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438話 偽神

 エーデルガッシュから放たれる白き光。

 それは言葉では表現できない、神聖な何かだったのだろうか。


 光翼騎士団の戦士たちが、次々と剣を下ろしていく。


「これは……」

「神……なのか……」


 帝国騎士たちも、膝をつき始める。

 その力を前にして、戦意を維持するなど不可能だった。


 言葉はすでに意味を持たない。

 理屈も、論理も、関係ない。


 神の力は、感情に直接訴えかけた。


 心の奥底から、何かが溢れてくる。

 温かく、優しく、全てが許されるような——


「くっ……そっ……!」


 ゴルビンが歯を食いしばる。

 体が勝手に膝をつこうとするのを、必死に堪えていた。


「これは……一体……」


 デミットも冷や汗を流している。

 理性が感情に決死の抵抗を試みる。

(跪いてはならない……跪いては……すべてが終わってしまう)


 しかし——


 エリアナは、まったく平然としていた。

 いや、彼女だけではない。

 アレクサンダーとマーリンも。


 三人は、エーデルガッシュの力に何の影響も受けていないようだ。


「不思議ですね」

 エリアナが小首を傾げる。

「偽りの神の力で、そこまで出来るものなのでしょうか」


 その言葉は、エーデルガッシュの動揺を誘った。


(おかしい……なぜだ……)


 神より授かったこの力。

 誰もが膝をつき、神の御心に触れるこの力。

 なぜ、エリアナだけは平然としていられるのか。


「姫様……お力を示す時でございます」


 マーリンが静かに言う。


「ええ、そのようですね」

 エリアナが、微笑んだ。


 その笑みには、一片の曇りもない。

 純粋な、天使のような微笑み。


 エリアナが目を閉じる。

 深く、深く——


「ゴッド・ヴォイス・オーバーロード」


 その瞬間。


 黄金の魔力が、エリアナの周囲に集まり始めた。

 それは渦を巻き、収束し——


 白へと変化する。


 エーデルガッシュと同じ、純白の輝き。


 ふわり。


 エリアナの身体が、浮き上がった。


 そして——


 歌が聞こえる。


 言葉ではない、美しい旋律。

 それは神の歌声。


 聞く者全ての心を、優しく包み込む。

 聞く者全ての魂を、深く揺さぶる。


「ああ……」


 光翼騎士団の騎士たちが、涙を流す。

 帝国騎士たちも、恍惚とした表情で見上げる。


 迷っていた兵士たち。

 エーデルガッシュの力に心を動かされていた者たち。


 全てが、エリアナへと傾いた。


「ああ……エリアナ姫……」

「我らの神子……」

「神の意思……」


 ゴルビンの全身が震える。

 デミットにも、もはや迷いはない。


 力が漲る。

 その歌声を聞いた者は、神の御名において邪を滅する剣となることを誓う。


 ゴッドアイとゴッドヴォイス。


 人心掌握という点において、ゴッドヴォイスが圧倒的に上だった。


 エーデルガッシュの力が、完全に打ち消されてしまった。

 いや——これは飲み込まれている。


「どちらの神が正しかったか結論が出たようですね。さあ、反逆者達を捕らえなさい」


 エリアナが命じる。


 兵士たちが、アマテラスとエーデルガッシュに向かって動き出す。

 もはや誰も味方はいない。

 全てがエリアナの僕となった。


「貴様らぁ!」

 アマテラスが叫ぶが——


「どうかお待ちください!」


 別の声が響いた。

 イザベラだった。

 そして、ガイラス隊が姿を現す。


「イザベラ副団長!?」

 光翼騎士団の騎士たちが驚く。


「エリアナ姫」


 イザベラが前に進み出る。


「我らはエドガー王陛下より、勅命を賜っております」


 懐から、王家の紋章が刻まれた書状を取り出す。


「アストラリア王国軍は、直ちに戦闘を停止。連合軍への協力を禁じ、王都への帰還を命じております」


 イザベラの声が、戦場に響く。

 そして、光翼騎士団に向き直る。


「剣を収めよ。これは王の勅命であるぞ」


 その言葉に誰もが動けずにいた。


「姫様、どうか陛下の命をお聞き入れください。エドガー王は此度の戦を嘆いております!」 


 エリアナ姫とて、王の勅命には逆らえない。

 騎士にとっても王命は絶対である。


 アレクサンダーが、イザベラの元へ歩み寄った。

「イザベラ。その書状を確認させてもらうぞ」


 イザベラが書状を差し出す。

 これで流れが変わる。

 イザベラは、そう確信していた。


 アレクサンダーは書状を受け取り、念入りに目を通す。


 長い沈黙。


 そして——


「これは偽物だ」


 断言した。


「なっ……!」

 イザベラが目を見開く。


「イザベラ。お前はクロノス教団に洗脳されているのであろう。王の名を語るのは重罪、いや極刑に値する!」


 アレクサンダーの目が、冷たい。


「長い付き合いの俺には分かる。お前はもう、イザベラではない」


「違う……!アレクサンダー、私は——」


 イザベラが縋るように手を伸ばす。


 共に戦ってきた戦友。

 それ以上の感情を抱いていた相手。

 その人に、そんなことを言われる。


 これほどの絶望が、この世にあるのだろうか?


「待ってくれ……!」


 ショックで、言葉が出ない。

 涙が溢れてくる。


「アレクサンダー……お願い……信じて……」


 イザベラが、アレクサンダーに近づこうとする。


 シュッ。


 鋭い音が響いた。


「あ……」


 イザベラの胸に、エクスカリバーンが突き刺さっていた。


「副団長!!」

 ガイラス隊が叫ぶ。


 イザベラの口から、血が溢れる。


「アレク……サンダー……」


 信じられない。

 理解できない。


 なぜ。


 ドサリ。


 イザベラの身体が、地面に崩れ落ちた。


「王の名を汚す逆賊を打ち取った」


 アレクサンダーが冷たく言い放つ。


 血に濡れたエクスカリバーンを、無造作に振って血を払った。


「貴様ァァァァ!よくも姉御をォォォォ!!」


 ガイラスが激昂する。


「三位一体——デッドストリームアタック!」


 ガイラス、ナッシュ、オルティガの三人が、縦一列となって突撃する。

 全員が身の丈ほどもバスターソードを構えて、突進のスキルを使用した。


 ガイラスはアレクサンダーの右側に走り抜けながら胴を。

 ナッシュとオルティガは左側に走り抜けて、脚と首を斬り飛ばした。


 ザシュザシュザシュ!


 凄まじい斬撃。


 しかし手ごたえがない。


「ククッ……残像だ」


 アレクサンダーの姿が、消える。

 斬ったのは、幻だった。


「なんだとっ!?」


 次の瞬間三つの首が、宙に舞った。


「あ……」


 ガイラス、ナッシュ、オルティガ。

 三人の身体が、同時に崩れ落ちる。


「舞血閃——エクスカリバーンの真の力よ」


 アレクサンダーが、血に濡れた剣を掲げる。


 その時だった。


 シルバーミスト全体に、邪悪な魔力が満ちる。


 空気が重くなり、呼吸が苦しくなる。


 何か、とてつもなく禍々しいものが——


「ふふふふふ……ついに、ついに発動したぞ……」


 ルドルフ。

 彼の魔法が、ついに完成したのだ。


 戦場に倒れている、無数の眠っている兵士たち。

 その身体から、黒い魔力が立ち上り始めた。


「起きろ、我が操り人形よ……」


 ルドルフの声が、戦場に響き渡る。


「今ここに地獄を、顕現させてやろうぞ!」

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