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【アニメーションMV有】最弱アイテム士は世界を科学する〜最弱の職業と呼ばれ誰にも期待されなかったけれど、気づけば現代知識で異世界の常識を変え無双していました〜  作者: 東雲 寛則
第1章 スタンピード編

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45話 スタンピード(1)

挿絵(By みてみん)

 6時間程時は遡る。

 ミストヴェール湖近くの平原に、アレクサンダー・ブレイブハート率いる王国軍1万が展開していた。朝靄が立ち込める中、兵士たちの息遣いだけが静寂を破る。

 アレクサンダーは目を閉じ、精神を統一していた。その姿は、まるで嵐の前の静けさのようだった。髪が風にわずかに揺れ、鎧には朝日が映り込む。


「アレクサンダー」


 副官のイザベラが静かに近づいてきた。長年の付き合いなのか、彼女の瞳に不安が入り混じっているのが分かる。


「勝てるでしょうか?」


 その問いに、アレクサンダーはゆっくりと目を開けた。その鋭い眼差しは、遠くの地平線を見据えている。


「勝てるかではない、イザベラ」彼の声は低く、しかし力強い。

「我々は勝つのだ」

 イザベラの顔に、わずかな安堵の色が浮かぶ。

「はい、そうですね」


 その時、一人の斥候が息を切らせて駆け寄ってきた。


「報告です!魔物の軍勢、襲来です!」彼の声は緊張に震えている。


 アレクサンダーの目が鋭く光る。

「数は?」

「およそ5000...です」


 周囲の兵士たちから、ざわめきが起こる。


「よし」アレクサンダーの声が響き渡る。

「全軍、戦闘準備!」


 その号令と共に、兵士たちが動き出す。剣士たちが鋭い音と共に剣を抜き、重戦士たちが巨大な盾を構える。アーチャーたちが弓を引き絞り、魔術師たちが杖を掲げる。


 遠くの地平線に、黒い影が見え始めた。


「あれは...」イザベラが息を呑む。


 アレクサンダーの表情が厳しくなる。

「やはりか。シェイドハウンド、シャドウストーカー、シャドウクローラーか」


 彼は周囲の兵士たちに向かって説明を始める。


「シェイドハウンドは平均レベル30程度だ。しかし、その嗅覚と聴力は我々の想像を超える。素早い動きには要注意だ。奴らの牙と爪は鉄の鎧さえ引き裂く」

 兵士たちの表情が引き締まる。


「シャドウストーカーは平均レベル50。耐久力が非常に高い。攻撃を受けても動じず、その怪力で圧死させる戦法をとる。油断するな」

 アーチャーたちが弓を強く握りしめる。


「シャドウクローラーは遠距離型だ。海棲植物のような姿で、多数の触手を持つ。高い再生能力に加え、水魔法と毒魔法を得意とする。非常に手ごわい相手だ」

 魔術師たちが顔を見合わせる。


 アレクサンダーは一瞬だけ言葉を切った。

「ここまでは想定内だ」


 その言葉に、兵士たちの表情がわずかに和らぐ。しかし、次の瞬間──。


「なっ...!?」イザベラの悲鳴のような声が上がる。


 空に、およそ30体の巨大な影が現れた。


「シャドウタロン...」アレクサンダーの声が震える。

「しかも、これほどの数とは...」


 兵士たちの間に動揺が走る。さらに...


「あれは...なんだ?」


 誰かの声に、全員の目が向けられる方向に、さらに巨大な3つの影が見えた。


「闇の切り札か...」アレクサンダーの表情が曇る。


 周囲の兵士たちの表情から、みるみるうちに血の気が引いていく。士気が急速に低下しているのが、手に取るように分かった。

「このままでは...」イザベラが不安そうに呟く。


 アレクサンダーは一瞬だけ目を閉じ、大きく深く息を吸い込んだ。そして──。


「見よ!」


 彼の声が、平原に響き渡る。アレクサンダーは剣を抜き、その先端を王都の方角に向けた。

「あの方向に、我々の守るべき王都がある!」

 兵士たちの目が、一斉にその方向を向く。


「我々がここで負ければ、王都は陥落する。我が国の命運は、この戦いにかかっているのだ!」


 アレクサンダーの声に力が込められていく。


「諸君! ここを死んでも通すな! 我々の背後には、守るべき家族がいる。愛する者たちがいる。彼らの未来のために、今こそ立ち上がれ!」


 兵士たちの目に、少しずつ光が戻っていく。


「我々は王国最強の軍勢だ。この程度の敵に怯むような者はいない!」


 アレクサンダーは剣を高く掲げる。

「王国に栄光あれ!」

「王国に栄光あれ!」

 兵士たちの声が、大地を揺るがすほどの轟音となって響き渡る。


 イザベラは感動に目を潤ませながら、小さく呟いた。

「さすがです、アレクサンダー」

 アレクサンダーは再び前を向き、迫り来る敵を見据えた。


「さあ、イザベラ。我らの戦いが始まるぞ」

「はい!」


 王国軍の陣形が整い、魔物の軍勢との激突が避けられないものとなった瞬間、突如として地面が揺れ始めた。


「な...何だ!?」イザベラが叫ぶ。

 地面から無数の触手が飛び出し、前線の兵士たちを掴み取っていく。シャドウクローラーの奇襲だった。


「くっ...」アレクサンダーが歯を食いしばる。

「予想外の動きか...全軍、陣形を立て直せ!」


 しかし、その言葉が終わらないうちに、シェイドハウンドの群れが襲いかかってきた。その牙は鋼鉄の鎧をも容易に引き裂いていく。

「ぐああっ!」

「た、助けてくれ!」

 悲鳴が響き渡る中、アレクサンダーは必死に指揮を続ける。


「魔術師隊! 防御魔法を展開しろ! アーチャー隊は援護を!」


 その時、空から鋭い鳴き声が響いた。シャドウタロンの襲来だ。


「先陣がシャドウタロン...だと?」アレクサンダーの目が見開く。

 シャドウタロンの麻痺の視線で、多くの兵士が動きを止められてしまう。

「このままでは...」イザベラの声が震える。


 アレクサンダーは必死に陣形を立て直そうとするが、シャドウストーカーの奇襲で次々と崩されていく。

「くそっ...」アレクサンダーが呻く。

「援軍はまだか!?」


 その瞬間、遠方から轟音が響いた。援軍の到着を告げる角笛の音だ。

「来た!」イザベラの顔に希望の色が浮かぶ。

 地平線の彼方から、各都市からの援軍が到着した。その数、実に1万。アレクサンダーの顔にも、わずかな安堵の色が浮かぶ。


「全軍に告ぐ!援軍到着!態勢を立て直し、反撃に出る!」

 アレクサンダーの声が響き渡る。


 その号令と共に、戦場の様相が一変する。


「魔術師隊!シャドウタロンを集中攻撃!」

 アレクサンダーの指示に従い、空に向かって無数の魔法が放たれる。火球、雷撃、氷の矢。色とりどりの魔法がシャドウタロンを襲う。


「グァァァァ!」


 シャドウタロンの悲鳴が響く。数体が地上に落下する。

「クレリック隊、負傷者の回復を!」

 イザベラの声に応じ、白衣の聖職者たちが動き出す。

「ミドルヒール!」

 白い光が戦場を包み込み、傷ついた兵士たちの傷が癒えていく。


「ハンター隊!中級HPポーションの配布を急げ!」

 ハンターたちが素早く動き、青い液体の入った小瓶を兵士たちに手渡していく。

 しかし、平和は長くは続かない。


「来るぞ!」


 イザベラの警告の直後、大量の水柱が王国軍を襲う。シャドウクローラーの水魔法攻撃だ。

「くっ...アーチャー隊、魔術師隊!遠距離からの反撃を!」アレクサンダーすぐさま指示を出す。

 弓矢と魔法が入り乱れ、シャドウクローラーに向かって飛んでいく。


「私も出るぞ!」アレクサンダーが剣を掲げる。

「ライトニングチャージ!」

 彼の体が稲妻と化し、シャドウクローラーの群れを貫く。


「イザベラ、援護を!」

「はい!」

 今度はイザベラが剣を掲げる。

「スターフォール!」

 夜空のような闇が広がり、そこから無数の流星が降り注ぐ。シャドウストーカーの群れが、その攻撃に悲鳴を上げる。

「ガアァァァ!」


 しかし、戦況はまだ楽観できない。シャドウタロンが空から猛攻を仕掛けてくる。鋭い羽根が雨のように降り注ぐ。

「重戦士隊!盾を!」

 アレクサンダーの号令に、重装備の兵士たちが一斉に盾を掲げる。オーラを纏った羽根の攻撃が盾に当たり、火花を散らす。

「くっ...これは...想像以上の威力だ...」重戦士の一人が呻く。


 その時、突如として戦場が暗転する。


「なっ...!?」


 アレクサンダーが驚愕の表情を浮かべる。そこに現れたのは、巨大な影。ヴォイドイーター。

 その姿を目にした兵士たちから悲鳴が上がる。


「あんなものと戦えというのか...」絶望の声が漏れる。


 アレクサンダーは必死に叫ぶ。

「諦めるな!」

 しかし、その言葉が終わらないうちに、ヴォイドイーターの虚無の吐息が放たれる。

 一瞬にして、数百の兵士が消滅。


「くっ...」アレクサンダーは苦悶の表情を浮かべる。

「全軍、総力を挙げて攻撃だ!」

 彼の号令に応じ、ありとあらゆる攻撃がヴォイドイーターに向けられる。


「ライトニングストライク!」

「フレイムバースト!」

「アイスランス!」


 魔法、弓矢、槍。あらゆる攻撃がヴォイドイーターに襲いかかる。しかし...。


「効いているのか...?」

 イザベラが不安そうに呟く。

 ヴォイドイーターの姿に、目に見える変化はない。


「くそっ...」アレクサンダーから思わず零れる。


 その時、ヴォイドイーターが動き出した。その巨体が、まるで泥のように王国軍の中に溶け込んでいく。


「うわああああ!」

「た、助けて...」

「体が...溶けて...」


 悲鳴が響き渡る。ヴォイドイーターに触れた兵士たちが、次々と消滅していく。


「全軍、後退!あの化け物に近づくな!」アレクサンダーが叫ぶ。


 しかし、その混乱に乗じ、ヴォイドイーター1体とシャドウタロン5体を含む500ほどの魔物が、包囲網を突破した。

「追え!」イザベラが叫ぶ。

 しかし、アレクサンダーは首を振る。


「だめだ...今の我々に、あれを追いかける余裕はない」


 彼の表情には、悔しさと諦めが混じっている。


「くっ...」イザベラが拳を握りしめる。


 戦場は混沌を極め、王国軍は必死の抵抗を続けていた。しかし、突破された魔物たちは、着々と王都への道を進んでいく。

 アレクサンダーは空を見上げ、小さく呟いた。


「どうか...王都が持ちこたえてくれることを...」


 戦いは、まだ終わりそうにない。

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