表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【アニメーションMV有】最弱アイテム士は世界を科学する〜最弱の職業と呼ばれ誰にも期待されなかったけれど、気づけば現代知識で異世界の常識を変え無双していました〜  作者: 東雲 寛則
第5章 クロノス教団編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

335/514

335話 神樹ユグドラシル

「お母様です」


 ハルカのその言葉に、会議室の全員が困惑していた。

 あまりにも突飛な発言に、誰も言葉を発することができない。

 沈黙だけが重く会議室を支配している。


 エーデルガッシュが代表してハルカに尋ねる。


「どういった意味か分かりかねる。何かの例えなのか?」


 ハルカが静かに首を振る。


「いえ」

 そして、断言した。


「これは正真正銘『佐倉加奈だった』ものです」


 その言葉に会議室の空気が凍りついた。

 まるで時間が止まったかのような静寂が訪れる。


 ルシウスが眉をひそめた。

「だった、とは?まさか……」


 エレナも顔を青くして呟く。

「過去形って、つまり……変化したってこと?」


 グランディスが震え声で口を挟む。

「おい、ちょっち待ってよ。あれが人だったって?冗談ぽいだぜ……」


「冗談ではありません。彼女は500年程前に魔物を生み出す樹『神樹ユグドラシル』となりました」

 ハルカの説明に、全員が愕然とする。


 ルシウスが立ち上がる。

「500年前?君はいつ生まれたんだ?まさかあの樹か?そんなことがあり得るのか」


 イザベラも困惑を隠せない。

「見た目はエルフの子供にしか見えない……エルフならば20年程で大人の成体になるはずです。そこからは容姿は衰えないと聞きますが……」


 マーガスも頭を抱える。

「いや、確かにおかしい。ハーフエルフでもこんなに小さいままなんて……」


 その時、ブリードが声を荒らげた。

「一体何歳なのだ?答えろ!」


 ハルカが少し考えてから答える。

「年齢は……忘れました」


「な……」

 予想外の答えに、ブーリードの体温が上がる。

 まともに受け答えをする気はないのかと疑念を抱く。


「おそらく500歳位でしょうか?」

 ハルカが続ける。

「お母様が人の姿をしていた時に生まれましたので」


 ブリードが激昂し、机を思い切り叩いた。


「ふざけるな!話にならん!何もかも信じられん!」


 ドンという大きな音が会議室に響く。


「人が樹になるだと?500歳だと?16歳の少年を兄と呼ぶ500歳が存在するか?矛盾だらけだ!愚弄するのも大概にしろ!」


「止めよ、ブリード!」

 エーデルガッシュが慌てて制止する。


 しかし同時に、厳しい表情でハルカに向き直った。

「すまないが、詳しく説明を求める。理解が追い付かないのでな」


 そして核心を突く質問を投げかける。

「なぜ16歳の遥斗を500歳のあなたが兄と呼ぶのか?教えて欲しい」

 


 遥斗だけが冷静さを保っていた。

 頭の中で情報を整理し、全てを理解し始めている。

 転移、時間、空間……様々な可能性が脳裏を駆け巡る。


(そうか、そういうことか……)


 小さく呟く遥斗の声に、エレナが気づく。

「遥斗くん、大丈夫?顔色が悪いわよ?」


 理解できても、現実を受け入れられることは別問題だった。

 顔は青くなり、遥斗はテーブルを見つめ続ける。


「ねえ、遥斗くん?本当に大丈夫?少し休憩した方がいいんじゃない?あんな激闘の後なんだから……無理しないで」


 退出を促すエレナに、遥斗は首を振る。


「ごめん……大丈夫……」

 震え声だが、明確な意志が込められている。


「まだ聞かないといけない事が沢山あるから。逃げちゃ駄目なんだ」


 その瞳に力が戻った。


 

 エーデルガッシュの質問に、ハルカが答える。


「分かりました。出来るだけお答えします。しかしその為には『佐倉加奈』、お母様の人生について語らねばなりません」


 前置きをしてから確認する。

「とても長い話になります。それでも宜しいでしょうか?」


 エーデルガッシュが遥斗の方を見る。

 遥斗がゆっくりと、エーデルガッシュと目を合わせる。


「お願いします」

 静かに告げた後、さらに続ける。


「僕は……僕は母さんのことを何も知らない。知りたいんです、何があったのか」


 エレナが心配そうに遥斗の手を握る。


「遥斗くん……」

「大丈夫だよ、エレナ」


 遥斗がエレナの手を握り返す。

「君がいてくれるから」

 


「それでは私から話そう」

 沈黙を続けていたアマテラスが口を開いた。

 説明を申し出る声には、先ほどまでの威圧的な雰囲気はなかった。


「我々にとって辛い話になるが……どうか最後まで聞いて欲しい」


 その瞳は、人族の抹殺を企てた男のものとは思えない。

 優しさと深い悲しみを携えた表情に変わっている。


 ツクヨミも憂いを帯びた表情で呟く。

「佐倉加奈……懐かしい名前ね」

「彼女がいなければ、こうはならなかった……違うわね……この世界は既に無かった」


 ルシウスが前のめりになる。

「君も佐倉加奈を知っていたのか!」


 マーガスもゴクリと唾を呑み込んだ。

「遥斗の母親が、教団がこうなってしまった原因?彼女がいなければ、この世界は既に無かった……?」


 会議室の全員がアマテラスの話を聞く準備を整える。


 遥斗は母親の真実を知る覚悟を決めた。


「アマテラスさん。母の事を……教えてください」


 重い沈黙の中、運命的な物語が始まろうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ