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【アニメーションMV有】最弱アイテム士は世界を科学する〜最弱の職業と呼ばれ誰にも期待されなかったけれど、気づけば現代知識で異世界の常識を変え無双していました〜  作者: 東雲 寛則
第6章 最悪の始まり編

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345話 禁忌

 あれから1か月が経過した。


 加奈を中心とした科学応用研究が本格的に開始されている。

 魔法の使用を最小限に抑え、科学技術で生活できるよう都市の改造を進めてきた。


 蒸気機関や水車を利用した動力システムを各所に設置。

 電気を生み出すための発電機も科学的原理で建設されている。


 下水道や上水道も、重力と圧力を利用したシステムに変更。

 住民たちも最初は戸惑ったが、徐々に新しい生活様式に適応していった。


「魔法を使わずともこんなに便利になるとは」

 感嘆する市民たちの声が聞こえてくる。


「これで世界消失を遅らせることができます」


 加奈が説明する度に、希望の光が見える気がしていた。


 ただ、どうしても難しい機械だけはゴッド・クリエイトで創造していく。

 魔法と科学を融合した夢の機械。

 リスクとリターンを秤にかけて、慎重に道具を生み出して行く。


 これらを使って金属加工や部品製造が可能にもなった。

 エルフの職人たちが新しい技術に興味を示し、積極的に学習していた。


「これを見ろ。手作業では不可能だった部品も作れるぞ!」


 エルフの職人たちが驚嘆する。

 製造業が急速に発展し、生活必需品の大量生産が可能になった。

 魔法に頼らない文明の基盤が着実に構築されていく。


 しかし、世界消失は衰える事はなかった。

 むしろ、別の深刻な問題が発生していた。



***



「モンスターが異常に強くなっています!」

 エルフの戦士が血相を変えて報告に来る。


 都市周辺のモンスターが、太刀打ちできないほどの強さに急成長している。

 その成長速度は異様で、数日で倍以上の強さになることもあった。


「まるで世界の理が変化しているかのようです!この様な事はここ数百年、いえ、千年以上起きてはいません!」


 防衛が困難になり、市民に不安が広がっていた。

 科学技術だけではモンスターに対抗できない現実に直面している。


「魔法を使わずに戦うには限界があります」


 そんな声も上がってきた。


 加奈も頭を抱える深刻な事態に発展していた。


 この危機に対抗すべく、人族の冒険者の力を借りることを決定した。

 冒険者をソラリオンに招致し、スキルと職業に関する共同研究プロジェクトが立ち上がった。

 人族の多様な職業とスキルを詳細に研究していく。

 戦士、武道家、魔法使い、僧侶、そして希少な職業まで。


 それぞれの能力の発現原理と、スキルの獲得条件を調査した。

 魔力の流れと職業特性の関係性についても深く分析する。


 冒険者たちも研究に協力的で、貴重なデータが次々と蓄積されていく。

 その研究から驚くべき副産物が次々と発表されることになった。


 それはエルフ族の未来、ひいては世界の希望となる内容だった。

 しかし研究は禁忌の領域にまで達する。


 最も重要な発見は「魂の利用」。


 職業やスキルの本質が魂に刻まれた情報であることが判明した。

 この魂情報を操作することで、理論上はエルフにも職業付与が可能になる。


「果たして、そこまでしていいのでしょうか?」

 加奈が危惧する。

「DNAを上書きのようなものです。精神や生命にまで、変化をもたらしても不思議ではありません」


 しかし世界の状況を考えると、研究を止めるわけにはいかなかった。



***



 ある日、加奈がオルミレイアス王から緊急に呼び出された。


 謁見の間にはシューデュディとセレシュルムも既に待機している。

 そして見慣れない壮年のエルフが一人。


 その男性はどこか王の面影があり、威厳に満ちた雰囲気を持っている。


「紹介しよう。我が弟、ルナーク王国国王エルミュレイナス・ガリムデュスだ」


 エルミュレイナスが深々と頭を下げる。


「お初にお目にかかります、サクラ殿」


 加奈が驚いて問いかける。

「ルナークの王様ですか?私に何か御用でしょうか?」

 兄弟王が揃って同席する異例の事態に、緊張が走った。


 オルミレイアス王が重い表情で告白する。

「未来がさらに揺らいでいる。破滅と安寧が同じ道の上に存在しているのだ」


 予言を語る王の声は沈んでいた。

「安寧を求めるならば、破滅の道を進まなければならない」


「申し訳ありません。意味が分からないのです。何か具体的な事は分からないのでしょうか?」

 加奈が困惑を示す。


 王が続ける。

「おぼろげな……霧の向こうに見える景色のようなものだ。はっきりとは分からぬ、世界は今、正しい方向に進んでいる。しかしその正しき道こそが終わりを意味している」


 加奈が巨大スクリーンに、大穴の現在の映像を映し出した。


 大穴はもはや大きすぎて穴には見えない。

 光さえも分解し、まさに『闇』と呼ぶにふさわしい姿だった。


 その闇が徐々に拡大し続けている恐怖の光景。


「データは送られて来ていましたが、これほどまで……」

 加奈が言葉を失う。

 セレシュルムが怯えて兄の袖を掴んだ。


「この闇がいずれ世界を呑み込んでいく」


 絶望的な未来予想に一同が青ざめる。


 エルミュレイナス王が説明を始めた。


「私にも兄と同じ力があります。兄程は力が強くはありませんが。それでも同じ物が見えます。このままでは……」


「未来を変えるための力が欲しいのです。その為の助力をいただきたい」


 加奈に深々と頭を下げる。

 加奈の研究内容は全て王に報告されており、その危険性も承知していた。

 それを全て理解した上で、エルミュレイナスが発言する。


「職業の上書き技術。エルフでさえも職業を持つことができる可能性。この世界の神の理を超越する行為。これこそが未来を照らす鍵となるでしょう」


「理論上は可能でも、実験するわけにはいきません」

 加奈が躊躇する。

「何が起きるか……命の保証もありません。しかも確実に犠牲者が出ます!」


 オルミレイアス王が厳かに告げる。

「ここで、この運命を選ばなければ、この世界も、異世界も終焉を迎えるであろう。これはエルミュレイナスも同じ未来を視ている」


 その言葉に加奈が激しいショックを受けた。


「は、遥斗の命が危険なんですか?」


 震え声で確認する。


 王が強く頷く。

「そうだ」


 断言する王の言葉に、加奈の心に息子への愛が燃え上がった。


「それだけは……それだけは絶対に許せません」


 拳を握り締める加奈。

 遂に加奈が王の願いを了承し、禁忌の実験への道を歩み始めることとなった。


 世界を救うため。

 そして、愛する息子を守るため。


 神の領域に足を踏み入れる。

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