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450話 大人

「……それで?」


 その言葉には——感情がなかった。


 怒りも、悲しみも、憎しみも。

 全てが。

 底なしの闇だけが、そこにあった。


「あ?『それで』、とはどういう意味だ?」

 レゾが、眉が吊り上がる。


 遥斗は微笑んだ。

 にっこりと。

 友人に接するかのように。


「君たちが不幸だったのは、十分わかったよ。辛い目に遭ったんだね。可哀想に」


 しかし、その言葉には、一片の温もりもない。


「でもさ……だからって人様に迷惑をかけるのは、違うんじゃない?」

 遥斗が、大仰に首を傾げる。


 大輔が息を呑む。

 さくらも言葉が出ない。

 これは2人の知る遥斗ではない。


 本当の遥斗なのだろうか?

 まるで別人だった。


 しかし、エレナだけは至って冷静。

(遥斗くん……フォローするから。いつでも大丈夫だよ!)


 エレナはこうなった遥斗が、常人とはかけ離れた動きをする事を知っていた。

 ならば、自分の役目に徹するのみ。

 それが遥斗の助けになると信じて。



「別に、僕らが君たちに何かしたわけじゃないよね?それは理解出来る?迷惑極まりないんだけど」

 遥斗が、さらりと言った。


 そして。


「いい大人なんだから——分別つけようよ?」


 にっこり。

 再び、微笑む。


「な……なんだと……?」


 レゾの顔が、歪む。

 ヴァイスも笑顔を失っていた。

 ガルモは低く唸り声を上げ、ルドルフは射殺さんばかりに睨みつける。


 彼らは感じていた。

 目の前の少年から、発せられる何かを。


 それは殺意の類ではない。

 もっと表現し難い、何か。


「貴様らは!」

 レゾが、叫ぶ。

「貴様らは俺たちが苦しんでいる時に、何かしてくれたのか!あぁ?!」

「そんな偉そうな口がきける資格があるとでも思ってるのか!!ガキがァああアアア!!!」


 その言葉に——


「そうだよ?分かってるじゃない」


 あっさりと、認める。


「僕たちは、子供だ」

「子供に何を期待しているのさ?いい『大人』が」


 その目は、漆黒だった。

 感情の色が見えない。

「『大人』は、子供を守って当然、じゃない?」


 その言葉に、レゾが言葉を失う。


「それにさ……」

 さらに追い打ち。

「君だって、僕が苦しい時に助けてくれなかったじゃない」


 その言葉の意味が、一瞬理解できない。


「ケヴィンさんを始め、アイアンシールドの皆さん」

「ゲイブさん」


 虚ろな目で立つ、二人を見る。


「彼らは僕が苦しい時、助けに来てくれた……素晴らしい人たちだ」

「君たちは僕の大事な人たちに、何をした?」


「し、知ったことか!俺たちの邪魔をした奴らが悪いんだ!自業自得だろうが!」

 レゾが、強がる。

 その声は、震えていた。


 恐怖。

 遥斗の目を見て、悪魔が恐怖していた。


 彼らは分かっていた。

 これはただの少年ではない、と。


「自業自得……か」

 遥斗が、静かに呟く。


「なるほど……」

 ゆっくりと、前に進む。

 一歩、また一歩。


「じゃあ教えてあげる……」

 その声は、あまりにも静かだった。


「君たちのいう——」

 遥斗の目が、さらに暗くなる。


「自業自得ってやつを、さ!」


 その言葉に、大輔が戦慄する。

 さくらが、るなを抱きしめる。


 絶対に違う。

 これは遥斗ではない。


 これは——


 狂気。



「ま、待て……何を……する気だ……?」

 ルドルフが、後ずさる。


 遥斗は——答えない。


「く……来るな!来るなァァァ!」

 レゾが、水晶を構える。


 遥斗の歩みは、止まらない。


 そして——


 遥斗が、駆け出した。

 一瞬で距離が詰まる。


「黄水晶、視力減衰!」


 レゾが叫び、黄色い水晶で遥斗の視界を奪おうとする。


 しかし、遥斗の判断は神がかっていた。

 レゾの効果範囲には決して踏み込まず、目的だけを遂行する。


(アイテム鑑定)

 遥斗の目が、水晶を捉える。

 一瞬で、頭の中に情報が流れ込む。


【エタニティオーブ・黄】

【効果:魔力共鳴を利用し、対象の視力に影響を与える】


(……違う)


 これは——目的の人物ではない。

 遥斗の視線が移る。


 次。

 その手に握られた、髑髏の杖。


(アイテム鑑定)

 再び、情報が流れ込む。


【死霊の杖】

【効果:使用者のスキルを拡大しフィールドを形成。フィールド内では効果が爆発的に増幅。多数に効果を及ぼすほど負荷が増大】


(こいつだ!)


 皆を操っているのは——こいつ。


「まずい!」

 ルドルフが、それを察した。


 この少年の目。

 確実に自分を、狙っている。


「人形よ!あいつを殺せ!」


 命令でゲイブとケヴィンが動く。


 虚ろな目のまま、遥斗に襲いかかった。


「百烈掌!」

「双蛇!」

 二方向から攻撃が迫る。


 遥斗は逃げない。

 むしろその攻撃を待ち構えている。


「ドラゴンズ・フォートレス!」


 遥斗の全身が、鱗型のオーラに包まれた。

 竜騎士の防御スキル。

 その場で動けなくなる代わりに、自身の防御力を極限まで高める技。


 ゲイブの拳が遥斗の胸を捉える。

 ケヴィンのロッドが遥斗の腹を突く。


 しかし——


 ダメージは全くない。

 この近接状態こそが遥斗の狙い。

 全ては計画通り。


「ポップ!」


 遥斗の掌に、光が集まる。

 一瞬で六つのポーションが出現した。


 それは「加速のポーション」。

 もちろん素材となったのは、ゲイブとケヴィンの速度のステータス。


 その生成速度は、常人には見えないほどの域に達していた。


「あ……あ……」

 ゲイブの動きが、鈍る。


「う……あ……」

 ケヴィンの動きも、緩慢になる。

 まるで老人のように。


 速度を三重に奪われた二人は、もはや何の脅威でもない。


 遥斗が、一つポーションを口に含む。


 ゴクリ。


 世界が——変わった。

 時間の流れが、ゆっくりに。


 レゾが、水晶を操ろうとしているのが見えた。

 しかし——遅い。

 完全にスローモーション。


 遥斗の手が、マジックバックに伸びる。

 取り出したのは小さな球体。


 音爆弾。


 そして投擲。


 レゾの眼前で炸裂した。


 ただの大音量で殺傷能力は皆無だが、それで十分だった。


「ぎゃあああああ!」

 レゾが、耳を押さえてのたうち回る。

 鼓膜が破れたのだ。


「うっ!」

 ヴァイスは耳を塞いでいた。


「く……!」

 ガルモも同じく。


「ぐ……!」

 ルドルフさえも一瞬怯む。


 人は大きな音が鳴った時、反射的に身を守る。

 それは防ぎようがない本能。


 だが、その一瞬は致命的だった。


「行け!フェイトイーター!」


 遥斗の腕から黄金のチャクラムが放たれる。

 それは真っすぐルドルフに向かって飛んだ。


 ルドルフの眼前で制止。


 そして——


 職業を、コピーする。


「な……!」


 ルドルフが、目を見開く。

 まるで魂を直接触れられたような不快感。

 そして予感、これ以上ないほど不吉な予感。


 役目を終えたフェイトイーターが、遥斗の元へ戻る。


 遥斗の手に黒い光が浮かぶ。

 マリオネイターの職魂だ。

 それはルドルフそのもの。


「遥斗くん!後は私が!」


 エレナが、宙を舞っていた。

 彼女は理解している。

 遥斗が、何をしようとしているのかを。


 マジックバックから、アイテムを取り出す。

「アルケミック!」

 職魂と「ポーションだったもの」を即座に錬金。


 一瞬でそれは完成した。


【マリオネイターのポーション】


「はい!」

 エレナが、遥斗にポーションを手渡す。

 流れるような、コンビネーション。


 一切の無駄がない。


 遥斗がそれを受け取る。


(アイテム鑑定)

(アイテム登録)


 そして——


 ゴクリとポーションを飲み干した。


 全身が黒い魔力に包み込まれる。

 マリオネイターの職業が付与された。


 今遥斗の中に「アイテム士」「竜騎士」そして「マリオネイター」の3つの力が、反発と融合を繰り返しながら渦巻いていた。


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