426話 最強の冒険者
「マーガス伝説だーーー!!」
絶叫と共にマーガスが跳躍し、剣を振り下ろす。
しかし、ゴルビンには関係ない。
「剛腕の一撃!」
必殺の拳を繰り出すのみ。
敵の攻撃をはじき返し、なお圧倒するその威力。
しかし、その刃はゴルビンの手前で別の形へと変化した。
「アルケミック!螺旋蛇!」
ヒイロガネの大剣が一瞬で長槍へと形を変える。
螺旋状に回転する穂先が、ゴルビンの拳を僅かに弾く。
ドゴォォォン!
衝撃波がマーガスを掠め、左に逸れた。
ゴルビンが目を見開く。
攻撃を防がれたからではない。
マーガスの、流れる様な錬金術に見惚れたからだ。
武器ギルドの長として、その見事な造形術を誰より理解出来た。
一瞬の油断、それをマーガスが見逃すはずもない。
「アルケミック!」
赤き槍は大斧へと瞬時に変化を遂げる。
「オーラアックス!」
マーガスの渾身の踏み込みに地面が割れる。
青白いオーラを纏った斧を、横一文字に振るった。
ガキィィィン!
激しい金属音が響き渡る。
「いってーー!」
マーガスの手が痺れるほどの衝撃。
それでもアダマンタイトの鎧に、わずかな擦り傷すら付けられない。
「へっ、そんなもんか?」
ゴルビンが斧の柄を掴もうとする。
「アルケミック!」
しかし、マーガスは既に次の動きに移っていた。
斧が瞬時に鎖へと変化し、ゴルビンの腕に巻き付く。
「食らえ!チェーンバインド!」
鎖がゴルビンの身体に巻き付き、動きを封じる。
かに見えた。
「ぬおおお!」
ゴルビンが腕力だけで鎖を引きちぎる。
ヒイロガネの鎖が、まるで糸のように千切れ飛んだ。
「げ!人じゃなかったか!」
「バカヤロウ!人に決まってんだろ!剛腕の一撃!」
巨大な拳が、マーガスに迫る。
だが——
「アルケミック!」
ミスリルでシールドを作り、紙一重で拳を防御する。
金属がぐちゃぐちゃに潰れるが、逆に衝撃を吸収する緩衝材の役目を果たした。
「アルケミック!」
そして散らばったヒイロガネの破片が、再び集まり始めた。
二振りの剣となったミスリルとヒイロガネ。
間髪入れずに、嵐のような斬撃を繰り出す。
右、左、上、下——あらゆる角度から刃が迫る。
キンキンキンキン!
しかし、全ての斬撃がアダマンタイトの鎧に弾かれる。
「ちっ、硬すぎるだろその鎧!」
マーガスが舌打ちする。
「だから言ってんだろ、無駄だってな!」
ゴルビンが反撃に転じる。
ドゴッ!
地面を殴りつけた拳が、石畳を粉砕する。
衝撃波が放射状に広がり、マーガスを吹き飛ばそうとする。
だが、マーガスは双剣を地面に突き立て、踏みとどまった。
「ほう、やるじゃねぇか」
ゴルビンが感心したように呟く。
「その歳でその強さ、その精神力。何より武器錬成の技の冴え。正直、部下に欲しいくらいだぜ」
「は?」
マーガスが眉をひそめる。
「クロノス教団なんかに与するには、もったいねぇ男だ」
ゴルビンが拳を構え直す。
「どうだ?うちに来ないか?」
マーガスが苦笑する。
「あんたこそ、世界を滅亡させようってアホ軍団にしとくには惜しいな」
「あ?何言ってんだお前?」
ゴルビンが首をかしげる。
「世界滅亡?そりゃお前らの目的だろ?」
「はあ?お前らこそ世界を滅亡、どころか異世界すら消滅させる手伝いしてんだろータコが!」
二人の会話が噛み合わない。
何かがおかしい。
「双竜漸剣!」
マーガスが攻撃を再開する。
剣のしなりを利用した、必殺の斬撃。
しかしゴルビンの迎撃の拳が全てを撃ち落とす。
『迎撃の腕輪・連』によるオートガード。
「無駄無駄無駄!」
「くそっおっさんの癖に!やっぱりモンスターじゃねぇかよ!」
「俺様のどこがモンスターだ!」
「顔だよ!顔!ゴブリンの親戚面しやがって!」
「このガキ!もう許さねーからな!」
「こっちのセリフだ!オーク面!アルケミック!」
ヒイロガネが巨大な戦槌へと変化し、ゴルビンの頭部を狙う。
ゴィィィィン!
戦槌が兜に激突し、鐘のような音が鳴った。
***
その頃、転移魔法陣からは新たな部隊が到着していた。
「近接部隊、展開!」
剣士、斧戦士、槌使い、双剣士——様々な武器を持つ兵士たちが戦場に躍り出る。
彼らの装備は軽装だが、その分機動力に優れていた。
「魔術師団、長弓部隊は一時後退!」
バレーンが指示を出す。
兵たちが後方へと下がっていく。
連続でのスキル使用で、MPが枯渇したのだ。
「MPポーション摂取!急いで回復を!」
戦場は、武器と武器がぶつかり合う近接戦闘へと移行した。
「はああ!」
「くらえ!」
ガキン!ガキン!
金属音が戦場に響き渡る。
エルフたちも、オーラを纏った武器で応戦する。
俊敏性ではエルフが勝る。
しかし、連合軍の兵士たちは職業補正とスキルを持っている。
「ソードダンス!」
剣士が回転しながら、周囲のエルフを斬り払う。
「アースブレイク!」
槌使いが地面を叩き、衝撃波を発生させる。
エルフたちも負けじと反撃する。
素早い動きで懐に潜り込み、急所を狙う。
「ぐあっ!」
「やられた!」
両軍に死傷者が出始める。
しかし、どちらも決定打に欠けていた。
「ヒーリング!」
「回復させるな!」
治癒術師たちが負傷者を癒し、戦線は膠着状態に陥る。
連合軍の増援は続き、戦略も刻々と変化する。
それでも、エルフたちも必死の抵抗に、均衡は崩れない。
「炎の精霊よ、大地を!天空を!紫炎で統べよ! インフェルノブラスト!」
突如、巨大な炎が放たれた。
誰かに直撃した訳ではないが、桁外れの威力に誰もが目を奪われる。
「ハイマルチショット!」
20本の光の矢が連合軍の兵士を襲う。
その矢は複雑な軌道を描き、正確無比に足だけを撃ち抜く。
そこにあったのは5つの人影。
たった5人ではある。
しかしそれは最強。
「これで俺らもおたずね者だぜ、チクショー!」
「これも運命じゃて、諦めんか」
「一生遊んで暮らすお金が貰えるです。ハリキルのです!」
「それも世界が残っていればの話……」
「何にせよ受けた依頼はこなすのみよ!シルバーファングに失敗の2文字はねーぞ!気合入れろ!」
「応!」
アリア・ブレイディアをリーダ―とする、人族最強の冒険者パーティ「シルバーファング」の登場だった。




