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【アニメーションMV有】最弱アイテム士は世界を科学する〜最弱の職業と呼ばれ誰にも期待されなかったけれど、気づけば現代知識で異世界の常識を変え無双していました〜  作者: 東雲 寛則
第2章 ヴァルハラ帝国編

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63話 王女の決意

挿絵(By みてみん)

 スタンピードから2日が経過した。王都ルミナスの中心に聳え立つ王城、その最上階にある謁見の間。豪華な装飾が施された広間に、重苦しい空気が漂っていた。


 エドガー3世は玉座に腰かけ、深いしわの刻まれた額に手を当てていた。

 その隣には、若き王女エリアナが立ち、不安げな表情を浮かべている。

 そして、長い白髪と髭を蓄えた賢者マーリンが、静かに状況を見守っていた。


 重厚な扉が開き、アレクサンダー・ブレイブハートとイザベラ・スターリングが入室してきた。

 二人とも戦いの痕跡を色濃く残しており、特にアレクサンダーの鎧には大きな亀裂が入っていた。


 アレクサンダーは、エドガー王の姿を認めるや否や、感極まった様子で叫んだ。


「陛下!ご無事で...本当に...本当によかった...」


 その声には、これまでの緊張と不安が一気に解けたかのような安堵が滲んでいた。

「アレクサンダー卿、イザベラ。よくぞ生きて戻ってきてくれた。お前たちの働きのおかげで、王国は存続することができた」

 エドガー王は微笑み、穏やかな声で答えた。


 マーリンが咳払いをして、場の空気を引き締める。

「アレクサンダー卿、状況の報告を頼む」


 アレクサンダーは深く息を吸い、報告を始めた。

「はい。まず、魔物の数ですが、当初の予想をはるかに上回る5000を超える大軍でした。種類も多岐にわたり、シェイドハウンド、シャドウストーカー、シャドウクローラー、シャドウタロンなどの既知の魔物に加え...」


 彼は一瞬言葉を詰まらせ、顔を歪めた。

「...未知の魔物が確認されました。我々はそれを『奈落の破壊者』と呼ぶことにしました」


 エリアナが小さく息を呑む。エドガー王の表情が一層厳しくなった。


「その『奈落の破壊者』とやらの詳細は?」マーリンが尋ねた。


 アレクサンダーは目を閉じ、恐ろしい記憶を思い出すかのように顔を歪めた。

「巨大な影のような姿をしており、その口から放つ『虚無の吐息』は、触れたものすべてを消滅させます。我々の武器や魔法は、ほとんど効果がありませんでした」

 イザベラが続けた。

「さらに驚くべきことに、その姿は不定形で、まるで意思を持つかのように変化し、攻撃を避けたり、逆に攻撃を仕掛けてきたりしました」


 エドガー王の表情が曇る。

「被害状況は?」

 アレクサンダーは、苦痛に満ちた表情で答えた。

「...戦死者が9000、重傷で治療中の者が7000、軽傷で回復した者が4000です。我が軍は...実質的に壊滅状態です」


 エリアナが小さく悲鳴を上げた。エドガー王は目を閉じ、深いため息をついた。


「王都の被害状況は?」アレクサンダーが苦悶の表情で尋ねた。

 エリアナが答える。

「建物の被害は甚大ですが、幸いにも避難が成功しており、民間人の死傷者は最小限に抑えられました。それでも...戦闘に参加した数百人の方々が犠牲になりました」


 沈黙が場を支配する。


 しばらくして、エドガー王が口を開いた。

「アレクサンダー卿、イザベラ、そして勇敢に戦ったすべての者に心からの感謝を」


 その言葉に、アレクサンダーの目に涙が浮かんだ。


 そして、アレクサンダーはずっと気になっていた事を、エドガー王に尋ねた。

「ところで、こちらに向かったはずの『奈落の破壊者』はどうなったのでしょうか?」

 マーリンが答える。

「シルバーファングが討伐したという報告を受けておる」


 アレクサンダーの目が大きく見開かれた。

「シルバーファングが...?あの怪物を...?」

 イザベラも驚きを隠せない。

「信じられません...我々が2体相手に全滅寸前まで追い詰められたというのに...」

 アレクサンダーは続けた。

「我らは2体と戦闘いたしましたが、討伐には至らず。突如2体とも引き返していきました」


 エドガー王の表情が曇る。

「ということは...少なくとも2体が健在ということか」

 イザベラが震える声で言った。

「もし...もし今、再び攻めてこられれば...アストラリア王国の壊滅は必至です」


 エドガー王はマーリンを見つめた。

「マーリン、奴らは再び攻めてくると思うか?」

「間違いありません。今すぐではないでしょうが、そう遠くない内に必ずや襲来するでしょう」

 マーリンは静かに、しかし確信を持って答えた。


 エドガー王は頭を抱えた。

「多数の兵士を失い、王都は半壊...問題は山積みだ。ソフィア共和国、ノヴァテラ連邦に援助を申し出るべきか...」


 その時、一人の兵士が慌ただしく謁見の間に駆け込んできた。

「陛下!緊急の伝令です!」


 兵士は震える手で一通の書状を差し出した。マーリンがそれを受け取り、目を通す。

 マーリンの表情がみるみる変わった。怒りと驚愕が入り混じった表情だった。


「マーリン、何があった?」エドガー王が尋ねる。


 マーリンは怒りに震えながら、書状の内容を読み上げ始めた。


「ヴァルハラ帝国皇帝より、アストラリア王国エドガー3世陛下へ」


 一同の表情が強張る。


「度重なる警告にも関わらず、貴国は異世界人の召喚を強行し、我が帝国を脅かし続けている。今回のスタンピードに打ち勝った貴国の力は、もはや看過しておくことはできない」


 エリアナが小さく息を呑む。


「よって、我が帝国は自衛のため、以下の要求を行う。即刻、召喚した異世界人を我が国に引き渡すこと。これに応じない場合、我が帝国はアストラリア王国を支配下に置く」


 マーリンが書状を握りしめる。その手が震えていた。


「な...何てことだ...」アレクサンダーが絶句する。

 イザベラは顔を青ざめさせ、「これは...宣戦布告に等しい...」と呟いた。


 エドガー王は玉座に深く沈み込み、重い沈黙に包まれた。


 イザベラが、震える声で言った。

「国王陛下...いかがいたしますか...」

 アレクサンダーが拳を握りしめる。

「くそっ...こんな状況で、まさか人族同士で争うことになるとは...」


 エドガー王は深いため息をつき、力なく呟いた。

「我々には選択肢はない。異世界の若者たちを引き渡すわけにはいかない。彼らはこの世界の希望なのだ」

 マーリンが頷く。

「その通りです。しかし、今のアストラリアには、ヴァルハラ帝国と戦う力はありませんぞ」


 エリアナが皆を見つめ、静かに言った。

「使者様にお伝えください。『承知いたしました。王女エリアナが責任をもって、異世界召喚された者を帝国までお連れする』と」


 その言葉に、その場にいた者全員が驚愕した。


 異世界召喚された彼らの前に、スタンピードの脅威を超える、新たな試練が待ち受けていた。

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