35話 魔力銃
「遅かったじゃないか!」ルシウスの声が響く。
「もっと早く来られなかったのか?」
遥斗はため息をつき、あきれた表情を浮かべる。
「僕たちだって全力で飛んできたんですよ。ずっと立ち入り禁止にしてたのルシウスさんなのに。それより、何かあったんですか?」
「もう、おじさまったら。私たちだって忙しいのよ。学業もあるし、遥斗くんだって調べものもあるんだから」とエレナも文句を言う。
ルシウスは両手を振り、「そんなことはどうでもいい」と言わんばかりに話題を切り替えた。
「あはははは、さすがルシウスさんですね」
トムが思わず吹き出す。
「これを見てくれ!」
ルシウスは、テーブルの上に布で覆われた何かを指さした。
遥斗の目が星のように輝く。
「あぁ!これは...まさか!」
布を取り除くと、そこには3丁の銃と、それに合う弾丸が置かれていた。
エレナとトムは首を傾げ、「はて?」という表情を浮かべている。
トムが尋ねる。
「これは一体何なんですか?見たことないような道具ですね」
ルシウスが説明する前に遥斗が興奮気味に説明を始めた。
「これはね、銃というんだ!僕の世界では一般的な武器なんだよ。これがあれば、弓矢よりもずっと遠くまで攻撃できるんだ。しかも、その威力たるや...銃身の中を高速で弾丸が通過する時に、空気の層を突き破るんだ。その時の衝撃で『バン!』って大きな音がするんだよ。で、弾丸が回転しながら飛んでいくから、すごく遠くまで正確に当たるんだ。僕の世界では、この原理を応用して宇宙にロケットを打ち上げたりもしているんだよ!」
エレナが困惑気味に言う。
「ちょっと、遥斗くん。その『うちゅう』って何?」
「『ろけっと』って何だ?」とトムも首を傾げる。
遥斗は我に返り、照れくさそうに頭を掻く。
「あ、ごめん。つい興奮しちゃって...」
ルシウスが咳払いをする。
「遥斗くん、素晴らしい説明だ。だが、この銃は少し違う」
「え?」遥斗は疑問を感じ始める。
「そういえば...弾丸がただの鉄の塊で大きく重い、火薬がないみたいです。それに、グリップにこの不思議な鉱石が...」
ルシウスがニヤリと笑う。
「さすがだな。では、この銃の秘密を教えよう」
「わくわくする!新しい魔道具の誕生ってことかしら?」
エレナが目を輝かせる。
「異世界人の遺した資料を基に、遥斗君にも扱える武器を探し出し、魔道具士に設計を依頼したんだ。アイアンシェルクラブの硬化甲殻という絶妙な素材も大量にあったしね」
ルシウスがウインクしながら得意げに説明を始める。
もしかしたら最初からこのつもりで、大量にアイアンシェルクラブの討伐をさせていたのかもしれない。
遥斗が食い入るように聞き入る。
「どうやって作ったんですか?」
「まず、アイアンシェルクラブの硬化甲殻を素材に、錬成魔法で純粋な鉄を生成したんだ」ルシウスは指を立てて語り始める。
エレナが驚いて声を上げる。
「硬化甲殻から鉄を!触媒なしで?すごい!」
ルシウスは微笑む。
「次に、その鉄を使い錬金術でシリンダーと銃身を別々に作り上げた。これが錬金の妙味でね、素材から直接複雑な形状の物体を作り出せるんだ」
トムが感嘆の声を上げる。
「ここまで複雑な形状はルシウス様クラスの錬金術師でないと出来ないよ!」
「ただし」ルシウスは続ける。
「錬金で作られた部品には僅かな誤差が生じる。そのままでは組み立てられないんだ」
遥斗が目を輝かせて聞く。
「なるほど!だから次の工程が必要になるんですね」
「そうだ。そこで武具屋の職人の腕前が必要になる。彼らが精密な研磨を施し、部品を正確に組み立てるんだ」
ルシウスは嬉しそうに頷く。
エレナが感心して言う。
「錬金術と職人技の見事な融合ね」
「そして最後に」ルシウスは締めくくる。
「グリップに埋め込む魔力発生器を作った。これには稀少鉱石『エーテライト』を使用し、特殊な錬金術で加工した。これが使用者の魔力を変換し、火薬の代わりとなる役割を果たす。さらに弾丸も錬成した鉄から作った。これは私の錬金術でもそのまま使える物が出来る」
遥斗が驚きの声を上げる。
「ルシウスさん、これは驚異的です!錬金術と職人技、そして魔法理論の結晶ですね!」
「さあ、では実際に試してみようか。庭の大きな木を的にしてみよう」ルシウスは満足げに胸を張る。
一行が庭に出ると、遥斗が緊張した面持ちで魔力銃を手に取る。しかし嫌な予感が脳裏を駆け巡る。
(あんな巨大な弾丸、本当に大丈夫なのか?重くなると威力上がるからなぁ)
遥斗は慎重に魔力銃を構え、反動に備えて体を低く構える。その姿を見たトムが思わず吹き出した。
「おいおい、遥斗。ちょっと大げさじゃないか?」
エレナも思わずクスリと笑う。
「本当ね。遥斗くん、そんなに身構えなくても大丈夫よ」
「木にめり込めば大成功だ。さあ、やってみろ」
ルシウスは満足げに頷きながら言った。
遥斗は目標の木を見つめる。距離は20メートルほど。
(確かに弓矢なら、これくらいの距離でめり込めば御の字だろうな。魔法の効果が付与された時は分からないけど。ルシウスさんを信用するしかない!)
と思いつつも、不安は拭えない。
彼は弾丸の大きさと重さを考え、心臓が高鳴る。
(こんなに重い鉄の塊が、20メートルの直線で飛んでいくスピードを考慮したら、とんでもないエネルギー量になる気がするんだけど)
周りからは「やんや、やんや」と声援が飛ぶ。遥斗は深呼吸をし、覚悟を決めて引き金を引く。
「パン」
予想に反して軽い音がし、反動もほとんどない。わずかに魔力を吸われた感じはするものの、思ったよりも大したことはないと遥斗は感じた。
(あれ?意外と...)
そう思ったのもつかの間、目標の大木に人の頭ほどの大きさの穴が開き、さらにその勢いは衰えず、後ろの壁まで突き破っていた。
一同、開いた口が塞がらない。
「え...?」遥斗は自分の目を疑った。
トムは目を見開いて叫ぶ。
「すげえ!木どころか壁まで貫通しちまったぞ!」
遥斗はあわてて壁の穴を確認する。幸い壁の向こうに人はおらず、被害は出ていないようだった。彼はほっと胸をなで下ろす。
しかし、エレナの怒りの声が響く。
「おじさま!何てことをしてくれたのよ!もう少しで死人が出るところだったじゃない!こんな危険な物を作るなんて!」彼女の顔は怒りで真っ赤だ。
ルシウスも困惑の表情を浮かべている。
「いや、これは...予想外だった。まさかここまでの威力が出るとは...」
ルシウスは頭を抱えながら呟く。
「異世界人の知識恐ろしい...」




