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415話 ドラゴン・インパクト

 さくらはモンスターテイマーだと聞いていたが、使役しているのが神獣だとは誰も知らなかった。


 一柱で国をも滅ぼすという、伝説のモンスター。

 モンスターの最終形態であり、頂点。


 そして今、その神獣が傷つけられた。


 さくらにとってはペット以上、もはや家族。

 二つで一つの存在なのだ。


「るなに……よくも……」


 さくらの声が震えている。

 これまで見せたことのない、激しい怒りの感情が露になっている。


 るなの美しい銀毛に刻まれた黒い焦げ跡。

 それは、さくらにとって許されざる冒涜だった。


 ゴォォォォォォ!


 さくらが神獣とシンクロし始める。

 彼女の瞳が、るなと同じ神秘的な瑠璃色に変わっていく。


 るなの魔力が爆発した。

 周囲の空気が歪む。

 重力すら捻じ曲げるような、圧倒的な威圧感が戦場を包み込んだ。


 これは、人族が到達できる領域を遥かに超えている。

 神々の御業。

 創世の力。


「うわあああ!」

「こ、これは……」

「も、もう無理……息が……」


 あまりの魔力圧に、「ミスリルの壁」の荒くれ者たちでさえ、次々と泡を吹いて気を失っていく。


 ゴルビンでさえ、膝が笑っている。

 アレクサンダーも必死に意識を保とうとするが、立っているのがやっと。


「……もう許さない。手加減しない」


 さくらの声に、感情はない。

 ただ、機械的な意思だけがあるだけ。


「許さない?」


「許さないのはこちらの方だーーー!」


 グランディスは魂の奥底から吠える。


 何も悪い事はしていない。

 花を愛する心優しき母。

 それを無残な姿に変えられて黙っていられようか。


 デュランディスの魂も呼応して吠える。

 頭上のデスペアが一層の輝きを放ち、まるで小さな太陽のように光った。


 二つの怒りが共鳴し、増幅されていく。

 それに伴いグランディスの身体はプラズマと化していった。

 物質の制約を無くし、現象そのものに生命が宿る。


 もはや彼は、エルフではない。

 生物でもない。

 純粋なる怒りの化身。


 精霊化現象「ポゼッション」だった。


 しかし、さくらはお構いなし。

 最大シンクロで必殺技を放つ。


「セレスティアル・ムーンライト!!」


 るなの頭上に、美しい満月が輝いた。

 しかし、それは本物の月ではない。

 神獣の力で創造された、幻影の月。


 そこから黄金の光が放たれる。

 触れるもの全てを浄化し、悪しき存在を消滅させる聖光。


 ギュオォォォォォ!


 光の濁流がグランディスを飲み込んだ。


 いや、違う。


 今やグランディスの速度は光と同じ。

 電撃が奔る瞬間、それに乗って移動する。

 物理法則すら超越した、現象移動。


 光の濁流をすり抜け、一瞬でさくらの背後に現れた。


「そこだ!」


 雷で作られた拳が、さくらの後頭部を狙う。


 しかし、るなが疾風の速度で割り込んだ。

 神獣の反射神経は、プラズマ化したグランディスと互角。


 るなが噛みつこうとするが、牙は虚しく空を切る。

 実体がない。

 プラズマは物質ではなく、現象なのだ。


 バチバチバチッ!


 プラズマは隣にいた大輔に重なり、大ダメージを与える。


「ぐぉぉぉぉぉ!何だぁーーー!」


 大輔が悲鳴を上げるが、どうする事も出来ない。

 引きはがそうにも実体がないのだ。


 アダマンタイトの鎧の上からでも、電撃は容赦なく体を蝕んでいく。

 このままでは、鎧ごと焼き殺されてしまう。


 しかし、大輔の不屈の闘志は、窮地になるほどに燃え上がっていく。


「なめてんじゃねーよ、おらぁ!」


 全身からオーラを発する。

 それは竜の咆哮にも似た、凄まじい気迫。

 黄金の竜の鱗が全身を覆い、背中には巨大なドラゴンの翼が生えた。


 竜騎士最強のスキル「ドラゴンフォーム」。

 竜の絶大な力を自分の力とする、大輔の真なる姿。


 この形態では、大輔の全能力が十倍に跳ね上がる。

 しかも、竜の加護により、魔法耐性も飛躍的に向上していた。

 プラズマの電撃は、竜の鱗に阻まれてダメージを与えられない。


「今度はこっちの番だ!」


 大輔がランスを天に向かって構える。

 アダマンタイトの穂先に、竜の力が集約されていく。


 空気が震える。

 大地が軋む。



「ドラゴン・インパクトォォォ!!!」



 天に向かってランスを撃ちだす。

 それは文字通り、天を穿つ一撃だった。

 その力は周囲の人、建物関係なく吹き飛ばす。

 もはや攻撃というより、天変地異に近い。


 天に伸びた一条の光は雲を散らし、成層圏を突破し、宇宙空間にまで伸びる。


 周囲を巻き込む大技だった。

 敵も味方も関係ない。

 ただ、目の前の敵を消滅させる破壊の権化。


 グランディスも、その衝撃に飲み込まれた。

 傍にいたため、プラズマ体が粉々になる。


 しかし——


 千切れ飛んだプラズマが、瞬時に一か所に集まっていく。

 まるで時間が巻き戻されたかのように。


 そして完全に復元されてしまった。


「無敵かよ?」

 大輔は呆れて呟くが、さくらは違う。

 神獣の直感が何かを伝えている。


「弱点……見つけた」

「マジか!教えろ!」

「……ください」

「何をだよ!」

「教えて『ください』」

「んな事言ってる場合か!」


 さくらが頬を膨らませて、そっぽを向いてしまった。

 どうやら、るなが発見した重要情報が、軽く扱われるのが気にくわないらしい。


 こうなったさくらの強情さは、大輔は痛いほど知っている。

「教えてください!さくらさん!」


 さくらは満足したのか、グランディスの方を指さす。

 それは天使の輪。

 デスペアは発光しているだけ。 


 これが、グランディスの生命線。


「アレを破壊すればいいんだな?」


 大輔がいうと、さくらはコクリ頷く。


 今度こそ、「ドラゴン・インパクト」で勝負をかける。


 大輔が再び構えを取った。

 魔力を増大させていく。



 バタッ


 急に、グランディスは実体化した。

 それだけでない。

 気を失って地面に落ちた。


 力の使いすぎ。

 限界を超えた力の行使の反動で、ついに体力の限界に達したのだ。


「は?え?」


 あっけにとられる大輔。


 必殺の構えを取っていたのに、拍子抜けもいいところ。

 まさかの戦闘終了に、戦場に静寂が訪れる。


「……とりあえず、捕獲するか」


 大輔がグランディスに近づこうとするが、るなが低く唸った。


「フゥゥゥゥゥ……」


 警戒の音。


 そこには、この戦場に似つかわしくない少女が、静かに佇んでいた。

 シエル・ブルームライト。


 魔術師の帽子を深く被り、その瞳が見えない。

 泣いているのか、怒っているのか。


 静かにそこに佇んでいた。

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