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482話 終焉の血戦(7)

 

 遥斗は決断を迫られている。


 眼前には、二つの脅威。


 一つは、超巨大スライム。

 エリアナが変貌した、都市を飲み込む肉塊。


 もう一つは、エルミュレイナス。

 全ての元凶。

 エリュシオンを企む、狂信者。


(どちらと戦う?どちらの優先度が高い?)


 遥斗の思考が、加速する。

 エリアナ・スライムを放置すればドラゴンすら飲み込まれる。

 エルミュレイナスを放置すれば、まだ何を仕掛けてくるかわからない。

 両方同時に……?いや、現実的ではない。


 二択。


 どちらか。



「エルミュレイナスは任せておけ。これが片が付くまで……ドラゴンたちとスライムの足止めでもしていろ」


 バハムスが、アマテラスに告げる。

 アマテラスが、恭しく頷いた。

「承知しました……バハムス殿」


 そして——


 遥斗に視線を向ける。


「遥斗……お前が指揮を執れ。対スライム用の戦術を組み立てるのだ」


 その言葉に、遥斗は息を呑んだ。

「僕が……ですか……?」

「そうだ……お前になら任せられる。」


 アマテラスの目は、真剣だった。


 絶対的な信頼。



 バハムスは内心、驚きを隠せなかった。


(アマテラスが……人族を……信頼?)


 かつて、この男は全ての人族を憎んでいたはず。

 父を殺され、国民を殺され、全てを奪われ。


 悪鬼と化し、人族の抹殺を誓った男。


 それが——


 今、人族の少年を信頼している。


 驚くべき変化だった。


 助力を請いに来たツクヨミにも、バハムスは驚かされた。


 神化してエルフの心を捨てたはずだ。

 冷酷な女王になったと、聞いていた。


 しかし——


 目の前に現れたのは、かつての温和な王族そのもの。

 優しく、慈愛に満ちた、月の女神。


 そして、ハルカ。

 心を閉ざしていた、幼きままの少女。

 感情を失い、ただの道具と化していた。


 今、はっきりと感情を取り戻している。

 意思を取り戻している。


 全てを救うため、竜族の力を借りたいと。


 そう、願っていた。



 実のところ、バハムスはもう関わり合いになりたくなかった。

 人の愚かさに、つくづく愛想が尽きていたからだ。


 何度も、何度も、何度も、何度も。


 繰り返される、醜い争い。


 職業。


 スキル。


 アイテム。


 ダンジョン。


 より良きものを手に入れようと。

 それが自分達の首を絞めるとも知らずに。


 、人は——


 学ばない。



 イドにエネルギーが溜まっているのは、バハムスも感じていた。


 何かが、生まれようとしている。

 世界を終わらせる、何かが。



 バハムスは、永き時を生きた。

 仲間の竜たちも。


 何百年、何千年。


 このまま終わるのも運命。

 そう、考えた。



 ツクヨミは、必死に説明した。


 ヴァルハラ帝国の事、アストラリア国王の事、エリアナの事。連合軍の事。


 そして嘆願した。


 力を貸してほしい、と。



 しかし——


 バハムスは、興味を持てなかった。


 どうでもいい。

 人がどうなろうと、エルフがどうなろうと。

 滅びの運命。


 それもまた大いなる流れ。


 それでいい。



 その時、ハルカが動いた。


 三種の神器の一つ、ヤタの鏡を掲げたのだ。


 心を繋げる神器。


 しかし、バハムスから殺意のオーラが噴き出した。


 バハムスの逆鱗に触れた。

 竜王の心に許可なく入り込むなど自殺行為。


 圧倒的な殺意の前に、ツクヨミすらも倒れ込む。


「くっ……!」

 あまりの圧に、立っていられない。


 だが——


 ハルカは、負けなかった。


 幼い身体が震え、血が口から滲む。


 それでも立ち続けた。


「負けられない……!」

「お父様のために……!」


 涙が、頬を伝う。


「お母様のために……!」


 震える手を握りしめる。


「お兄様のために……!」


 全ての記憶。


 全ての想い。


 それを——


 バハムスに叩き込んだ。



 母の苦しみ。

 父の悲しみ。


 そして……兄の怒り。


 母が託した、この世界。


 守ろうとした、温かな人々。


 懐かしき、異世界の故郷。



「この世界を……異世界を……救いたい!」


 ハルカの叫びが、バハムスの心に届いた。


 強き、想い。


 純粋な、願い。


 それは——


 バハムスの心を、確かに動かした。



 殺意のオーラが、消えた。


 バハムスが——


 ゆっくりと、ハルカに近づく。


「……分かった。お前の願い……聞き届けよう」



 自分が今生きるのも——


 大いなる流れに沿ったものなのだろう。

 そして、小さな願いに応えることも。


 運命。


 宿命。


 それを——


 受け入れる。



 ***



 バハムスが、エルミュレイナスに向かって歩き出した。


 一歩、また一歩。


 威圧感で空気が震える。



 エルミュレイナスは動かない。


 微動だにしない。


 どんな攻撃でも受け流せる自信があった。

 未来視という絶対防御ゆえに。


 最小限の動きで、全てを捌く。

 それがエルミュレイナスの戦い方。



 ついにバハムスがエルミュレイナスの目の前に立った。

 巨大な竜人が、エルフを見下ろす。


 圧倒的な、格の違い。



 そして——


 ゆっくりと、エルミュレイナスの左腕を掴んだ。

 至極優しく。



 エルミュレイナスは理解した。


 いや——


 理解した時には、遅かった。



 グシャァッ!!


 腕が握り潰された。

 骨が砕け、肉が裂け、血が噴き出す。


「ぐあああああああっ!!」


 エルミュレイナスの絶叫。


 そして——


 バハムスは、ぼろ布のように、エルミュレイナスを地面に叩きつけた。

 大地が砕け、クレーターが形成される。

 衝撃波が周囲を吹き飛ばす。


 圧倒的、パワー。


 魔法も——


 スキルも——


 予知も——


 予測も——


 関係ない。



 絶対的強者が——


 そこにいた。



 竜王、バハムス。


 最強種の、頂点。

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