

「よかったね、マーガス」


 マーガスは鼻高々に言った。

「まあ、これが俺とお前との差だな。俺にはアリア師匠にとって特別なんだ」


 エレナは呆れたように首を振りながら、マーガスを馬車に押し込んだ。

「さあ、そろそろ出発しましょう。長旅になるんだから、こんなところで時間を無駄にしないで」


 トムは緊張した面持ちで馬車に乗り込みながら、遥斗に向かって手を振った。

「気をつけてね、遥斗。何かあったらすぐに知らせて。僕たちがすぐ駆けつけるから」


 アリアは最後に全員を見渡し、力強く言った。

「みんな、気をつけろよ。どんな状況でも、絶対に諦めるな!お前たちなら、きっと乗り越えられる」


「参りましょう、遥斗様」

 エリアナは優雅に馬車に乗り込み、遥斗に手を差し伸べた。彼女の手は小さく、しかし確かな強さを感じさせた。

 遥斗は少し戸惑いながらも、エリアナの手を取って馬車に乗り込んだ。彼の頬には、かすかな赤みが浮かんでいた。


 馬車が動き出す瞬間、遥斗の声が響いた。

「行ってきます!必ず、良い報告を持って帰ってきます!」

 遥斗は窓から顔を出し、小さく手を振った。アリアの姿が徐々に小さくなっていく。朝日が地平線から顔を覗かせ、新たな一日の始まりを告げていた。


 馬車の中で、エリアナが静かに言った。彼女の声には、不安と期待が入り混じっていた。

「遥斗様、長い旅になりますが、どうかお力添えください。この旅が、私たちの国の命運を握っております」


 遥斗は真剣な表情でエリアナを見つめ、答えた。

「はい、僕にできることは全力でさせていただきます。エリアナ姫、よろしくお願いします」


 馬車は王都の門をくぐり、未知の冒険へと走り出した。遥斗の心の中には、不安と期待が入り混じっていた。

 しかし、仲間たちの存在が彼に勇気を与えていた。道路の両側に並ぶ木々が、朝日に照らされて輝き始める。


 そして、王都の城壁が徐々に遠ざかっていく中、彼らの新たな冒険が始まろうとしていた。

 未知の国、ヴァルハラ帝国。そこで彼らを待ち受けているものが何なのか、誰にも分からない。

 ただ、彼らの絆だけが、この危険な旅路を支える唯一の希望だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ