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486話 終焉の血戦(11)

 護符の力が遥斗に流れ込む。


 それは力と知識だけではない。

 言葉にならない、加奈の気持ち。


 記憶、感情。


 全てが——


 遥斗の心に、染み込んでいく。



 いかにアマテラスを、大切に思っていたか。

 いかにハルカを、愛していたか。


 その想いは本当に強く、純粋だった。

 遥斗がずっと思い描いていた母親像そのままに。

 優しく、温かく、全てを包み込む。


 自分だけの母親ではなくなっていたのは残念だったが。

 それでも、尊敬に値する。


 さらに自分の身を犠牲にする、精神。

 異世界で一人生き抜いた、意思。

 世界を変えた、能力。


 その実子であることが誇らしかった。



 その感情は、遥斗に新しい境地をもたらした。



 心が——


 深く、深く、沈む。


 深淵の、底に。


 そこには——


 確かに、あった。


 怒り。


 悲しみ。


 苦痛。


 絶望。


 諦観。


 そして——


 限りない、破壊衝動と消滅願望。


 遥斗が押し殺して来た、常軌を逸する負の感情。


 彼を形作る全てが——


 詰まっていた。


 それは今も全く変わらない。


 人に対する不信感。


 人に対する絶望感。


 人に対する嫌悪感。


 それは——


 遥斗が家族に植え付けられた、絶対的な消える事のない価値観。


 エレナ。


 ユーディ。


 マーガス。


 シエル。


 グランティス。


 出会ってきた、多くの仲間たち。


 そして——


 加奈。


 彼らが——


 遥斗の壊れた心を支えている。



 ずっと思っていた。


 自分も敵も、全て無くなればいい、と。


 今は違う。


 守りたい、ものがある。

 大切な、人がいる。



 冷徹な計算能力はそのままに、心は静かに。

 まるで、無我の境地ともいえる心境。


 以前のような、危うさは感じない。

 揺るぎのない、確固たる意思。


 強くある事。 


 それが何かを、すでに遥斗は知っていた。



「エレナ、マーガス!ちょっと来て!」

 遥斗が呼んだ。

 二人が即座に飛来する。


「どうしたの?遥斗くん」

「何か作戦があるのか?」


 遥斗は、心の中でハルカに指示した。


『ハルカ……この二人も精神を繋げてほしいんだ』

『そんな……でも……』

『大丈夫!このエレナとマーガスなら!』


 ハルカが、ヤタの鏡の効果範囲を広げた。


 四人の心が繋がる。


『えっ……これは?』

『分かるぞ!精神が繋がったんだな』


 遥斗、エレナ、マーガス、ハルカ。

 思念が、共有される。


『今から作戦を伝える……絶対に言葉や態度に出さないで』


『ええ、分かったわ』

『リーダーである俺に任せろ!』



 遥斗はイメージだけで作戦を伝えた。


 言葉ではない。

 言葉より明確な。


 映像。


 感覚。


 全てが——


 瞬時に、伝わる。



『みんな……みんなの力を貸して欲しい』


 遥斗の声が、三人の心に響く。


『母さんが守ろうとした……この世界を……みんなを……守るために』



 遥斗の瞳は——


 漆黒に、沈んでいた。


 深い、深い、闇。


 深淵。


 しかし——


 そこには、光があった。


 確かな、希望の光。



 遥斗はこの状態で他人を頼りにするなど、初めての事だった。


 全てが計算の上で、利用することはあっても協力することはなかった。

 ましてや、誰かを頼るなど。


 しかし、今、遥斗は助力を請うている。


 心の底から。


 それは信頼の証。



 作戦はあまりに危険だった。

 成功率は低くないものの、それ以上に命の危険がある。


 そして危険に晒されるのは遥斗だけ。

 仲間なら、到底許容出来るはずのない賭け。


 それでも——


『……分かった。やってやるよ……お前を信じて。思いっきりやれ!マテリアルシーカーのリーダーであるマーガス様がお前を絶対死なせねー!』


 エレナは——


 当然反対だった。


 しかし、遥斗が揺るがないのは知っている。

 こうなってしまえば、彼を止める事は不可能だ。

 反対意見は、むしろ遥斗を危険に晒す。


 だから——


『……分かった』


 エレナが、答える。


『でも……絶対に……守るから。あなたを……全力で……守る』



『ありがとう……』


 遥斗の声は、冷酷なそれではなかった。



 ***



 作戦、開始。


 遥斗が——


 るなと共に、空を駆ける。


「行くよ!」

「ウォォォォン!」


 神獣の咆哮。



 エレナがエーデルガッシュに向かって叫んだ。


「ユーディ!遥斗くんを守って!」


 その声に、即座に反応。


「我が剣に宿りし聖なる光よ、天より降り注ぎし神威の息吹よ、今此処に顕現せよ!聖剣奥義・極光輪!」


 光の壁が、遥斗を包み込む。


 以心伝心。

 言葉は要らない。

 数多の戦いが、彼らを鍛え上げていた。



『ハルカ!位置をふたりに!』

 遥斗が、念じる。


『ここです!ここにエリアナ姫の魂があります!』


 スライム核の場所。

 正確な座標が脳内に直接伝わる。


「エレナ!マーガス!一点集中で攻撃を!」


 遥斗が、叫んだ。


「了解!」

「おう!任せろ!」


「レア・アルケミック!」

 マーガスがオリハルコンの鎧を大弓に変形させた。


 飛行能力を失いながら、全力で魔力を込める。

 それは、マーガスの魔力ではない。

 もっと禍々しく、純粋で、根源的な力。


 イド。


 それを全て引き出す。


「くらえ!オーラショット・カオスマックス!最大出力だあぁぁぁ!」


 混沌の力、無色の矢。


 それが放たれた。



 エレナも——


 白虎の全火器を一点に集中させる。


「マイクロミサイル!ホーミングレーザー!ファイナルバスター!全砲門展開!フルバァァァ―――――スト!」


 無数のカガクによる攻撃。

 それを一点に収束させる。



 ドゴォォォォォォォォォォォン!!


 爆発。


 スライムの巨体に——


 穴が、開いた。


 深い、深い、穴。


 一意専心。


 中央突破。


 核までの道を、二人の最強攻撃が導く。



 遥斗が神獣から飛び降りた。


「ありがとう!後は任せて!」


 命懸けの、単騎特攻。


 自由落下の遥斗をスライムの触手が襲う。


「させるとでも思うのか!」


 サンクチュアリの結界が遥斗を、守る。


 スライムの粘液が結界に、弾かれる。


 遥斗は——


 真っ直ぐに、落ちていく。


 エリアナへと向かって。



「遥斗くーーーーん!!」


 エレナの叫びが——


 響いた。

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