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【アニメーションMV有】最弱アイテム士は世界を科学する〜最弱の職業と呼ばれ誰にも期待されなかったけれど、気づけば現代知識で異世界の常識を変え無双していました〜  作者: 東雲 寛則
第6章 最悪の始まり編

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338話 これで言葉が分かるか?

 2日程歩いて、ついに森を抜けた二人。


 鬱蒼とした木々の向こうに、遠く街の輪郭が見えてくる。

 加奈は思わず安堵のため息をついた。


「やっと……人のいる場所に来たんだ」


 最初は恐ろしい世界だと思ったが、あれからモンスターには出会わなかった。

 森の中で様々な動物を見かけたが、やはり元の世界とは大きく違っている。


 角が生えた兎や、翼を持つ小さなリス。

 まるで絵本の世界から抜け出してきたような、幻想的な生物たち。


 エルフが時折警戒しながらも、基本的には平和な道のりだった。


 加奈の足取りも、だんだんと軽くなってくる。

 思ったほど、この世界は凶悪ではないのかもしれない。

 


 街に入る前に、エルフがフード付きのマントを加奈に差し出した。


 よく分からないが、彼の真剣な表情を見て素直に受け取る。

 深緑色の上質な布で作られたマントは、肌触りが良く温かい。


 頭からマントを被り、フードで顔を隠す加奈。

 エルフも同様にフードを被った。


(何か理由があるのね)

 加奈が察する。

 自分が目立つと、何か問題があるのだろう。


 エルフが加奈の様子を確認してから歩き出す。

 いよいよ異世界の街に足を踏み入れる。

 緊張と期待が入り混じった気持ちで、加奈は深く息を吸った。

 


***

 


 街に入った瞬間、あまりの光景に息を呑んだ。


 街は巨大な樹木を利用して家屋が創られている。

 まるでファンタジー映画の世界そのもの。


 幹に掘られた窓と扉。

 内部がくりぬかれて、居住スペースがあるのだろう。

 枝に架けられた橋では、多くの人々が行き交っている。


 そして、街に住んでいるのは全てエルフだった。

 金、銀、緑、様々な髪の色を持つ美男美女が優雅に行き交う。

 その美しさは人間の常識を遥かに超えており、まるで神話の世界に迷い込んだような錯覚を覚える。


 人間の姿は一人も見当たらない。


 フードを被っていなければ、一体どうなっていたか分からない。

 助けてくれたエルフに、心から感謝した。

 


 エルフが歩き出し、加奈がその後ろをついて行く。

 街は想像以上に広く、歩いても歩いても目的地に辿り着かない。


 樹上に作られた通路や建物の美しさに、加奈は何度も見とれてしまう。

 螺旋階段を登り、吊り橋を渡り、まるで空中都市のような構造。

 エルフたちの優雅な暮らしぶりが垣間見える。


 美しい装飾品を売る店、香り高い料理を作る食堂、色とりどりの花で飾られた住居。

 すべてが芸術作品のように美しく、自然と調和が取れている。


 日が暮れ始める頃、一軒の店のような建物の前で足を止めた。

 人工の光が窓から漏れ、看板には美しい文字が刻まれている。


 エルフが中に入るので、加奈もついていく。


 どうやら宿屋のようで、受付でエルフが何かを話していた。

 宿の主人もエルフで、丁寧に対応してくれた。

 時折加奈の方を見るが、特に怪しまれている様子はない。


 食堂に案内され、温かい食事が運ばれてくる。


 木の実を使ったスープ。

 香草で味付けされた野菜の炒め物。

 そして肉料理。


 食べてみると味は薄いが、素材本来の味で十分美味しい。


 何より、温かい食事を座って食べられることが嬉しかった。

 森での2日間、野草とキノコのスープしか口にしていなかったのだから。


 肉料理を口に運ぶ加奈の様子を見て、エルフが楽しそうな表情を見せる。

 言葉は通じないが、喜びは確実に共有できている。


 久しぶりにお腹いっぱい食べることができ、加奈の心にも余裕が生まれてきた。

 


 食事が終わると、部屋に案内された。


 ベッドが一つだけある小さな部屋で、加奈が身構える。

 このエルフは確かに親切だが、男性であることに変わりはない。

 生きるために、どんな事も受け入れる覚悟は決めているが、やはり不安だった。


 しかし、エルフは床に毛布を敷いて横になってしまう。


 ベッドは加奈のために譲ってくれたのだと理解した瞬間、頬が赤くなった。

 この人は本当に紳士なのだ。


 久しぶりの柔らかなベッドの感触に、加奈は安堵のため息をついた。

 疲労と安心感で、あっという間に深い眠りに落ちる。


 エルフが静かに見守ってくれている安心感に包まれて、この世界に来て初めて、ぐっすりと眠ることができた。

 


***

 


 翌朝、エルフに起こされて目を覚ます。

 かなり深く眠っていたのか、起こされるまで夢も見なかった。


 次の日は朝から出立する。

 目的地は、街の中心のようだった。


 また、かなりの距離を歩き、加奈の体力は限界に近づいてくる。

 それでも歩みを止めない。

 遥斗の元に帰る。

 そのためなら、どんな苦労も乗り越えてみせる。


 ひと際大きく豪華な建物が見えてきた。

 まるで宮殿のような荘厳な造りで、入り口には武装した衛兵が立っている。


 加奈は怯むが、エルフは平然と近づいていく。


 すると、衛兵たちがエルフに深々と敬礼した。


 どうやら、かなり身分の高い人物だったようだ。

 加奈は改めて、自分を助けてくれたエルフの顔を凝視する。

 段々高貴な身分に思えてくるから不思議だ。


 

 複雑な作りの宮殿内を案内され、上層階へ向かう。


 階段を登る度に、より豪華で荘厳な場所に出る。

 美しい絵画、精巧な彫刻、宝石で飾られた装飾品。

 その豪華さは、お金持ちというレベルを遥かに凌駕していた。

 

 これは王宮なのだ。

 知識ではなく、心がそうだと理解する。


 最上階の大広間に出ると、立派な玉座に壮年のエルフが座っている。


 威厳に満ちたその姿に、加奈は圧倒された。

 まさに王の風格を備えた人物。


 一緒にいたエルフが膝をつき、加奈も慌てて真似をする。


 壮年のエルフと、自分を救ってくれたエルフが何かを話している。

 時折加奈の方を見る視線を感じ、緊張で背中に汗をかいた。

 


 しばらくして、壮年のエルフが立ち上がり、加奈に近づいてくる。

 緊張で思わず目を瞑ってしまう。


「痛ぁ!」

 エルフが加奈の頭上に手をかざすと、激しい頭痛が加奈を襲った。


 頭の中に何かが流れ込んでくるような感覚。

 まるで脳に直接情報が注ぎ込まれているかのような、身の毛がよだつ不思議な感覚だった。


「これで言葉が分かるか?言語理解の魔法を使った」


 突然、声が頭に響いた。


 加奈がはっと顔を上げる。

 エルフの言葉が、日本語として理解できるようになっている。


 魔法による言語理解——また一つ、この世界の神秘を目の当たりにした。

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