475話 流星となって
凄まじいまでの閃光がシルバーミストを照らす。
衝撃波が、都市を飲み込んだ。
ゴルビン、デミット、バレーンは、慌てて避難する。
「うおぉぉぉ!」
「ここでは駄目だ!逃げましょう!」
「ひぃ……こんなの夢だ……」
シルバーファングの面々も、必死に距離を取る。
アリアが仲間たちを庇うように立ち、飛んでくる瓦礫を切り裂く。
レインが先導することで、何とか避難路を確保してくれていた。
大輔とさくらは——
近距離にいたが、るなの張った魔力シールドに守られていた。
オーラの膜が二人を包み込み、衝撃から身を守っている。
「さくら……」
大輔が呼びかける。
さくらは、目を閉じて集中していた。
精神が完全にリンクしている。
人獣一体。
これがモンスターテイマーの真髄。
大輔はさくらの傍にいることしかできない。
まるで戦争の真っただ中に、裸で放り込まれた気分だった。
竜騎士の力を失い、今の自分には何もできない。
神子の力が激突するこの瞬間、ただ立ち尽くすのみ。
それでも——
大輔は、さくらの傍を離れなかった。
それが、彼女の心の支えになると信じて。
神子の力について行くのは、並大抵ではない。
たとえ神獣の力があったとしても。
(がんばれ……さくら!るな!)
大輔は心の中で祈りを捧げる。
そのために、大輔は——そこにいた。
マーガスとカゲロウは、エリアナ達の近くにいたのが災いした。
爆発に巻き込まれて、二人とも、大きく吹き飛ばされてしまった。
砂埃の中に、姿が消える。
遥斗とエレナは、エーデルガッシュの高速移動に置いていかれていた形となる。
おかげで直接の被害はないが、それでも衝撃波はここまで届く。
「遥斗くん……ユーディが!」
エレナが、不安そうに呼びかける。
「近づくしかないけど……」
遥斗が、エレナを庇うように立つ。
援護すら、できない。
完全に魔力銃の射程外。
発生する衝撃波は、力無き者にとって越えられぬ壁。
戦場は、遠い。
爆発が収まった時——
二つの影が、動いていた。
るなと、エーデルガッシュ。
二人は、別々に——しかし同時に、エリアナを攻撃している。
「ウオォォォォ!」
るなの爪が、エリアナの胴を狙う。
「アラワシの太刀!」
エーデルガッシュの剣が、エリアナの頭上に降り注ぐ。
エリアナは、片腕で必死に防いでいた。
左腕を失ったことで、戦闘力が明らかに落ちている。
「……」
防戦一方。
攻撃する余裕がない。
それでも、エリアナは強かった。
片腕だけで、二人の攻撃を捌き切っている。
これはもはや、神話の戦いだった。
神と、魔と、獣。
三者が超高速で激突し、魔力が火花を散らし、空間が歪む。
互角。
エリアナが防御に徹しているとはいえ、完全に互角だった。
それを見たエルミュレイナスは満足しきっていた。
(そうだ!これだ!これでいい……)
世界の魔力が激しく消費されている。
これは数千人分もの魔力衝突に匹敵する。
それが断続的に行われ、決着が長引く。
まさに理想的。
(これでエリアナの引き金が引ければ……エリュシオンは完成する……)
あと一押し。
***
その時、遥斗の元に二つの影が辿り着いた。
アマテラスとブリード。
満身創痍の状態で、体を引きずりながら遥斗を探していたのだ。
アマテラスの金の髪は血に染まり、ブリードのシュトルムバッハーも刃こぼれしている。
「すまん……ポーション……を……」
アマテラスが、掠れた声で言う。
「アマテラスさん!ひどい怪我!」
エレナが、慌ててマジックバックから、最上級HP回復ポーションを取り出す。
「これを!」
小瓶を数本手渡した。
アマテラスが、それを一気に飲み干す。
一本、二本、三本——
傷が、癒えていく。
出血が止まり、アマテラスの目に力が戻った。
「助かったぞ!礼を言う!」
アマテラスが、クサナギを握りなおした。
まだ戦う気だ。
「先にあの化け物を倒す!エルミュレイナスはその後だ!」
そう言って、エリアナの元へ向かおうとする。
「ちょっと待ってください!」
遥斗が呼び止め、ポケットから何かを取り出した。
小さな球体。
音爆弾。
かつて、アマテラスも攻撃を受けたマジックアイテム。
直接ダメージがあるわけではないが、様々に応用が利く。
「これは……?」
「設定はもう済ませています。ボタンを押せば0.1秒で炸裂します。効果は……」
「説明はよい。見当は付く」
「なら、後はお任せします、ユーディを助けてやってください。ご武運を……」
「ああ……」
アマテラスはコクリと頷く。
音爆弾を受け取ると、死地へと飛び立った。
アマテラスは、考えていた。
護符の力で、必殺のスサノオを放つか。
命中すれば殺せるだろう。
なにせ防御無効、射程極長の技だ。
しかし——
(超高速で動いているバケモノに……当てられるのか?)
エリアナ、エーデルガッシュ、るな——三者は、残像すら残さない速度で戦っている。
溜めを必要とするスサノオとは、すこぶる相性が悪い。
覚悟を決めた。
一太刀。
一太刀だけ、入れる。
それに全力を賭け、後はエーデルガッシュに託す。
目標は目の前。
アマテラスが、大声で叫んだ。
「遥斗からアレを預かっている!使うぞ!心せよ!」
声が戦場に響いた。
エリアナがこちらに向く。
(今だ!)
アマテラスが、突撃する。
相打ち覚悟の特攻。
その動きに合わせて、エーデルガッシュが反対から迫る。
挟撃。
偶然の連携。
それでも、タイミングは完璧だった。
しかし、エリアナには真言という切り札がある。
相手が複数でも、お構いなし。
自分の声が届けばいいのだから。
エリアナが、口を開く。
「動いてはいけま——」
ゴッド・ヴォイス発動。
その瞬間——アマテラスがエリアナに向かって、何かを投げつけた。
ピッ。
音爆弾が、起動した。
直後。
ドォォォォォォォォォォン!!!
大音量。
エリアナの声を完全に打ち消した。
エリアナが、硬直する。
それは彼女に僅かに残る、生物としての本能。
「驚いた」のだ。
その一瞬。
「ハヤブサの太刀!」
エーデルガッシュの、最速の剣がエリアナの右腕を斬り飛ばした。
ゴッドアイで、1秒先の未来を見ていたから出来る芸当。
この刻が来ることを、待っていた。
「ウオォォォォ!」
るなが、魔力を溜めて攻撃態勢に入る。
エリアナの意識が、アマテラスから——完全に逸れた。
今だ。
アマテラスが、クサナギに全ての力を込める。
全てを、この一撃に。
アマテラスは——
流星となった。
金色の。
光を纏い、音を超え、空間を裂き——
クサナギが——
エリアナの喉を、貫いた。
神子の力の源。
そこに、神剣が深々と突き刺さる。




