表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
385/514

385話 足りないピース

 エーデルガッシュはアマテラスを真っ直ぐに見つめた。

 そして、深々と頭を下げる。


「すまぬ……この国に危機が迫っていることは承知している。だがすぐには動けぬ」


 皇帝が頭を下げる。

 その光景に、皆が動揺を隠せない。


「しかし、余にはどうしても話をしてみたい——いや、しなければならない人物がいる」


 エーデルガッシュの眼に力がこもる。


「この戦争の中心であるにも関わらず、存在も意図も見えない人物……『エドガー王』だ。彼が全ての鍵を握っているように思えてならぬ」


 その名前に、一瞬ルシウスの表情が曇る。


「今にも戦争が始まりそうだ。本来ならすぐにでもエリアナ姫と対峙すべきだろう。しかし、どうしても一つピースが足りないのだ」


「ピース……とは?」

 イザベラが首を傾げる。


「動機だ。ここまでする理由。それなくしては、エリアナ姫の真意に届かない気がする。彼女も神子。なぜ神の意思に背く?なぜ神の意思を捻じ曲げる?エドガー王は承知しているのか」


 ルシウスがため息をつきながら口を開いた。

「確かに……彼は僕の従弟だけど、性格は良く言えば穏健、悪く言えば臆病。戦争などもってのほかだし、判断も遅い。人格者ではあるけどね」

「……『担ぎ上げられた王』という感は否めないかなー」


「じゃあ担いでんのは誰よ?エリアナ姫か?」

 アリアが単刀直入に尋ねる。


「うーん……難しいね。彼が王になったのは、前王である僕の父が推挙したからだ。賢者マーリンの横車もあってね。父も異世界召喚には賛成派だったから、僕が邪魔だったんだろうね。彼なら反対意見は決して言わない。つまりエリアナが生まれる前から、彼は今のままなんだよ」


 イザベラも腕を組みながら頷く。

「かつてヴァルハラ帝国に、姫様の代わりとして遥斗殿に同行した時もそうです。偽装工作は全てはエリアナ様の指示でした。エドガー様からは何も……」


 アイラも命を懸けて得た情報を話す。

「帝都にはエリアナ姫は来られていました。が……エドガー王は不在でした。おそらく王都におられるのではと推測されます」


「おいおい。姫を最前線に送り出して、自分は留守番か?そりゃいくら何でもいかれてるだろ。王様としても父親としてもよー」

 アリアが呆れたように吐き捨てる。


「だから行かねばならん。どうしても。彼は何かを知っている」

 エーデルガッシュの決意は固い。


 アマテラスが深く頷いた。

「わかった。それで我らはどうする?」


「できるだけ時間を稼いで欲しい。戦争を回避しながら……頼めるか?」


「難しい注文だな……」

 アマテラスは苦笑する。

「だが承知した。やってみよう」


「申し訳ないが、頼む……」

 エーデルガッシュが再び頭を下げる。

「これが分岐点となろう。この世界を救うための、な」

「うむ」


 二人の指導者が、固い握手を交わす。

 ヴァルハラ帝国皇帝とエルフ国の王、本来なら相容れない者同士の約束。

 もっと早くに実現していれば、今とは違う未来を描いたはずの邂逅。


 しかしまだ遅くない。

 誰しもが希望を見出していた。

 


 その時、ツクヨミが口を開いた。

「ねぇ兄さん……あの方の助力を仰げないかしら?」


「あの方?あの方って誰だい?」

 ルシウスが振り返る。


「竜王バハムス様」


 その名前が出た瞬間、室内が静まり返った。


「なっ……!」


 皆が固まる。


 ドラゴン族——それは神話の種族。

 圧倒的な力を持ちながら、決して人の世に干渉しない誇り高き存在。


 人族の争いに介入するとは思えない。


「無理かもしれない。でも、打てる手は全て打つべきでしょう。世界か無くなってしまってからでは遅いのだから」

 ツクヨミの提案は理にかなっていた。


 アマテラスが妹を見つめる。

「行ってくれるか?」


 ツクヨミは力強く頷いた。

「もちろん。父の遺志を継ぐ者として、加奈の友として……できることはやります」


 竜王の力が借りられれば、戦争は一時的にでも止まるはずだ。

 時間を稼ぐには、これ以上ない援軍となるだろう。


 しかし、遥斗だけは疑問を口にする。

「アストラリア王都までどうやって行きます?かなり遠いですよね」


 確かにそれは大きな問題だった。


「シエルの魔法を使っても、簡単に行ける距離でもないし、何より僕達は追われる身です。簡単にアストラリア国王に行けるとは思えません」


 追手を差し向けられている以上、表立って移動することは不可能。

 転移魔法陣も配置はされていない。

 あったとしても、王国側が放置しているはずがない。


 単純に移動するなら4か月以上。

 馬車を使用しても2か月。

 

 往復するなら、更に倍以上の時間が必要となる。

 それだけ時が経てば、戦争が始まっていない保証などない。

 すべてが遅きに失する。


 しかしアマテラスが不敵な笑みを浮かべた。

「方法ならあるぞ」


 遥斗に向き直る。


「お前にしかできない方法がな!」


 なぜか嫌な予感がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ