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【アニメーションMV有】最弱アイテム士は世界を科学する〜最弱の職業と呼ばれ誰にも期待されなかったけれど、気づけば現代知識で異世界の常識を変え無双していました〜  作者: 東雲 寛則
第6章 最悪の始まり編

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362話 愚かなる人


 ギギギ、ギギギ……


 巨大な樹となった加奈が、急速に無数の実を付け始めた。


 実はみるみる巨大化し、樹から落下していく。

 しかし地面がないため、実は宙に留まったまま浮遊している。


「あの実は……何だ?」


 シューデュディはヤタノカカミの映像に困惑する。

 これまで見たことのない形、異形の果実だった。


 実はすぐに腐り始め、中から黒い液体のようなものが蠢き出す。

 にじみ出た液体は、全身漆黒で気味の悪いモンスターへと変貌していく。


「モンスター?いえ違うわね……何?あれは」


 セレシュルムが戦慄する。

 それは既知のモンスターとは明らかに異質な存在だった。


 生まれた黒いモンスターのようなものは獰猛な唸り声を上げて、互いを殺し始める。


 凄惨な殺戮が闇の中で繰り広げられた。


 通常のモンスターなら、死ねば粒子となって消える

 その跡には多種多様な素材を残す。

 しかし、この黒いモンスターは死んでもそのまま死骸として残り続けた。


「死しても……消えぬのか?」


 バハムスが驚愕する。

 竜王ですら理解できない現象。

 いや、むしろ逆。

 竜王だから理解出来る現象。

 

 ドラゴン族も同じなのだから。

 死しても粒子とはならない。

 自分達と似て非なる存在と理解する。


 死骸はどんどん積み重なり、やがて巨大な肉の塊となる。

 巨木がその死骸の山を足場として、根を深く張り始めた。


 さらに多くの実が落ち、モンスターの発生が加速していく。


「うっ、醜悪すぎる……」


 セレシュルムが口元を押さえる。

 目を背けたくなる光景。

 しかし、これが加奈の選んだ道だった。


 シューデュディは目を逸らせない。

 じっとその光景を見つめ続ける。


「私は加奈の行動を最後まで見届ける。その義務が私にはある!」


 固い決意を示す。

 王として、夫として。

 愛する者の犠牲を無駄にしないという覚悟が込められている。


「バハムス様、加奈は一体何をしようとしているのでしょうか?」

 セレシュルムがバハムスに向かって尋ねる。


 バハムスが口を開こうとするが、先にハルカが答え始めた。


 しかし、ハルカの表情がどこかおかしい。

 感情が読み取りにくく、うっすらと不気味な笑みを浮かべている。

 先ほどまでの取り乱し方が嘘のようだ。


「お母様……お母様の考えがぁ分かるの」

 感情のない口調で呟く少女。

 その言葉は、セレシュルムに対して発したものかどうかも曖昧だ。


「お母様はぁもう人じゃないの。樹の形をしたぁモンスターになったの」


 淡々とした声。

 母が別の物に変容した悲しみなど、何処にも存在しないかのようだった。


「モンスターはイドからぁ直接物質や力を取り出せるの」

「モンスターになればぁ世界を消費しなくても何でもぉ出来るの」


 その説明に、セレシュルムが「ハルカ……?」と困惑する。

 感情が追い付かない。


「そしてモンスターをずっとずっとぉイドから取りだすのぉ」

「生み出されたモンスターはぁこの空間内で死ねばぁ物質として残り続けるのー」


「不死になったお母様はぁ物質をぉこの世界に召喚し続けるのー」


 加奈の計画の全容が明らかになった。


 バハムスが「なんと……確かに消滅の速度を上回れば世界は回復する」と理解を示す。


「加奈の犠牲により世界は救われるということか」

 シューデュディが言葉を詰まらせる。

「加奈……君は本当に……」


 しかし、バハムスの表情は晴れることがない。


「府に落ちん。暗躍しておった連中は何者だ?これで解決だというのか……」


 竜王が呟いた時、一匹のドラゴンが王都より飛翔してくる。

「バハムス様!緊急のご報告があります!」


 息を切らせて告げるドラゴン。

 それは竜王が、アストラリア国王の情勢を探らせていた密偵だった。

 一同が緊張して報告に耳を傾ける。


「アストラリア国王では現在、神獣を保護し、ダンジョンを増やす計画を実行しています」

「ダンジョンでモンスターを増殖させ、討伐することで優秀な素材をドロップさせるとのこと」

「より良い武器の製造と、経験値を得てレベル上昇を図っています」


 セレシュルムが「そんな……アストラリア国王が……」と言いかけるが、ドラゴンが報告を続ける。


「これは王国だけに留まりません」

「帝国を始め、他の人族の国でも同様の政策を取っております」


 バハムスが「馬鹿な事を……」と呆れ果てた表情を見せる。

「意味が分からん……それでは魔力の消費量が爆発的に増えるぞ。なぜそのような愚行を……死を望んでおるのか?」


 ドラゴンが続ける。

「人族は自分の国だけが優位に立つために、互いに競い合って力を持とうとしております」

「世界の危機を知らず、目先の利益や、戦力の優位性を重視しているのです」


 その報告を聞いて、シューデュディの顔が徐々に怒りで歪み始める。

 拳を強く握り締め、体が震える。

「……加奈の犠牲が無駄になるというのか。あそこまでした加奈の……」


 バハムスも「結局終焉は変わらぬか」と頭を振る。


 一同に重い絶望感が漂い始めた。


 闇の中心では、今もなお加奈の樹が実を落とし続けている。


 無数のモンスターが生まれ、殺し合い、死骸となって積み重なる。

 世界を救うための、果てしない循環。


 しかし、その献身的な努力を、人族は愚かしい行為で台無しにしようとしている。


 母の愛による究極の犠牲が、人の欲によって無に帰そうとしていた。

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