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444話 辿り着いた真実

「色々聞いて欲しい事があるんだ。言いたい事もあると思う。疑問も出ると思う。でも、まずは僕がこの世界に来て、知ったことを聞いて欲しい」


 大輔とさくらが、真剣な表情で頷く。

 エレナも、固唾を呑んで見守っていた。


「この世界では——魔法と物質は等価なんだ」


「等価……?」

 さくらが、首を傾げる。


「エネルギー保存則は知ってるよね?それは魔法にも当てはまるんだ。魔法やスキルを使うたびに、この世界の物質がエネルギーに変換されて使用されてる。大地も、空気も、水も——全てが少しずつ」

 遥斗が続ける。

「そしてエネルギーとなった物質は全て魔法の発現に使われるわけじゃない。余剰エネルギーは、イドと呼ばれる世界へ流れ込む」


「イド……?」

 大輔が、眉をひそめる。


「うん、エネルギーだけの世界らしい。この世界では、死んだ人の魂もそこへ行くとされているみたい」

「でも、イドから物質世界への還元もあるんだ。それがモンスター。モンスターが湧き出るのは、エネルギーが物質に戻ってくる現象なんだよ。本来は」


 そこで、言葉を区切る。


「物質がエネルギーになり、エネルギーが物質になる。完璧に循環していた。バランスが取れていたんだ」


「本来は……って……」

 さくらの声が、震える。

「今は違うの……?」


「圧倒的に物質がエネルギーになる方が多い。魔法の使用量が、モンスターの還元量を遥かに超えてしまっている」

「だから、世界が削れていく。物質が失われた場所は『無』になる」


「それが——『闇』の正体」


 静寂。


「待て待て……つまり……」

 大輔が、頭を抱える。

「魔法やスキルを使えば使うほど、世界が消えていくってことかよ?」

「そうだね」

「俺たち……魔法って、無限に使えるもんだと思ってた……」


「アニメでも、ゲームでも、そうだっただろ?魔法は使い放題、スキルは何度でも。MPさえあれば——」

「でも現実は違う。大きな力を使えば、必ずその分のエネルギーがどこかから奪われる。それが——この世界の物質そのものだったんだ」


 遥斗の声が、重い。


「そんな……言われてみれば……当然なのかもしれないけど……」

 さくらが、俯く。


 エレナは、黙って聞いていた。

 彼女たちが命がけでたどり着いた真実。

 世界の法則。

 それが今、異世界の勇者パーティに伝えられている。


 これが転機となるのだろうか。

 静かに見守る。


「ちょっと待ってくれ!じゃあさ……このまま戦いを続けたら……どうなるんだ?」


 遥斗は、まっすぐに大輔を見つめた。

「この惑星自体が崩壊する」

「全ての物質は消え去り、エネルギーとなってイドに吸収される。大地も、海も、空も、生きとし生けるもの全てが——」


 世界の終わり。

 それは、比喩ではない。

 文字通りの、終焉。


「冗談だろ!?だったら!今すぐ戦いを止めないと!みんなに伝えてさ!」

「たぶん無理」

「無理?」

「もう、止められない」

「どういうことだよ!」


 大輔が詰め寄る。


「説明すれば分かるだろ!こんな馬鹿げた戦争、誰だって——」


「……みんな操られているんだ」

 遥斗の声が響く。

「さっきの見たでしょ?あの光景。自分の意思を失って殺し合っている。もう戻せない可能性が高い」


 さくらが、うっすら涙を浮かべる。

「そんな……じゃあ、どうすれば……」


「こうならないように、遥斗くんは動いていたのよ、アマテラスさんと協力して。でもこんな事態は想定出来なかった」

 エレナの拳が、強く握られていた。

「世界を崩壊させたい勢力の方が、一枚上手だった」


「世界を崩壊させたい勢力……?誰だ?誰がこんなことを企んでいる?」


「エリアナ姫ではないの?」


 大輔が、はっとする。

「た、確かに……」

「あの姫様は最初から、全部知っていたように見えた。まさか俺たちを利用して?」


「全部の元凶かもしれない。真相を知る、遥斗くんや私たちをお尋ね者にしたのも、全部計画だった……」


 しかし——


「でも……一つだけ、分からないことがあるの」

 さくらが問う。

「魔物は?なぜ、闇の中から魔物が出てくるの?闇が空洞なら、そこには何もないはずでしょ?魔物はどこから来るの?エリアナ姫は魔物を倒すという目的を掲げていたわ」


 遥斗が、さくらを見た。

 鋭い質問。


「それはね、闇の中に、ユグドラシルがあるから」

「ユグドラシル……?」

「そう。ユグドラシルは、イドからエネルギーを無理やり奪い取っている。そして奪ったエネルギーを、物質へと強制的に変換する。その物質が魔物の正体」

「じゃあ……魔物って……世界を救うための……?」


 遥斗が、ゆっくりと頷く。


「物質になった魔物は、ユグドラシルの力で物質のまま安定化される。そして時間をかけて惑星へと戻っていく。失われた物質を補うために」

「そして、今、ユグドラシルの力で惑星の崩壊も止めているんだ」


 つまり。

 戦争を止めさえすれば、助かる可能性がある。

 ユグドラシルがある限り、希望はある。


 その話を聞いて、さくらが膝から崩れ落ちた。

「嘘……そんな……私たち……」

「落ち着け、さくら。それは後だ。今は何が出来るか考えねーと……」

 大輔も、顔色が蒼白になっている。

 それでも、歯を食いしばって顔を上げた。


「そうだ……エリアナ姫のところに行こうぜ!」

「あの魔法……ノヴァテラで見たのと同じだ。ドワーフを操り人形にしてた……異世界人が使ってるんだろ?ルドルフとか言ったか?」


 遥斗が、頷く。


「前の戦争の時にはゴッド・ヴォイスで何とかなったぜ。エリアナ姫なら戻せるんじゃねーかな?話してみる価値はある!」


 大輔が走り出そうとする。


 しかし——


「そのエリアナ姫が黒幕なんだよね……戻してくれるの?」

 さくらが呟いた。


 遥斗は思わず目線を伏せる。

 答えたくない質問。

 しかし、嘘はつけない。


「多分……無理かな……ユーディたちに説得してもらってるけど……何の変化もない」

「嘘だろ……じゃあ……あいつら、全員……」

「もう……、助からない」

「ふっざけんな!」


 大輔が叫ぶ。


「だったら!世界を救うために皆殺しにしろってか!俺たちの手で!」


 さくらが、首を横に振る。

「そんなこと……できるわけない……だって……あの人たち……」


 さっきまで仲間だった人を。

 なんの罪もないのに。

 殺せるはずがない。


「それに可能だったとしても、数十万の兵を殺すほどの力。その魔力消費は世界を崩壊させるには十分すぎるよ」


 詰んでいる。

 どう動いても、破滅。

 どちらを選んでも、地獄。


 絶望が、四人を包み込む。


 その時だった。


「ふふふっ、どうやら俺様の出番が来たようだな!」


 声が、声が響いた。


 金髪が、風になびく。

 精悍な顔立ち。

 両手には、魔力を帯びた剣。


「マーガス!なんでここに!」

 遥斗が、目を見開いた。


 マーガス・ダスクブリッジ。

 アストラリア王国辺境伯であり、最強冒険者パーティ「マテリアルシーカー」のリーダー。

 超レア職業「白銀操術戦士」を有し、シルバーファングリーダー、アリアの愛弟子。

 不世出の大天才。


 全て自称ではあるが。


 その彼が不敵に笑っていた。

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