表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【アニメーションMV有】最弱アイテム士は世界を科学する〜最弱の職業と呼ばれ誰にも期待されなかったけれど、気づけば現代知識で異世界の常識を変え無双していました〜  作者: 東雲 寛則
第1章 スタンピード編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/512

38話 森の中の危機

挿絵(By みてみん)

 丘陵地帯の奥深くまで進んだ3人は、一旦立ち止まって状況を確認することにした。風が樹木を撫でる音が、彼らの緊張を和らげる。


 遥斗は慎重に弾丸の数を確認した。

「まだまだ十分にあるね」

 彼の声には安堵感が混じっていた。

「それじゃあ、そろそろ帰還する?魔力銃でのレベルアップも確認できたし」

 エレナが尋ねた。彼女の表情には、少しの疲れが見えた。

「そうだね。僕としては帰還を提案したいな。十分なデータは得られたと思うし」


 しかし、トムが急に身を乗り出した。

「いや、ちょっと待ってよ。もう少しテストを続けてみない?」

 彼の目は興奮で輝いていた。

「僕、まだまだレベルアップできそうな気がするんだ」


 エレナも少し迷った様子で言った。

「そうね...確かにもう少し経験を積みたい気もするわ」


 遥斗は二人の顔を見比べた。彼らの目に宿る冒険心と成長への欲求を感じ取り、少し考え込んだ。

「そうだね。もう少しだけテストを続けよう。でも、危険を感じたらすぐに引き返すからね」

「了解!慎重に行動するよ」

 トムは嬉しそうに頷いた。


 3人はMP回復ポーションを飲んで体力を回復させ、魔力銃の状態も念入りに確認した。


 彼らは再び草原を歩き始めた。グラスウルフを探して慎重に周囲を見回す。しかし、時間が経つにつれ、草原の景色は徐々に変わっていった。いつの間にか、彼らは小さな森の中に足を踏み入れていたのだ。

 木々の間から漏れる陽光が、幻想的な雰囲気を作り出している。遥斗が警戒を呼びかけようとした瞬間、彼の目に3匹のグラスウルフの姿が映った。


「あそこだ」遥斗は小声で二人に伝えた。

「木に隠れて準備しよう」


 3人は素早く身を隠し、魔力銃を構えた。遥斗がカウントダウンを始める。


「3...2...」


「きゃあっ!」

 突如、エレナの悲鳴が静寂を破った。


 遥斗とトムが振り向くと、エレナの体にサップサーペントが巻き付いていた。大きな蛇は、すでにエレナの腕に噛みついていた。


「エレナ!」遥斗の声が響く。


 サップサーペントの姿は恐ろしく、その体長は優に3メートルを超えている。人間の子どものような太さの胴体は、木々の模様を模した鱗で覆われており、周囲の森に完璧に溶け込んでいた。その体表は常に樹液のような粘液で覆われ、光を受けて不気味に輝いている。大きく開かれた口からは、長さ10センチほどの毒牙が覗いていた。


 エレナの顔は苦痛で歪み、彼女の肌は急速に蒼白になっていった。サーペントの毒が彼女の体内を駆け巡り、意識を奪おうとしているのが見て取れる。

 エレナの腕から血が滴り落ち、その周りの肌は既に紫色に変色し始めていた。彼女の呼吸は浅く、不規則になり、目は焦点が合わなくなっていた。


「た...助けて...」エレナの声はかすれ、ほとんど聞き取れないほど弱々しかった。

 サップサーペントの強靭な筋肉が彼女の体を締め付け、呼吸すら困難にさせていた。エレナの手足はだんだんと力を失い垂れ下がっていく。


 遥斗とトムは、仲間の危機的状況に直面し、一瞬凍りついてしまった。エレナの命が刻一刻と危険に晒されていることを、彼らは痛感していた。


 トムは慌てて魔力銃を向けたが、サーペントとエレナの体が絡み合っているため、撃つことができない。

「くそっ、撃てない!」

 遥斗は低級ポーションを取り出し、エレナに向かって投げた。

 ポーションがエレナの体にかかり、彼女のHPが回復する。

 エレナの表情が少し和らいだ。


 エレナに気を取られていた遥斗とトムは、周囲の警戒を怠っていた。


 その隙を狙うかのように、グラスウルフの群れが静かに接近していた。彼らの草のような毛並みが、周囲の植生に完璧に溶け込み、その存在を巧妙に隠していた。


 トムが気づいたのは、背後から熱い吐息を感じた瞬間だった。振り返る間もなく、鋭い牙が彼の肩に食い込もうとする。

「うわっ!」トムの悲鳴が森に響き渡る。


 咄嗟の反応で体を捻り、何とか致命傷は避けたものの、鋭い爪が彼の背中を掠めた。

 トムは素早く身を翻し、魔力銃を構えようとしたが、すでに3匹のグラスウルフが彼を取り囲んでいた。


 彼らの目は獲物を捕らえた狩人のように冷酷に光る。

「くそっ...」トムは歯を食いしばりながら、何とか一匹目の攻撃を避けた。

 しかし、次々と襲いかかる獣たちの動きは予想以上に素早く、3体同時の攻撃を避けるのは不可能だった。


(こんな状況...どうする!?)

 頭では混乱していた。しかし、遥斗の体には幾多の経験が沁み込んでおり、自然に取るべき行動に移る。


 遥斗はすぐさま、トムを襲っているグラスウルフの1匹を狙った。


「ファイア!」


 魔力銃の音が鳴り、1匹のグラスウルフが光となって消えた。


 残りの2匹は一瞬ひるんだが、すぐに態勢を立て直した。

 彼らの鋭い目が、新たな標的を捉える。グラスウルフたちは、より大きな脅威である遥斗へと注意を向けた。


 低く唸り声を上げながら、2匹のグラスウルフが遥斗に向かって疾走を始めた。彼らの動きは風のように速く、草を踏む音さえほとんど聞こえない。

 遥斗は魔力銃を構え直し、グラスウルフの攻撃に備える。しかし、2匹のモンスターを同時に相手にすることの難しさを、彼は痛感していた。


「ファイア!」

 1匹のグラスウルフは仕留めることが出来た。しかし、残りの1匹が遥斗に襲いかかる。

 残った1匹が遥斗の腕に噛みついた。

「ぐっ!」激痛が走り、思わず魔力銃を落としてしまう。


(くそっ...でも、ここまでは想定内だ)

 遥斗は歯を食いしばった。


(トムを信じよう。俺がおとりになれば...)


「遥斗、動くな!ファイア!」トムは遥斗の期待に応えた。


 魔力銃の音が鋭く響き渡り、遥斗を襲っていたグラスウルフが光となって消滅した。


 その瞬間を逃さず、遥斗は素早く落とした魔力銃を拾い上げ、エレナに向かって走り出した。


「エレナ!しっかりして!」遥斗の声には必死さが滲んでいた。


「ポップ!」

 彼は走りながら、呪文を唱えた。

 遥斗の手の中に小さな瓶が現れる。薄緑色の液体が入った毒消しのポーションだ。


 しかし、その瞬間、サップサーペントの動きが変わる。

 何かの攻撃を受けたと勘違いしたのか、巨大な蛇はエレナから素早く離れ、瞬時に近くの木に巻き付いた。その動きは信じられないほど俊敏で、木の幹や葉の模様と完璧に同化していく。


「くっ、どこだ...」遥斗は周囲を必死に見回すが、サップサーペントの姿を捉えることができない。


 突然、木の葉の間から毒々しい緑色の液体が飛び出してきた。

 遥斗は咄嗟に身を捻り、何とか毒液を避ける。

「ファイア!」遥斗は魔力銃を構え、毒液の飛んできた方向を狙って発砲した。


 しかし、弾丸は空を切るだけだった。

 次の瞬間、遥斗の背後から風を切る音が聞こえた。振り返ると、サップサーペントが口を大きく開け、鋭い牙を剥き出しにして襲いかかってきていた。


(まずい、避けられない...!)

 遥斗の頭の中が真っ白になる。

 その時、「ファイア!」という声が響いた。遥斗の体が無意識に反応し、咄嗟に身を屈める。


 彼の頭上を弾丸が通過し、サップサーペントの体を貫いた。巨大な蛇の体が光に包まれ、消滅していく。


 息を切らしながら振り返ると、そこにはエレナが立っていた。彼女の手には魔力銃が握られ、まだ煙を上げていた。


「エレナ...!」

 遥斗の声には驚きと安堵が混ざっていた。


「遥斗くん...なんとか間に合ったみたい」

 エレナは弱々しく微笑んだ。


 トムも駆け寄ってきた。

「すごいよ、エレナ!危機一髪だったね」


 3人は互いの顔を見合わせ、安堵の息をついた。彼らは危機的状況を、見事なチームワークで乗り切ったのだ。


 遥斗はエレナに毒消しのポーションを手渡した。

「これを飲んで。毒の効果を消してくれるはずだよ」

 エレナは感謝の笑顔を浮かべながらポーションを飲み干した。彼女の顔色が少しずつ良くなっていく。


「みんな...ありがとう」エレナの声には、仲間への深い信頼が滲んでいた。

 森に再び静けさが戻る中、3人は互いの無事を確認し合った。この予想外の危機を乗り越えたことで、彼らの絆はさらに深まったように感じられた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ