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442話 ニンジャマスター

 剣と剣が、激しくぶつかり合う。


 ブリードのシュトルムバッハーが、風を纏って唸りを上げる。

 アレクサンダーのエクスカリバーンが、光を放って煌めく。


 キィィィン!


 火花が散る。

 衝撃波が広がる。


「はぁっ!」


 ブリードが神速で踏み込んだ。

 横薙ぎの一閃。


 その剛剣は受けることさえも至難の業。

 普通の武器であれば、武器ごと一刀のもとに両断される。


 よしんば武器が無事だったとしても、受けた腕の方が無事では済まない。

 回避一択、アレクサンダーが後方に跳ぶ。


「遅い!」


 ブリードは、既に間合いに入っていた。


 縦斬り。

 袈裟斬り。

 切り上げ。


 三連撃が、流れるように放たれる。

 逃げ場なし。


 ガキィン!ガキィン!ガキィン!


 アレクサンダーが宙を舞いながら、辛うじて受け流す。

 ブリードの剛の剣に対して柔の剣。

 決して逆らわず、流れに乗るように。


 しかし、押されている。

 明らかに、押されている。


「くっ……!」

 アレクサンダーの表情に、焦りが浮かぶ。


「舞血閃!」


 死角から死角へ、残像を伴う斬撃を放つ。

 しかし剣聖に通じる技ではない。


「見切った!」


 シュトルムバッハーが、簡単に相手の剣を払う。

 返す刀で——


「クロスフォード流アラワシの太刀!」

 ズバッ!


 アレクサンダーの肩が、斬り裂かれた。


「ぐあっ!」


 血が舞う。


 アレクサンダーが、後退しながらも術を発動。


「バクエンジン!」

 爆炎がブリードを襲った。

 激しい炎が周囲を包む。


 しかし、その炎が晴れた時、ブリードはそこに悠然と立っていた。


 黄金色の薄いオーラが形成され、小さな雷を幾筋も纏っている。

 いかなる攻撃をも無効化する絶対領域、アブソリュート・ドミニオン。


「我が身に触れられる物なし!」


 そのまま、アレクサンダーに肉薄する。


「終わりだ!オーラブレード!」


 オーラを纏ったブリードの剣が、アレクサンダーの首を狙う。


 完全に、捉えた。


 斬った。


 はずだった。


 シュゥゥゥゥ……


 アレクサンダーの身体が、煙に包まれた。


「なっ!?」


 ブリードの剣に手ごたえはない。

 煙が広がり、アレクサンダーの姿が消えていく。


「やはり借り物の姿では、全力が出せんか!」


 声が響いた。

 それは、アレクサンダーのものではない。

 もっと低く、もっと粗野な——


 煙が晴れる。


 そこには——


 忍装束に身を包んだ男が立っていた。


 黒い覆面。

 鋭い目。

 全身から発せられる、殺気。


 その姿。


 アマテラスは、見覚えがあった。


 忘れるわけがない。

 忘れられるはずがない。


「カ……ゲロウ……!」


 アマテラスの声が、震える。


 五百年前、父オルミレイアスを殺した、憎き仇。

 異世界人の忍者。

 カゲロウ。


 あれから五百年——


 人族ならば生きているはずはない。


 しかし。

 この姿、この雰囲気、間違いない。


「そうか……そうだったのか……!」


 アマテラスの中で、全てが繋がっていく。


 あの時、エルフたちを操り、同士討ちをさせ、虐殺した異世界人。

 その者たちが、今、時を越え同じことを繰り返している。


 そして、それは全て——


「エルミュレイナスゥゥゥ!」


 アマテラスが、叫ぶ。


「貴様の……貴様の画策だったのかァァァ!」


 ルナークの王であった彼の知識。

 国の位置、軍の動き、王の力。

 全てを知る彼ならば——


 あの作戦の遂行は、容易だっただろう。


「何故だ!何故そんなことをする!何故同胞を!何故エルフを!何故世界を!」


 アマテラスの感情が、ぐちゃぐちゃになる。


 怒り。

 悲しみ。

 絶望。

 憎悪。


 全てが混ざり合い、心を引き裂く。


「何故だァァァァァ!」


 絶叫。


 エルミュレイナスは、静かに答えた。


「神の意思だ」


 その声には、一片の曇りもない。


「違う!」

 エーデルガッシュが叫ぶ。

「こんなものは神の意思であるはずがない!神は世界の救済を望んでいる!争いの終結を望んでいる!」


 しかし、エルミュレイナスは首を横に振る。

「お前のそれも、確かに神の意思だ」

「大いなる流れ。全ては神の光臨に繋がる」


 エルミュレイナスが、天を仰ぐ。


 その瞳には、狂気が宿っていた。

「500年の時を経て、今こそ——エリュシオンが成就する」


 そして——


「ゴッド・トランス・オーバーロード」


 瞬間、黄金の光が、エルミュレイナスに集い始めた。


 それは渦を巻き、収束し——


 白へと変化する。


 純白の、清浄なる輝き。


 ふわり。


 エルミュレイナスの身体が、宙に浮いた。


 あまりの力に、重力すら意味を成さない。


「なっ……これは……」

 ゴルビンが、呻く。


「神子の力……だというのか……?」

 バレーンが、信じられないという表情。


 エルフの神子。


 いるはずのない存在。

 エルフには職業が存在しないのだから。


 人工的な神子。

 神の理を越え、神の僕となった。


 エルミュレイナスがかつての実験で付与されたのは——

 神子の職業だったのだ。


 清き光。


 それは清すぎて、むしろ邪悪といえる程だった。

 純粋すぎる何かが、人の心を蝕む。


 デミットの脳裏に、ある疑問が浮かぶ。

(そ、そういえばアレクサンダー殿は……?)


 今、目の前にいるのは忍者だ。

 昨日まで共に戦っていたアレクサンダーとは、まるで別人。

 いや——別人なのだ。


 ならば、本物のアレクサンダーはどこに?


「生きてるわけねーだろ?」

 カゲロウが、デミットの考えを察したように言う。


 覆面の下の顔が、歪む。


 笑っている。


「あいつの親父みたいになー!クカカカ!」

 カゲロウが、アマテラスを指さして笑う。


 その言葉の意味。


 デミットは、全てを察した。

 本物のアレクサンダーは殺されたのだ。


(ノヴァテラ連邦を襲ってきた「アマテラス」も……)

 カゲロウ、と呼ばれるこの男だ。

 今、激昂しているアマテラスと姿形は同じでも魂が全く違う。


 全てが、繋がっていく。

 ルドルフを始めとする異世界人たちも、操られていたのではない。

 最初から、共謀者。


 エリアナ姫が救世主として光臨し、連合軍を作ったのも——


 全て、作戦。


 デミットは慧眼などと持て囃されていたが、全てが、エルミュレイナスの掌の上。


 踊らされていただけ。


 何も見えていなかった。

 何も分かっていなかった。

 何も知らなかった。


「あ……ああ……」


 デミットの口から、呻き声が漏れる。


 力が抜けていく。

 膝が、ガクガクと震える。


 周囲では——


 操られた兵士たちが、殺し合いを続けている。


 絶叫。

 悲鳴。

 断末魔。


 血が飛び散る。

 肉が引き裂かれる。

 骨が砕ける。


 人が人を喰らい。

 エルフがエルフを殺す。


 地獄。


 まさに、地獄絵図。


「ギャアアアアア!」

「ウオオオオオ!」


 絶望と絶叫と血が、戦場を支配していた。


 世界の終わり。


 それは、もう目の前まで来ていた。

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