表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【アニメーションMV有】最弱アイテム士は世界を科学する〜最弱の職業と呼ばれ誰にも期待されなかったけれど、気づけば現代知識で異世界の常識を変え無双していました〜  作者: 東雲 寛則
第6章 最悪の始まり編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

340/514

340話 カガクは科学

 あの日から加奈は、エルフの国「ソラリオン」に王客として迎え入れられることになった。


 宮殿内に豪華な専用の部屋を与えられ、その身に余る待遇に最初は困惑した。

 美しいエルフの装飾品と快適な家具が揃った部屋は、まるで高級ホテルのスイートルームのようだ。


 毎日3食の食事が運ばれ、身の回りの世話もしてもらえる。

 侍女たちは丁寧で、加奈の些細な要望にも応えてくれた。


 最初はこの状況に戸惑っていたが、次第に好都合だと思えるようになる。

 生活のことに煩わされず、時間をすべて、元の世界に帰るための研究に使えるのだから。


 シューデュディが定期的に様子を見に来てくれるのも嬉しかった。


「何か不便はないかい?」


 そう気遣ってくれる優しさに、彼の顔を見るだけで心が弾むようになる。

 金色の瞳に優しい笑顔。

 王子としての気品を持ちながらも、親しみやすい人柄が魅力的だった。


 しかし、少しずつこの世界での生活に慣れ始めたのが実感できてしまい、加奈は少し落ち込んだ。


(私、この世界を満喫している……?)


 遥斗の笑顔を思い出し、胸が痛くなる。

 早く帰らなければならないのに、この心地よい生活に安住しそうになる自分が怖かった。



***



 エルフの知識人たちから、この世界の基本について学ぶ日々が続いた。


 まずは種族について。

 人族、エルフ族、ドワーフ族、ドラゴン族が存在する。

 それ以外はモンスターに分類される。

 ただし、ドラゴンはモンスターではない。


「レベルという概念があるのです」


 白い髭を蓄えたエルフの学者が説明する。

 

「……経験を積むことで成長していく仕組みです。いくら鍛錬を積もうとも、レベルを上げなければステータスは向上しません」


 続けて、ステータスについて教えられる。

 力量、敏捷性、HP、MPなどの数値化された能力。


 スキルは特殊な技能や魔法のような超常能力で、スキルを習得しないと基礎的なことしかできない。


「モンスターは、この世界に生息する危険な生物です。通常の動物とは全く異なる」

 学者が続ける。


「モンスターはモンスター以外を襲う習性があります。倒すと経験値が得られ、レベルアップできます。素材をドロップし、その素材は加工してアイテム、武器防具になります」

「加奈様は人族に分類されます。人族には他種族にはない職業、スキルが与えられるのです」


(まさにRPGゲームのような世界ね……)

 詳細な説明を聞いて、加奈は納得した。

 学生の頃よくやっていたゲームと、システムがそっくりだった。



***



 鑑定が出来る者を引き連れ、エルフの知識人たちが今日も加奈の元を訪れる。

 水晶玉に手を置くと、文字が浮かびあがった。


「職業は『神子』、レベルは1……」


 鑑定士が息を呑んだ。


「神子は非常に稀な職業です!神の力の代行者。この世界を統べる者とされています!」


 エルフたちから驚嘆の声が上がる。


「エルフ族はある程度のスキルは自在に得られますし、基本能力が高く、寿命も長いです。しかし職業を持つことは出来ず、レアスキルは得られない。貴方様は幸運ですぞ!」


 続けてスキルについて説明される。


「『ゴッド・クリエイト』は創造系の最上級能力です」

「錬金術よりも遥かに強力で、素材なしで何でも生み出せるとされています」


 加奈の期待が高まった。

 何でも生み出せるなら、元の世界に帰る道具も……。


「しかし、この能力には重大な制限があります」

 鑑定士が真剣な表情で続ける。

「使用者がイメージできないものは創れないのです」



 早速、元の世界へ帰る道具を創ろうと試してみる。

 しかし、何度集中しても何も生み出せない。


 異世界転移の原理が理解できないため、イメージが不可能だった。


 代わりに、創造したパワードスーツで試してみる。

 背中に推進装置を付け加え、空を飛ぶことができた。

 ジェット推進の原理は理解しているので、問題なく機能する。


 しかし反重力装置は創れない。

 原理が分からないためだ。


「物理法則の限界が私の限界なんでしょうか?」


 加奈が質問すると、エルフの学者が首を捻った。


「物理法則とは?」

 逆に問い返される。

 驚いたことに、この世界では物理という概念自体が存在しなかった。


 火の燃焼について尋ねると、学者は当然のように答える。


「炎の精霊が力を発揮しているのです」

「魔法は精霊にMPを捧げることで、現象を行使するのですよ」


 この世界と自分の世界では物理現象が違うのかもしれない、と一抹の不安がよぎる。

 加奈がゴッド・クリエイトで集光効率の高いガラスを作った。

 レンズの形をしており、太陽光を利用して紙に焦点を当てる。


 あっという間に紙が燃え上がった。


 普通に物理法則が働いていることを実証した瞬間だった。


「これは!今何が起きたのですか?」


 エルフの学者が驚愕する。


「光は真っ直ぐ進む性質があります。でも、密度の違う物質を通ると曲がるんです」


 加奈が丁寧にレンズの原理を説明する。


「ガラスの形を工夫することで、光を一点に集めることができます。集まった光は熱を生み、紙を燃やすんです」


 ガラスはあってもレンズはこの世界に存在しなかった。

 魔法があるために技術進化が歪だと理解する。


 魔法で火を起こせるなら、わざわざレンズを作る必要がない。

 便利な魔法が、逆に知識の発展を阻害していたのだ。


 学者が大喜びで尋ねる。

「これは何という術なのですかな?」


 加奈がしばらく考え込んだ。

 候補として「物理学」「化学」「光学」「熱力学」、色々と頭に浮かぶ。

 しかし、それは専門分野の名前だ。


 最終的に包括的な言葉を選ぶ。


「科学です」


「カガク!」


 学者が大興奮で復唱する。

 この瞬間、異世界にカガクという概念が生まれた。


「お願い申し上げる!もっと我らに知識の享受を!」


 学者が目を輝かせる。


 加奈も少し嬉しくなった。

 自分の知識が、この世界で役に立つのかもしれない。

 元の世界に帰るための手がかりは見つからないが、少なくともここで意味のあることができそうだった。



 そこへシューテュディとィと、女性エルフが入ってきた。


 女性エルフは目を見張るほど可愛らしい容姿で、銀色の髪に銀の瞳。

 まるで人形のような美しさだった。

 しかもシューデュディと、大変親し気な様子で並んで立っている。


 その光景を見て、なぜか加奈の胸に痛みが走った。


(あれ?なんで……私?)

 自分でも理解できない感情に戸惑う。


 女性エルフが加奈を見回して言った。

「へー、これが異世界人?ふーん?」


 物珍しそうにじろじろ見回す。


「お兄様が熱心に語るからどんなのかと思ったけど……普通ね。他の人族との違いが分からないわ」


 失礼な発言に、シューテュディが怒った。

「セレシュルム!佐倉殿に失礼なことを言うな!王客だぞ!」


 厳しく窘める王子。

 セレシュルムと呼ばれた少女エルフは、ふくれっ面で頬を膨らませた。


 シューデュディが加奈に向かって頭を下げる。

「不躾な妹が失礼した」


 妹だと聞いて、加奈がなぜかほっとした。

 それが何故なのかは、加奈自身にも分からない。

 ただ、胸の奥の痛みが嘘のように消えていく。


「いえいえ、お気になさらず。本当の事ですから」


 加奈が微笑む。


 セレシュルムは王子の妹で、後にツクヨミと呼ばれることになる少女だった。

 この時の加奈には、もちろんそんなことは知る由もない。


 ただ、シューテュディへの自分の気持ちに、薄々気づき始めていた。

(まさか……ね……)


 心の奥で、新しい感情が芽生え始めている。


 元の世界に帰りたい気持ちは変わらない。

 息子の遥斗に会いたい思いも消えない。


 しかし、この世界での生活が、確実に加奈の心を変え始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ