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412話 父の魂、覚醒の時

 グランディスが立ち尽くす。

 静かに目を瞑り……覚悟を決めた。


「シエルちゃん」

「何っすか?」


 シエルが駆け寄る。


「ありがとう。こんな俺っちに付き合ってくれて」

「何言ってんすか!あんたらしくもない!」

「いざとなったらさ、シエルちゃんだけは逃げて欲しんだ。シエルちゃんに何かあったら遥斗に顔向け出来ないから」


 グランディスが寂しそうに笑う。


「出来たらずっと……忘れないでいて欲しいっち!」


 腰からデスペアを取り出す。

 黒いチャクラムが、まるで鼓動のように激しく振動していた。


 ブルブルブル……

 バチバチバチッ!


 ディスチャージャーも、これまでにないほど激しく火花を散らしている。


 2つの武器が戦いたがっている。

 それが手に取るように分かる。


 父の魂が、怒りが、燃えているのが痛いほど伝わってきた。

(……感じるよ。母さんをあんな風にされて……)


 グランディスの声が震える。

「許せねぇよな!俺も一緒だ!!」


 グランディスがアレクサンダーに向かって、弾かれたように駆け出した。


 だがアレクサンダーは、それを静かに眺めている。

 まるで駄々をこねる子供を見るような、憐れみにも似た表情だった。


「無謀だな」

 アレクサンダーが小さくため息をつく。


「でりゃぁぁぁぁぁ!」


 グランディスが渾身の力でデスペアを投げつけた。

 黒い刃が回転しながら、アレクサンダーの顔を狙う。


 しかし——


 アレクサンダーの反応速度に比べて、デスペアはあまりに遅すぎた。

 首を僅かに傾けるだけで、簡単に避けられてしまう。


 これが、ここがグランディスの唯一の勝機だった。


「戻れ、デスペア!」


 グランディスが叫ぶと、磁石に引き寄せられるようにデスペアが手元に戻ってくる。


 意表を突いた、後方からの奇襲攻撃。


「くだらぬ児戯だ」


 アレクサンダーのシックスセンスは、360度全ての攻撃を捉えていた。

 当然デスペアが戻る軌道も、グランディスの位置も、全て計算済み。


 デスペアが手に戻る直前、既にアレクサンダーがグランディスの側面を通り過ぎていた。

 木漏れ日の中、優雅に森を散歩するかのように。


 すれ違う一瞬、光の翼がグランディスに触れた。


 シュッ!


 デスペアがグランディスの手に戻る。

 と同時に、グランディスの全身から血が噴き出した。


「う、うぁああああああ!」


 胸、腕、足——至る所から一斉に。


 実力差が、絶望的すぎた。


 グランディスは膝をつきながらマリエラの元に這いずっていく。


「母さん……母さん……」


 マリエラは生きていた。

 息は浅いが、確実に生きている。


 良かった……本当に。


「グ、グラン……」

「母さん、大丈夫?」


 マリエラが微かに瞼を開けた。


 ゾクッ


 背後に気配を感じる。

 グランディスが振り返ると、いつの間にかアレクサンダーが立っていた。

 光翼も光の粒子も消失している。

 スキルが切れたのか、解除したのかは分からない。


 どちらにしても勝負は決した。


「悔しい……」

 グランディスが血まみれの拳を握りしめる。

「何もできない……何も守れない……悔しいよ……」


 母を守ると誓ったのに。

 魂だけになった父に誓ったのに。


 もっと強くなっておけば良かった。

 もっと早く覚悟を決めておけば良かった。


 後悔ばかりが胸を締め付ける。


 涙が頬を伝い、地面に落ちた。


「父さん……ごめんなさい……」

「俺、全然ダメだった……あんたの息子のくせに……全然……」


 アレクサンダーは、マリエラに手加減していた。

 デミットに「殺さず、捕獲してほしい」と頼まれていたからだ。

 だから辛うじて生かしておいた。


 しかし、グランディスは違う。

 彼を殺しても、何の問題もない。


「これで任務完了だ」


 アレクサンダーがエクスカリバーンを両手で握り、高く振り上げる。

 聖なる光が刃に収束し、処刑の準備が整った。


 グランディスの首に向かって、聖剣が振り下ろされる。



 キィィィィィィン!



 甲高い金属音が響く。


 デスペアが、エクスカリバーンを受け止めていた。

 しかしグランディスはデスペアを握っていない。


 宙に浮いて、勝手に防御している。


「何だと?」


 アレクサンダーが目を見開く。


 武器が、自分で動いている?

 特殊なマジックアイテムか?


 受け止めるだけに留まらず、デスペアが猛烈な回転を始めた。


 ギュルルルルル!


 黒い刀身が高速回転しながら、色を変えていく。

 摩擦熱で黒から赤へ、赤から白へ。


 そして——


 純白の光を放った。


 眩い光が周囲を包み込む。

 太陽のような、強烈な輝き。


 アレクサンダーが腕で目を覆い、ゴルビンも遠くから目を細める。

 シエルは慌てて帽子を深く被った。


 誰もが強烈な光に目を背ける。


 だが、グランディスだけは、その光を眩しく感じなかった。

 むしろ、温かく、懐かしい感覚に包まれている。


 光の中に、人影が見えた。

 背は高く、体格は細身。

 優しそうな顔立ちで、グランディスと似た雰囲気を持っている。


『グランディス……』


 間違いなく、父だった。

 デュランディスの声が、心に直接響く。

『よく頑張った。本当に、よく頑張ったな』


「父さん……」

 グランディスの目から、とめどなく涙が溢れる。

 今度は悔しさではない。

 安堵の涙だった。


「でも、俺じゃ……俺だけの力じゃ……」


『お前は一人じゃない』

 デュランディスが手を差し伸べる。


 グランディスがその手を取った瞬間——


 ドォォォォォォォン!


 光が弾けた。


 収まった光の向こうに、新たな存在が立っていた。

 それは確かにグランディスだった。


 しかし、以前とは全く違う。


 頭上には白く輝く天使の輪。

 背中には、電撃を纏った巨大な翼。


 全身から紫電のオーラが立ち上り、まるで神の使いのような威厳を放っていた。


「これは……」

 アレクサンダーが息を呑む。


 グランディスの瞳が、深い金色に変わっている。

 そこには、もう少年の面影はなかった。


「お前たちはやり過ぎた」

 グランディスが口を開く。


 先ほどまでとは全く違う。

 声色も。

 口調も。


 バチバチバチッ!

 全身から電撃が迸る。

 しかし、それは以前のような制御不能な放電ではない。

 完全にコントロールされた、意思ある雷だった。


 感情がそのまま力となり、電撃として具現化する。


「マリエラを傷つけた罪、お前たちの命で贖え!」 


 グランディスの中で、デュランディスの意識が同化していた。

 父の闘志、戦闘経験、そして生きてきた全ての知識が、息子に流れ込んでいる。

 それは単純な力の付与ではなく、二つの魂が共鳴することで生まれる相乗効果。


 魂の力により、デスペアからオカートが流れ込む。

 グランディスとデュランディスの魂はオカートを昇華させる。


 それは純然たる願い。


 聖なる光。


 雷と形となって。



 天使と化したグランディスが、アレクサンダーと対峙した。

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