480話 終焉の血戦(5)
(スライム……アニメで見た知識だけど……)
吸収能力。
当然吸収された者は命を失う。
物理的接触は、絶対に避けた方がいい。
特に背後から襲われるのは、まずい。
取りつかれた時にどうしようもない。
「円陣を組んで!死角を無くすんだ!」
遥斗が、叫ぶ。
「大輔とさくらさんを中央に!ふたりを守りながら、正面の敵を倒そう!」
全員が即座に動き、背中合わせになる。
完璧な、防御陣形。
ついに、エリアナ・スライムが——
襲いかかってきた。
無数の肉塊が、蠢きながら迫る。
(まずは……弱点を探るんだ!)
遥斗は、魔力銃を構えた。
引き金を、引く。
発射されたのは通常弾。
命中。
弾丸は、そのまま半透明な体を貫通した。
効果なし。
穴が開いても、すぐに塞がる。
(物理攻撃は……駄目……か)
次の弾丸を、装填する。
氷結の弾丸。
バンッ!
スライムの一部が凍りつく。
一時的に動きが止まるが、効果は薄い。
すぐに氷を砕いて、動き出す。
(氷も……)
ならば、次。
本命である、爆炎の弾丸。
弾が直撃すると、スライムがジュウゥゥゥと音を立てて炎に焼かれた。
みるみるうちに縮んでいく。
「これだ!弱点は火!火属性が使える者は準備を!」
遥斗が、叫ぶ。
「るな!月光の矢!」
その間にも、さくらが攻撃指示を出す。
火属性が使えない者にも効果的な、他属性を調べるため。
るなが、月の光を放ちスライムを突き刺す。
素通り、全く効果なし。
光属性は駄目。
「サンダーボルト!」
アマテラスが雷を落とす。
電撃は体表面を伝って地面に流れる。
雷属性効果なし。
「シュトルムバッハー・トルナード!」
ブリードは暴風を放つ。
スライムは、斬撃、打撃には特に強い。
物理属性に近い、風による攻撃。
やはり無効。
(やっぱり……火属性以外は……効果が薄い……)
(現状……炎属性で攻撃できるのは……僕、エレナ、アマテラスさん……)
三人だけ。
これでは手数が足りない。
その時——
「遥斗!これならどうだ!アルケミック!」
マーガスが、叫んだ。
オリハルコンが——
大弓に変形している。
「オーラショット・ヴァイオレット!」
青紫の魔力を込めた矢が、スライムに突き刺さる。
スライムはそのまま蒸発してしまった。
「マーガス!それだ!」
予想の範疇を出ないが、おそらく魔力飽和。
体内に吸収できる魔力量を超えてしまった為に自壊したのだろう。
(魔力を直接ぶつける攻撃なら……有効だ!)
「オーラソードが使える人はそれで!」
マーガスとブリードの二人は、剣にオーラを纏わせる。
剣をスライムに突き立てるとジュワッという音と共に消滅。
無事、倒せている。
「遥斗君!るなにフロストブレスを使わせる!足止めくらいにしかならないけど!」
るなが、冷気を吐き出すとスライムの動きが鈍った。
攻撃の少なさを、これで大幅にカバーできる。
「ユーディ!いざとなったらサンクチュアリで結界をお願い!」
エーデルガッシュが、頷く。
方針が、決まった。
互角に戦えるはず。
遥斗の指揮の下、全員が懸命に戦った。
それぞれの能力を活かして。
互いを、カバーしながら。
遥斗とエレナが、爆炎の弾丸でスライムを焼き、アマテラスの炎魔法が薙ぎ払う。
るながフロストブレスで足止めしたものを、マーガスとブリードがオーラソードで確実に仕留める。
ピンチになれば、エーデルガッシュが結界を張り、絶対防御で皆を守った。
それでも突破してくる僅かなスライムは、大輔のシールドに阻まれている。
完璧な、連携。
しかし——
遥斗はわかっていた、これは勝ち目のない戦いだと。
防衛戦。
ただの、時間稼ぎ。
どこかで力尽き、倒れる。
逃げることもできない、逃げたところでどうなるわけでもない。
スライムは、街中にいるのだから。
だからといって、諦めるわけにはいかない。
これはゲームではない。
諦めれば、本当に死んでしまうのだ。
「死」が怖いのではない。
死ぬことで、想いを果たせなくなるのが怖い。
それが嫌なら——
戦うしかない。
そこに何も無くても。
「信じろ!信じるのだ!」
アマテラスの声には、確かな力があった。
「何を……?」
遥斗が、問い返す。
「加奈の遺志を!」
佐倉加奈。
遥斗の母。
始まりの異世界人。
全ての元凶であり、全ての希望。
今も一人で世界を支え続けている。
「間に合う……でしょうか……?」
「ああ……必ず……!」
「そうですね……僕も信じます……僕が信じなきゃ誰が信じてくれるんだ」
遥斗が、呟く。
「アマテラスさん……力を貸してください……母さんの遺志を貫くために……」
遥斗の目に、光が戻った。
「みんな!もう少しだけ頑張って!僕は希望を捨てない!」
その言葉に、全員が頷いた。
エレナは、ありったけの弾を魔力銃で撃ち続ける。
マーガスが、オリハルコンを自在に使い分け奮闘する。
エーデルガッシュが、力の限り皆を守る。
アマテラスが、心の炎を力に変えて魔法を放つ。
ブリードが、己の忠誠心と責任感によって立ち続ける。
誰一人——
折れなかった。
そんな姿を、大輔とさくらは見ていた。
(なんて……なんて強い人たちなんだ)
大輔が感激する。
この絶望的な状況。
それでも、誰も諦めない。
さくらも同じ想い。
二人の心はこの世界に来てから、どこか冷めていた。
住む世界が違う人達、いつかは別れる人達。
生きていても、死んでいても自分達には関係ない。
ヴァーチャルな感じ。
でも違う。
彼らも懸命に生きている。
命の輝きがあり、自分達の世界と何も変わりはしない。
そんな命の鼓動を始めて感じた。
そして、強く強く想う。
——この人達は死んじゃいけない存在だと。
それでも、スライムの数は増える一方。
倒しても、倒しても。
無限に、湧き出てくる。
このままでは遠くないうちに、物量で押し切られる。
「はぁ……はぁ……」
マーガスの息が荒い。
ブリードも、剣の重さに腕が耐えられなくなってきた。
エレナが引き金を引くが、弾は残っていなかった。
遥斗が、叫ぶ。
「まだだ!まだ!死んじゃいない!」
その時——
空から——
大量の炎が、降ってきた。
ゴォォォォォォォォォォォッ!
スライムが燃える。
全てが——
炎の赤に染まった。
「あ……あれを見ろ!」
大輔が、天を指さし叫んだ。
そこには——
空を埋め尽くす影。
数え切れないほどの、ドラゴンの群れ。
「来てくれたのか!!バハムス・ドラクロニアス!!」
仰ぎ見るアマテラスの顔は、かつてシューテュディと呼ばれたエルフ族の王子に戻っていた。




