表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
386/514

386話 VTOL

 まず遥斗たちは治療室の外で待っていた仲間たちに、アイラの無事と今までの経緯を報告した。

 シエルやアイアンシールド、そしてシルバーファングの面々が複雑な表情を浮かべる。


「よかったっち!アイラさん助かったっち!でかしたぞー遥斗!」

 知り合いだったグランディスだけは能天気に喜ぶ。

 アイラも思わず微笑みを返していた。

 

「さて、それでは王国行きメンバーを選別せねばならん。最大で7名。遥斗を除けば6名だ」

 アマテラスが口火を切った。

 どうやら移動方法は、メンバー選抜が終わってからの説明になるらしい。

 やはり、遥斗が行く事だけは決定事項のようだ。


「エドガー王と会うメンバー以外は、エルフ国防衛を担当してもらう。どちらも命がけだ。さあ、誰が行くか決めるんだ」


「余は当然行かせてもらう」

 エーデルガッシュが初めに名乗り出た。

 発案者として当然だろう。


「アストラリア王国といえば、この俺だろ?ダスクブリッジ辺境伯の名は伊達じゃないぜ!」

 マーガスが自信満々に胸を張る。

 確かに、貴族の子息の地位は利用できるかもしれない。

 そして彼は意外に交友関係が広い。


「エドガー王に真実を話させる。一筋縄じゃいかないよね?私が協力しよう」

 ルシウスが苦笑しながら手を上げる。


「向こうで安全を確保するには、私の力が必要になるはずです。騎士団には顔が効きます!」

 イザベラも名乗りを上げる。


「私も行きます!」

 エレナが宣言した。

 これ以上ないほどの決意を込めて。


「エレナ……君は王国から追われる身だ。危険すぎる。ここに残りたまえ」

 ルシウスが心配そうにエレナを制止した。


「お父様に事情を話せばわかってもらえるはずです。邪魔にはなりません」


 ファーンウッド家の格はダスクブリッジ家より遥かに上。

 マーガスを連れていくなら、エレナの方が確実だろう。


「お前は残るっち~エレナ姫の方が優秀だっち~」

 グランディスがマーガスをからかう。

「お、おい!ちょ、ちょっと待てって!」

 マーガス大慌て。


 その時、横からブリードが進み出た。

「陛下が同行されるのであれば、私めも行かねばなりますまい。是非ご命令を……」

 深々と頭を下げる。


「いらん」

 エーデルガッシュの返答は素っ気なかった。


「左様で……では、この首掻っ捌きまして——」

 ブリードが剣を抜く。


「わわわ!待って待って!」

 遥斗が慌てて止める。

「同行認めます!認めますから!」


 これで賞金首が勢揃いとなった。


「あはははっ!一攫千金だな、おい!誰かこいつら捕まえろ!あははっ」

 アリアが嬉しそうに笑う。


 師匠の傍若無人っぷりにマーガスの顔が引きつった。



「それでは、私は竜の国へ参ります」

 ツクヨミが静かに告げる。


 その袖を誰かが引っ張った。

 ハルカだ。


「私も……行きます」

 いきなりの提案。

 ツクヨミは困った顔をして、アマテラスに助けを求めた。


 しかしアマテラスは考える。

 その方が安全ではないかと。

 ここはじきに戦場になる。


「すまぬが、連れて行ってやってほしい」

「良いのですか?」

 

 アマテラスが無言で頷く。


 ハルカはちらりと遥斗を見た。

 やはり嫌悪感丸出しの視線。


 遥斗もハルカには思うところがあったが、エレナを見ると彼女が優しく微笑んでくれた。

 彼女がいれば、もう大丈夫。


 ツクヨミはハルカを連れて立ち去った。


 一方アマテラスが王国行きメンバーを連れて転移魔法陣へと移動した。

 その上に乗ると、一瞬で景色が変わる。


 そこはダンジョンの外、シルバーミスト周辺。

 霧に覆われた重厚な建物が目の前にあった。


 アマテラスが建物の前に立つと、両手を扉にかざした。

 指先から淡い銀色の光が流れ出し、空中に複雑な幾何学模様を描き始める。


「太陽の加護を受けし古き契約よ、封印せし鎖を今解き放つ」


 魔法陣が広がり、六芒星の中に細かな文字が浮かび上がる。


「時の流れを司りし力、静寂なる眠りより目覚めよ」

「シューテュディの名において命ず——『テンポラル・アンシール』!」


 完成した魔法陣が強烈に光を放ち、扉の封印が解かれていく。

 重厚な扉がゆっくりと開いた。


 中に入ると遥斗が息を呑んだ。

 そこは工場のようだった。

 しかも現代風の設備が並んでいる。


 ここも時間の流れを操作して、劣化を防いでいたようだ。


 そして、その中央に——

 銀色の機体が天井から差し込む光を反射し、まるで巨大な猛禽のようにそこに鎮座していた。


「こ、これ戦闘機……!」


 遥斗だけはすぐに分かった。

 しかし、他の者たちは首を傾げるばかり。


「……なんだよこれ、乗り物か?鳥っぽいけど」

 マーガスが半歩後ずさる。


 ルシウスは目を細め、低く唸った。

「飛行機……なのかな?私が見た文献のものとはかなり違うね。プロペラないし。うーん、分解してもいい?」

 

「もしかして、これって……」

「やはり分かるか?そう、加奈が遺したものだ」

 アマテラスが遥斗に答える。


 遥斗は早速機体を調べ始めた。

 戦闘機の外観だが、中は操縦席と数人が乗れるスペースがある。

 かなりカスタマイズされたもののようだ。

 常識的に考えて、7人も乗れるはずがない。


 本物の戦闘機なら高速移動が可能だろう。

 これで時間の問題は解決できる。


 ただし——


 遥斗に戦闘機の操縦などできるはずもない。

 猫に小判。豚に真珠。無用の長物。


 だが待て。

 加奈だって操縦できたとは思えない。

 ただの主婦だったのだから。


 疑問に思いながらも操縦席に座ってみる。


「あ……」


 理由がすぐに分かった。

 これは本物の戦闘機ではない。


 操縦席はシミュレーションゲーム「トップファイア」のままだった。

 母が結構やり込んだと聞くレトロゲーム。

 遥斗も母の面影を求めて、随分遊んだものだ。


 ご丁寧に操縦桿はゲームパッドになっている。


(これなら僕でも飛ばせるかも!)


 動力だってジェットエンジンのはずがない。

 そんなものを再現しても不便なだけだ。


 電源ボタンを押すと、パネルにデータが表示される。


 システムは生きている!


 〇ボタンを押してエンジンを始動すると、機体が振動する。

 その瞬間、遥斗の力が抜けるのが分かった。


(なるほど、搭乗員の魔力を吸収してエネルギーにするのか)


 だから複数人乗れるようになっているのだ。

 燃料タンクは「人」というわけだ。


 データを表示すると、世界地図が現れた。

 ミズチネットワークを利用して収集された情報がリンクされている。


「これなら、わずか半日でアストラリア王国に入れる」

 アマテラスが感慨深げに言う。

「これは加奈以外、誰も使えなかった代物だ。おそらく異世界人しか使いこなせまい!お前ならやれると思っていた」


 遥斗が頷く。


「皆、早く乗って!」


 遥斗の呼びかけに、エレナ、マーガス、エーデルガッシュ、ブリード、ルシウス、イザベラが乗り込んだ。


「アマテラスさん、出口開けてください!」


 アマテラスが装置を動かすと、天井がゆっくりと開いていく。


 遥斗がゆっくりとボタンを押し込むと、戦闘機が垂直に離陸した。

 VTOL機。

 滑走路の無いこの世界では殊更に有用。


 そして空中で静止すると、エンジンの噴射方向が変わる。


「飛ぶよ!捕まって!」


 その言葉と共に、戦闘機は空の彼方へと飛び去っていった。


 アマテラスは、かつての加奈を見る思いで、その姿を見送った。


「頼んだぞ……加奈の子よ。きっとお前ならば……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ