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473話 熱衝撃

 遥斗は、自分の状態を確認した。


 竜騎士のポーション——切れている。

 マリオネイターのポーション——切れている。

 加速のポーション——切れている。


 全ての力は、失われていた。


 しかし、レベルが上がったおかげか、職業ポーション使用時のダメージは大幅に軽減されている。

 以前なら動けなくなるほどの副作用も、今では耐えられる範囲だ。


 その上、エリクサーを使用した。

 体調は万全。


 むしろ、今が一番良い状態かもしれない。


 他の仲間は連れてきていない。

 ダメージの残る者、戦闘についてこられない者——彼らは待機させていた。

 ここに至っては、庇っている余裕はないからだ。


 戦える者だけがここにいる。


 遥斗とエレナは、魔力銃を構えた。

 ただし、これでは援護になるかどうかも……怪しい。


 相手はエリアナ姫。

 戦闘経験が豊富とは思えないが、神子の力は未知数。

 

 さらに、人としての制約を失った存在に見える。


 遥斗たちの攻撃が、どこまで通用するか……。


 最大戦力であるエーデルガッシュを中心に戦いを進めるしかないだろう。


「遥斗、エレナ。あやつの言葉には、気を付けろ」

 少女皇帝が、真剣な表情で告げる。

「言葉で精神を操る能力を持っている。完全に操られなくとも、一瞬の硬直は避けられぬぞ」


 ゴッド・ヴォイスのスキル「真言」。

 それは、相手の意思を捻じ曲げる絶対の力。


「それに、縦横無尽な腕の動きが厄介だ。全く読めぬ上に、とんでもない怪力。そして——恐ろしく速い」


 遥斗の目がエリアナを見据える。

 体中全てが軟体生物のようになっているのではないか、と予想する。


 しかも、ただ柔らかいのではない。

 非常に強靭。


 まるで太く束ねたゴムのように。

 伸縮自在で、しなり、そして——破壊する。


(多分、物理攻撃は……効果が薄い。別の方法で攻めないと……)

 遥斗は、即座に判断。


 その対策を考慮して、魔力銃に弾丸を装填する。


 爆炎の弾丸。

 氷結の弾丸。

 貫通の弾丸。


 そして——


 遥斗が、マジックバックから「ある物」を取り出し、ポケットに忍ばせた。


 切り札。



***



 最初に動いたのは、エレナだった。


 躊躇いなく引き金を引く。


 弾は見えない。

 発射されたのは「恐怖心の弾丸」。


 精神攻撃。


 これならば、相手を傷つける心配もなく、上手くすれば制圧可能。

 しかも肉体の強靭さは、意味をなさない。


 初手としては上出来だろう。


 エリアナは「何か」の気配を感じ、腕を振るう。


 見えない弾丸に向かって。


 たとえ見えなくても、超高速で空間を乱打していれば、いつかは当たる。

 当然のごとく、恐怖心の弾丸もはじかれた。

 

 しかし、それは命中したと同義。


「あら?」

 エリアナが、不思議そうに首を傾げる。

 様々なモンスターが襲い来る。


 それは幻、分かっていても精神は防御しようがない。

 

 だが、エリアナには、効果が全くない。


 恐怖心など、はなから存在しないのだ。

 戦闘人形に、恐怖を植え付けることなど不可能だった。


「エレナ……私は敵ではありませんよ?よく見てください。貴方の本当の敵は……」


 エリアナが、優雅に微笑む。


 その瞬間——

 エレナの意識が、混濁した。


 銃口が——


 遥斗に、向けられる。


「エレナ!止めよ!」

 エーデルガッシュが、気合と共に叫ぶ。

「光よ!」


 白い光が、エレナを包み込んだ。


「はっ……!」


 エレナが、正気を取り戻す。


 一瞬。

 たった一瞬、たった一言で操られた。


 全く抵抗も出来ずに。


 自分の意思が、完全に上書きされた。


 次の瞬間、遥斗がエレナに飛び掛かった。


「遥斗くん!?」


 遥斗が、エレナを抑え込む。

 二人が、地面に倒れ込んだ。


 シュッ!


 エリアナの腕が遥斗の頭をかすめ、髪が数本舞った。


 もし——


 もし遥斗が飛び込まなければ。


 今の一撃で、エレナの頭はトマトのように潰されていただろう。


「あっ……あっ……」

 エレナの声が、恐怖で引きつる。


「大丈夫。大丈夫だから」

 遥斗が、優しく微笑む。



***



 エーデルガッシュのゴッドアイは、オーバーロードにより飛躍的に能力向上していた。


 もはや、視界は360度。

 周囲全てを、同時に認識できる。


 さらにそれ以上——神の領域。


 1秒先の未来が視えるのだ。


 それだけの能力を駆使して——


 互角。


 いや、押されている。


(くっ……!)

 エーデルガッシュは、神速の剣を振るう。

 しかし、エリアナの攻撃はそれ以上に苛烈だった。


 エーデルガッシュの剣が届くまで接近するほど、相手の攻撃の密度が上がる。

 腕が増えたかと錯覚するほど、無数の打撃が襲いかかって来た。


 さらに、攻撃が変わる。


 手刀だ。

 エリアナの手刀による突きが空を切り裂く。

 それは、金属さえも容易に貫く。


 キィン!キィン!キィン!


 エーデルガッシュが、クロスフォード流の剣技で対応する、が。


 完全に、押され始めた。

 殴打、掴み、包囲、に加えて刺突のバリエーションが増えたせいだ。


「流石は『元』帝国皇帝陛下です。ダンスがお上手ですこと。私にも、是非ご教授いただけないかしら?」


 エリアナが、世間話をする。

 圧倒的な余裕。


「エレナ!雷撃の弾丸を!」

 遥斗が叫ぶ。


 エレナの手は震えていた。

 先ほどの恐怖が、まだ残っているのだ。


 命が惜しいのではない。


 遥斗に、ためらいもなく銃を向けた——その事実が、恐ろしいのだ。


 自分の意思が捻じ曲げられる。


 大切なものを、自分で踏みにじる。


 それが——こんなに恐ろしいものだとは。


「エレナ。僕を信じて」

 遥斗が、優しく呼びかけ、にっこりと微笑む。

 その眼は、限りなく優しかった。

 漆黒の瞳の遥斗ではない、エレナの大好きな遥斗だ。


 エレナの震えが、止まった。


(そうだ……私には……遥斗くんがいる)


 無限の勇気が湧いてくる。


「行きます!」

 エレナが、引き金を引いた。

 弾丸が、エリアナに向かって飛んでいく。


 当然——

 エリアナの腕が、弾き飛ばす。


 バチバチッ!


 雷が炸裂した。


 電撃がエリアナの腕を駆ける。


 しかし、ダメージは、ない。

 

 それで十分。

 それこそが狙い。


 一瞬、伸びたうでが、エリアナの意に反した動きをした。

 神経伝達の構造は人と変わりない。


 電気による細胞の誤作動。

 精神がどうであるかなど関係ない。

 肉体の反射なのだから。


 瞬間——


 遥斗が、動いた。


 魔力銃を、三連射。


 炎、氷、貫通。


 エリアナは、残った片腕で受けるしかない。


 爆炎の弾丸が腕を燃やす。


 バキバキバキッ!

 氷結の弾丸が、燃えている腕を凍らせる。


 そして、貫通の弾丸が凍った腕を撃ち抜いた。


 一瞬で熱し、凍らせ、衝撃を与える。

 熱衝撃による物体の破壊。


 それが、どんなに強靭な物質であろうとも、無意味。


 エリアナの片腕が——


 砕け散った。

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