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【アニメーションMV有】最弱アイテム士は世界を科学する〜最弱の職業と呼ばれ誰にも期待されなかったけれど、気づけば現代知識で異世界の常識を変え無双していました〜  作者: 東雲 寛則
第6章 最悪の始まり編

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343話 涙の夜に

 オルミレイアス王に調査結果を報告する三人。


 横にはソラリオンの学者たちが緊張した面持ちで控えている。

 いつもの講義とは違う、重苦しい雰囲気。


 シューテュディが深刻な表情で口を開く。


「父上、大地が消えております」


 その言葉に玉座の間がざわめき始めた。


「消える?一体どういうことですかな?」

 学者の一人が問いかける。


「いやいや、それは比喩表現でしょう」

 別の学者が確認する。


 セレシュルムも震え声で証言する。

「いえ、本当に消えていくのです。じっと見ていたら、だんだんと……何かに食べられている様な……」

 思い出すだけで恐ろしいのか、言葉が途切れてしまう。


「それはモンスターの仕業、ではないでしょうか?」

「あり得ますな。巨大なモンスターが地面を食べているとか……」

「人族の魔術実験の可能性もありますぞ」

「確かに。彼らは最近力を付けている。油断は出来ん」



 エルフの学者たちは喧々諤々。

 一向に意見が纏まらない。


 オルミレイアス王が静かに手を上げ、ざわめく場を静めた。


「サクラよ、あなたはどう思われるのか?異世界人の視点から見て、どのような現象と考えられる?」


 王が加奈に意見を求める。

 加奈が少し考えてから口を開いた。


「詳しくは分からないのですが、一つ疑問に思うことがあります」

 一同の視線が加奈に集中する。


「消えた大地は、一体どこに行ったのでしょうか?」


 核心を突く質問に、エルフたちが困惑の表情を見せる。


「どこに行くとは?消えたのでしょう?」

 学者の一人が問い返す。


「物質は形は変わっても、消えて無くなる事はありません」

 加奈が説明を始める。


「それは質量保存の法則というものです。変化する前と変化した後の総量は同じでなければならない。消えた大地は形を変えてどこかに存在するはずなんです」

 論理的な説明に、学者たちが真剣に耳を傾ける。


 しかし、白髭の学者が首を振った。

「それは違いますぞ、サクラ殿。物は消えるし、現れもする。それが当然ではないか」

「魔法を見ているだろう?無から火を生み出し、無から氷を創り出す。物質が無から生まれることなど日常茶飯事」

 加奈が反論しようとすると、別の学者が指摘した。


「そもそも、あなたがそれを言うのは矛盾している。あなたは無から物を創り出しているではないか」


 その瞬間、加奈がはっと気づく。

「……ゴッドクリエイト……無から有を生み出すスキル……」


 加奈が呟く。

「おかしい。私が作り出した物質は、一体どこから来ているのでしょうか?」

「そもそも魔力とは何なのでしょう?どこから生まれて、どこに消えるのでしょう?」


 根本的な疑問が次々と湧いてくる。


 加奈の思考が行き詰まり、混乱に陥った。

 自分の能力の原理が理解できないことに愕然とする。


 科学的思考と魔法の世界の法則の矛盾に直面してしまった。


「サクラ殿?大丈夫ですか?」

 学者たちも加奈の困惑ぶりを見て当惑している。

 議論が思わぬ方向に発展してしまった。



***



 その後の会議は混迷を極めていく。


「これは自然現象である可能性が高い」

 一人の学者が主張する。


「いや、他種族の仕業だ。人族かドワーフの仕業に違いない」

 別の推測も出る。


「それとも神罰なのではないか?我々が何か神の怒りに触れることをしたのでは?」

 宗教的解釈をする者もいる。


「そんなはずはない!」

「証拠はあるのか?」

「だったら他にどう説明する?」


 様々な意見が飛び交い、収拾がつかない。

 加奈も疲れ果て、発言する気力を失ってしまう。


 結局、会議は結論が出ずにお開きになった。


「明日また議論を続けよう」


 オルミレイアス王が疲れた様子で宣言する。

 重苦しい雰囲気の中、参加者たちが散り散りになる。



 会議後、加奈は自室の窓からぼーっと星を眺めていた。


「この空も宇宙に繋がっているのかな……」


 物思いにふける。

 故郷への想いと現在の状況への不安が交錯していた。


 世界が消滅するかもしれないという恐怖。

 自分の能力への疑問。

 息子への想い。

 すべてがない交ぜとなって、思考の海へと沈む。


 その時、扉がノックされる音が響いた。


「はい、どなたですか?」

「私だ。少しいいだろうか?」

 シューテュディの声が返ってくる。

 加奈を気遣って来てくれたのだった。


「どうぞ入って」

 招き入れる加奈。

 シューデュディの優しさが心に沁みる。


 テーブルに案内し、お酒を注ぐ加奈。


「珍しいな、お酒を嗜まれるとは」

 シューテュディが驚く。


「そう?元の世界では子供ができるまで結構飲んでいたのよ。これでもね」

 加奈が答える。


「なんと!子供がおられたのか!」

「あれ?言ってなかったかしら?遥斗っていう男の子。まだ4歳。可愛いのよ?」


 お酒を飲みながら笑う。


「それでは、その……番……もいるのか?」

 なぜか悲しそうな声で尋ねるシューテュディ。


「番?ああ、夫のこと?いるけど……」


 加奈の表情が曇る。

 これはお酒のせいかも知れない。

 重い口を開き始めた。


「結婚はしてるの。結構早くね。子供もいる。でも……」


 シューテュディは黙って話を聞いている。


「夫の家は代々政治家で、私も生まれた時から夫と結婚することが決まってた。政略結婚。古臭いでしょ?こっちの世界では普通なのかな?」

「そのための教育ばかり受けて、友達も恋人も作れずに過ごしたの」


 加奈はグラスのお酒を一気に飲み干す。


「私は子供を産むための道具。それが自分の人生だと割り切ってた。特に疑問も感じなかったし辛くもなかった」

「でも夫はろくに話もしてくれない。口を開けば政治の話ばかり。愛人には違ってたのかもしれないけどね」


 苦い思い出を語る。


「元々好きでもなかった人だから、別に傷つかなかった。多分私は愛っていうものがない人間なんだと思ってた」


「そんなことは……」

 思わず加奈の言葉を否定しようとする。


「でも違った」


 加奈の表情が一変した。


「子供を産んで初めて愛を知ったの。あの子を見た瞬間、この子の為に自分の人生があったと感じた。息子が私の全てだった」

「子供に恥ずかしくないような母親になりたくて、仕事も始めた」

「夫は嫌がったけど、愛人に私生児ができたことを駆け引きの材料にしたの。『私にも自由をくれるなら、あなたの不倫は黙認する』って」


「初めて自分の人生を生きている実感があった……」


 話しているうちに、いつの間にか加奈の頬に涙が伝っている。


「遥斗に会いたい……会いたいよ……もう……」


 切ない声で呟く。


 お酒も随分飲んでいる。

 手元にあった酒瓶はとっくに空だ。


 立ち上がってお酒を取ろうとするが、思わずふらつく加奈。

 シューテュディが慌てて駆け寄り、加奈を支えた。


「はれ?……ふらついちゃった」

「大丈夫か?」

「ありがとう……男の人に優しくされた。こんなの初めてだな」


 その優しさに心の堤防が決壊してしまう。

 思わずシューデュディの胸にしがみ付く加奈。


「帰りたい!子どもに会いたい!あの子、ママがいなくて寂しがってる!」

 切実に叫ぶ。


「私、ここにいちゃダメなのに……こんなに安らぐなんて……こんな気持ちになっちゃ……」


 泣きじゃくる加奈。

 シューデュディが加奈を強く抱きしめ、その痛みを受け止めた。

 涙の夜に。

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