表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
447/514

447話 水晶

 エルウィラインは、感じていた。

 四人の人物から発せられる、圧倒的な力を。

 そして、その不吉さを。


 空気が重い。

 息をするだけで、肺が痛む。

 まるで毒を吸い込んでいるかと錯覚する。


 彼らが纏う魔力は、生命を拒絶するような冷たさを持っていた。


 こんなモノを仲間とするとは、人族はどうかしている。

 正気とは思えない。


 『災厄が形を成している』


 そう表現するしかない存在だった。


 エルウィラインは、自分の無力さに歯噛みする。

 彼はモンスターテイマーの力を得る代わりに、エルフとしての身体能力を大幅に犠牲にしていた。


 モンスターがいなければ、力を発揮できない。

 ダンジョンにさえ戻れれば、強力なモンスターをいくらでも使役できるのに。

 この作戦のためだけに、戦闘力が皆無のバルーニャスを使役してしまっている。

 1が契約出来るのは1体、が原則。

 

 無念だった。

 いや、バルーニャスが悪いわけではない。

 彼らは睡眠ガスという、この作戦に必要不可欠な能力を持っているのだから。

 しかし今は、何の力もないに等しい。


 己の無力さが、己の無能さが、悔しかった。


「ゲ、ゲイブさん!ケ、ケヴィン!ふ、ふたりは任せろ!ぜ、絶対に守り抜く!」

 アレクスが珍しく大声で叫ぶ。

 そして、大盾を構える。


「頼んだぜアレクス!」

 ゲイブとケヴィンが、前に出た。


 援軍が来ることを信じて。

 

 今は、時間を稼ぐしかない。

 仲間が、必ず来てくれる。

 そう願うしかなかった。


「ふん、やれやれ」

 ルドルフが、肩をすくめる。

「直接戦闘は、我々の得意分野ではないのだがな」


 その言葉とは裏腹に、彼らには余裕があった。

 確かにルドルフらの職業は、前衛戦闘向きとは言えない。


 マリオネイター。

 エンチャンター。

 魔力共鳴士。

 モンスターテイマー。


 しかし忘れてはならない。

 彼らは、エルミュレイナスが召喚した異世界人。

 そう、遥斗たちと同じ、異世界人なのだ。


 それぞれ持つはレア職業。


 遥斗を見ても分かるように、異世界人の能力は特殊な使い方ができる。

 無限、ともいえる可能性を秘めている。


 その可能性は、使い手の深層心理に依存する。

 彼らの心の闇は、スキルを邪悪に染め上げていた。


 人を救うのではない。

 世界のためにあるわけでもない。


 『壊すため』


 それだけに存在する。


「どーれ、俺が相手をしてやろう」


 レゾが、二人の前に立ちふさがった。

 四人の中では一番大柄な体躯。

 黒い外套から右手が出ており、掌の上には水晶が浮かんでいる。


 紫色に妖しく光る、拳大の水晶。


 ゲイブが走った。

 ケヴィンが追った。


 二人は息は完璧に合っていた。


 縦横無尽に入れ替わり、攻撃のタイミングを絞らせない。

 右から左へ、前から後ろへ。

 流れるような動き。


 ゲイブが拳を繰り出す。

 レゾが避ける。

 崩れた態勢に向かって、ケヴィンが槍を突く。


 高速連携。


 しかし、それすらも余裕でかわす。


 レゾの水晶が、強く輝いた。


 次の瞬間。


 ゲイブの身体が、崩れ落ちた。

 勢い余って地面に激突する。


「なっ……!」


 力が入らない。

 全身から、力が抜けていた。

 まるで糸を切られた人形。


 立ち上がろうとしても、全く身体が言うことを聞かない。


 魔力共鳴。


 レゾの能力は、対象の魔力と共鳴させることで力を増幅させることができる。

 逆もまた然り。

 逆位相で共鳴させれば、魔力を打ち消すことも容易なのだ。


「ゲイブさん!」


 ケヴィンが叫ぶ。


 しかし一瞥もせず、レゾ間合いに飛び込んだ。

 今がチャンス!

 この瞬間を逃せば、二度と勝機はない。


「双蛇!」


 バロック流槍術の必殺技が炸裂した。


 槍のしなりを利用し、一撃の突きで二箇所を同時攻撃する高難度スキル。

 槍身が波打ち、まるで二匹の蛇が絡み合うように見える。


 狙うは怪しげな水晶と、レゾの顔面。


 このタイミングでは、避けることは不可能。


 のはずだった。


 ガシッ!


 レゾが、素手で槍を掴んだ。


「なっ……!」


 ケヴィンが、槍を引き抜こうとする。


 が、びくともしない。


 人間とは思えない膂力。


 レゾは魔力共鳴を自分自身にかけることで、身体能力を高めることができるのだ。

 その触媒が、浮遊する水晶。

 常に自分を強化し続けている。


「ほう、やるじゃないか」


 レゾが、ニヤリと笑う。


 しかし、レゾには一瞬の油断があった。

 ケヴィンが、赤き槍を手放した。


 懐から、短い棒を取り出す。

 伸縮式のロッド。

 魔力を流せば、即座に戦闘用のサイズに伸びる。


 パァン!


 ケヴィンが、ロッドで水晶を弾き飛ばした。


 水晶が、宙を舞う。


「貴様ァ……!」

 レゾの顔が、怒りに歪む。

「乱暴に扱うなァァァ!レジェンド級アイテムだぞォォ!」


 激怒。

 その声は、地を這うような重低音。

 周囲の空気が震える。


 次の瞬間、外套の中から水晶が次々と飛び出してきた。

 それは緩やかにレゾの周りを浮遊する。


 その数十一。


 いや、先ほど弾き飛ばした水晶も、自分の意思があるかのようにレゾの元へ戻ってきた。


 これで十二。


 それぞれが、違う色に発光している。


 赤、青、緑、黄、紫、橙、白、黒、金、銀、虹。

 そして透明。


 十二色の水晶が、レゾの周囲を回り始める。

 まるで惑星が描く軌道。

 美しく、そして恐ろしく。


「幾星霜の輝きを見せてやろう」


 レゾが、両手を広げる。

 水晶が、一斉に光を放ち始めた。


 空気が、変わったのが分かる。

 重圧でケヴィンたちが押し潰されそうだ。


 レゾは全く本気を出していないのに。

 それでもケヴィンの背中に、冷たい汗が流れる。


「さあ——」


 レゾが、笑った。


「楽しんでくれよ?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ