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【アニメーションMV有】最弱アイテム士は世界を科学する〜最弱の職業と呼ばれ誰にも期待されなかったけれど、気づけば現代知識で異世界の常識を変え無双していました〜  作者: 東雲 寛則
第6章 最悪の始まり編

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352話 神器と襲来

 ダンジョン最下層の居住区画で、ささやかな誕生日会が始まった。


 普段は研究施設として使われている一角を、今日だけは特別に家族の憩いの場に変えている。

 テーブルには加奈が腕によりをかけて作った手作りのケーキと、異世界の食材を使った日本の家庭料理が並んでいた。


 ヒカリダケが柔らかく照らす中、まるで普通の家庭のような温かい雰囲気が漂っている。


「わぁ!いい匂い!すっごぉーい!」


 ハルカが満面の笑みを浮かべ、走り回って喜んでいる。

 目は見えないが、香りと温かい空気で十分に幸せを感じ取っているようだ。


「8歳のお誕生日おめでとう、ハルカ」


 シューデュディが改めて祝福の言葉を口にする。

 愛情が込められた言葉に、ハルカの顔がほころんだ。


「ほんとに大きくなったわね」

 加奈も感慨深げに娘を見つめる。

 この8年間、世界の危機と研究に追われた日々。

 それでも、確実に成長してくれた我が子への愛おしさが溢れていた。


「さぁー今日は特別よ、たくさん飲みましょう!」


 セレシュルムが優雅にテーブルの上のグラスに果実酒を注ぐ。

 ハルカには特製の果汁ジュースが用意されている。


 家族の温かい団らんの時間が始まる。

 ダンジョンの薄暗さを忘れさせる、幸せに満ちた空間がそこにあった。



***



「ねぇハルカ、竪琴を教えてあげましょうか?」


 食事を終えたセレシュルムが、美しい装飾の施された竪琴を手に取った。

 エルフの伝統工芸で作られたその楽器は、月光のような光を放っている。


「やってみたい!やってみたい!」


 ハルカが手を叩いて喜ぶ。

 音楽への興味は、生まれつき鋭敏な聴覚を持つ彼女の特性でもあった。


「じゃあ、まずは指の置き方から教えますわ」


 セレシュルムが優しくハルカの小さな手を取り、弦の位置を教える。

 最初はぎこちない動きだったが、数分もすると美しい音色が響き始めた。


「凄い上手!才能がありますわよ、ハルカ」

「本当ぉー?」

「ええ、本当ですわ!」


 褒められて嬉しそうなハルカの笑顔。

 一同もつられて微笑む。

 

「音楽は心の言葉です。人の心がわかるハルカなら、きっと素晴らしい演奏ができるようになりますわ」

 セレシュルムの予言めいた言葉に、シューデュディも頷く。


「さあ、今度はお母さんからのプレゼントよー」


 加奈が大きな箱を差し出した。

 表面には複雑な紋様が刻まれており、明らかに普通の贈り物ではない。


「なぁに?何ぁんだろぉ?何ぁんだろぉ?」


 ハルカがワクワクしながら箱を開ける。

 その瞬間——


「きゃーーー!虫ーーー!虫よ!」


 セレシュルムが悲鳴を上げて後ずさりした。

 ハルカも「いゃあん!」と驚いて尻もちをつく。


 箱の中から現れたのは、親指ほどの大きさの虫の形をしたアイテムが数十個。

 それらは美しい金属光沢を放ちながら、生きているかのように羽を震わせている。


「アイテムにしても虫の形はちょっとどうかと思う……」

 シューデュディも苦笑いを浮かべる。


「機能を極めていったらこうなったの!」

 加奈が怒ったような口調で反論した。

「形はともあれ、性能は抜群なのよ!これは『ミズチ』、ハルカの能力に対応するように設計したの!」


 そう言いながら、一匹のミズチを手に取る。

 それはふわりと宙に浮き上がった。


「飛んでる……」

 ハルカが息を呑む。


「これはハルカの感応能力に連動するのよ。試しにやってみて」


 加奈がハルカに促され、集中し始めると——


「きゃぁぁぁぁ!」


 ハルカが突然大声を上げた。


 皆が心配するが、ハルカの表情は驚きから喜びへと変化していく。


「見える!見えるの、お母様!本当に見えるの!」


 興奮して叫ぶハルカ。


 ミズチが捉えた視覚情報が、精神感応を通じて直接ハルカの脳に伝わっているのだ。

 しかも、思考だけで自在に操ることができる。


 加奈の目に涙が浮かぶ。

 8年間、娘の障害を何とかしてあげたいと願い続けてきた母親の想いが、ついに形になった。


「お母様……ありがとう……」


 ハルカはミズチを通して初めて見る母親の顔を見入っている。


「じゃーん!そして、これも完成したわ!」


 加奈がさらに3つのアイテムを取り出した。

 剣と鏡と勾玉。

 神々しいまでの美しい輝きを放って部屋を照らす。


「究極のオカートよ。『クサナギ』『ヤタノカガミ』『ヤサカニ』」


 一つずつ手に取りながら説明を始める。


「この剣はクサナギ。相手の能力を自由に封印できる。どんなに強力なスキルや魔法も、これがあれば無効化可能よ。ステータスや感覚器、なんでもござれ!」


 シューデュディにクサナギを手渡す。

 黄金に輝く剣は荘厳な光を放つ。


「ヤタノカガミは使用者のイメージを投影し具現化できる。他にも相手の精神や記憶を共有する事も出来るの」

 ハルカにヤタノカガミを渡す。

 表面には神秘的な模様が浮かんでいる。


「これがある意味一番強力。ヤサカニは可能性を封印する。失敗する可能性があるものは必ず失敗。何もする事も出来なくなる」


 セレシュルムにヤサカニを託す。

 勾玉の形をしているが、内部で光が脈動している。


「どれも直接命を奪わず、相手を無力化する理想の武器よ」

「オカートは魂に直接働きかけるから、物理的なダメージは与えられないけどね」


 加奈の説明に、三人とも神器の重みと責任を感じながら受け取った。


「物理的な力がない代わりに世界を消費せずに力を発揮できる。これこそが魔法に代わる新しい力!」

「これで……これで闇に対抗できるのか」

 シューデュディの質問に加奈が頷く。


「実験をしてみましょうか?」

 加奈がハルカに、自分で見たものを鏡に映して皆に見せるよう指示した。

 ハルカがヤタノカガミに集中すると、表面の模様が変化し、部屋の様子が映し出される。


「へーすごい……まるで窓みたい」

 セレシュルムが感動の声を上げる。


「技術の進歩は驚異的だな」

 シューデュディも素直に驚嘆していた。



「じゃあ次、ミズチの本格的な性能試験をしてみましょう」


 ミズチをダンジョンの外、遥か遠くまで飛ばし、その映像をヤタノカガミに映し出す。

 ソラリオンの上空を飛び回る壮大な景色が鏡に現れた。


「美しい……」


 雲の上から見下ろす街並みの美しさに、皆が見入る。

 エルフ王国の首都は、空から見ると宝石を散りばめたような輝きを放っていた。


「同時に様々な場所に飛ばすことができて、自在に切り替え可能なの」


 ハルカが操作すると、映像が次々と変わる。

 森、山、川、そして遠くの海まで——様々な風景が映し出された。


「これがあれば偵察も完璧ね」

 セレシュルムが感心する。


「ミズチの1体をハルカの傍に配置すれば、目の代わりになるわ」

「お母ぁ様……本当にぃありがとう!」


 ハルカが心から感謝の気持ちを示す。

 初めて得た視覚という感覚にまだ戸惑いながらも、新しい世界への扉が開かれた喜びに満ちていた。



 そんな中、ヤタノカガミに空を飛ぶ巨大な影の集団が映像に映った。


「あれはぁ……何?」


 ハルカが不思議そうに問う。

 最初は雲の影かと思ったが、明らかに違う。


「ミズチを近くに寄せて。詳しく観察しましょう」


 映像がズームアップされると——


「ドラゴン……しかも数十体……」


 シューデュディが息を呑んだ。

 巨大な翼を持つドラゴンたちが編隊を組んで飛行している。

 しかもソラリオンに向かって一直線に向かっていた。


「これは……緊急事態だ」


 シューデュディが立ち上がる。

 

「なぜドラゴンが集団で……」

 セレシュルムも青ざめている。


 楽しい誕生日会が一転して、緊急体制に変わった。

 平和な時間は、あまりにも突然に終わりを告げた。

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