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【アニメーションMV有】最弱アイテム士は世界を科学する〜最弱の職業と呼ばれ誰にも期待されなかったけれど、気づけば現代知識で異世界の常識を変え無双していました〜  作者: 東雲 寛則
第5章 クロノス教団編

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308話 この目で真実を確かめたいんだ

 十分の休憩時間に入ると、帝国側の陣営は重苦しい空気に包まれた。


 勝利の余韻など、どこにも感じられない。

 むしろ敗北感すら漂う異様な雰囲気

 それほどまでに、マーガスの言葉は皆の心を揺さぶっていた。



 エーデルガッシュがアリアの前に歩み寄り、頭を下げる。

「ご苦労であった。見事な戦いだった」

 皇帝として、心からの労いが込められている。


 しかし、アリアは沈んだ表情のまま。


「何なんだよこれ……勝ったのに全然嬉しくねーな……」


 彼女の瞳には、複雑な感情が渦巻いている。

 弟子を蹂躙した勝利に、何の意味があるというのか。


 次の相手がアマテラスと知ると、一同の表情はさらに暗くなった。

 あの圧倒的な存在を前にして、希望を抱ける者など誰もいない。


「あの威圧感……正直言って勝算が見えません。最強を誇る我らが団長でさえ、戦いになるかどうか……」

 イザベラが小さく呟く。

 光翼騎士団の副団長として数々の戦場を経験してきた彼女でさえ、アマテラスの前では無力感を覚えていた。


 アリアがブリードの方を向き、背中に背負っていたシュトルムヴァッハーを外す。


「おっさん、こいつを返すぜ」

 剣を差し出しながら、アリアは複雑な表情を浮かべていた。


「正直、この剣がなかったらマーガスに負けてたかもしれねぇ……帝国の宝、助かったぜ」

 ブリードは恭しく剣を受け取った。


「いや、この剣を使いこなせたのは、お前の実力があってこそだ。見事」

 シュトルムヴァッハーを腰に佩いたブリードの表情が、一瞬引き締まる。


 次は自分の番。

 その覚悟が、静かに身を震わせる。


「厳しい戦いになるだろう……いや、戦いにすらならんかもしれん」

 雷神の異名を持つ剣聖が、ここまで弱気になることなど誰も見たことがない。


 遥斗は仲間たちの表情を見回し、ある確信に至った。

(これがアマテラスの狙いか……)


 彼の脳裏で、戦略が見えてくる。

(先の戦いで大義をへし折り、自分の武力で絶望感を与える。こうすることで戦意を完全に削ぐつもりだ。マーガスの純粋な想いすらも、この布石の一部だったのか)


「このままじゃ三回戦を待たずに降伏することになる」

 遥斗が静かに分析を口にする。

 その分析は、状況の深刻さを浮き彫りにした。


「それほど戦力差があるというのか……」

 エーデルガッシュが唇を噛む。

 皇帝として、この現実を受け入れるのは屈辱だった。


「それでも、ここは最大戦力で挑むしかないでしょう。あとは何とかして、勝算をあげる方法を模索して……」

 イザベラがエーデルガッシュにアドバイスする。


 状況を客観視すれば、それが唯一の選択肢だった。


 ブリードがエーデルガッシュに跪く。

「我が身は皇帝の剣。皇帝の盾。御身の為に!この命と魂、砕け散るまで戦いましょう」


 シュトルムヴァッハーの柄を握り締めながら、彼は覚悟を決めた表情を見せる。


「他に方法はない……」

 エーデルガッシュもブリードの出陣に同意しようとした、その時——


「僕が……行きます」

 遥斗の一言が、場の空気を一変させた。


「何言っているのよ!」


 エレナが慌てて駆け寄る。

「ブリードさんでも勝てないかもしれないのよ?無謀すぎる!絶対にダメ!遥斗くんまでマーガスみたいになったら……」


 彼女の声は震えていた。

 凄絶な一回戦をみて、大切な人を失う恐怖が、エレナを支配していた。


 しかし、遥斗の表情には迷いがない。


「これで勝算が出てきたんだ、行くよ」

 その自信に満ちた言葉に、一同が困惑する。


(勝算?一体何を考えているんだ……)

 エーデルガッシュを始め、そこにいる皆が遥斗の「勝算」の意味を理解できずにいた。

 アマテラス相手に、アイテム士である遥斗がどうやって勝つというのか。


 遥斗はそれには答えず、ゲイブに近づく。


「ゲイブさん、ポーションを作らせてもらえませんか?」

「俺の武道家の能力が必要ってことか?」


 ゲイブが確認すると、遥斗は力強く頷いた。


「俺ので良ければいくらでも使ってくれ。お前の為なら何でもするぜ!」


 ゲイブが快く承諾する。

 その厚い信頼に、遥斗の胸が熱くなった。


「ポップ!」

 遥斗の生成スキルが発動し、ゲイブの職業を素材に「武道家のポーション」を生み出す。

 琥珀色に輝く液体が、小さな瓶に満たされた。


 さらにもう一本同じポーションを生成し、遥斗は二本のポーションを一気に飲み干す。


 瞬間、遥斗の体に変化が起きた。

 筋肉が僅かに膨らみ、体つきが格闘家のそれに近づいていく。


 武道家の職業が付与されたのだ。


 代わりにゲイブの各種ステータスががくんと落ち、彼は苦笑いを浮かべる。

「うわっ、体が重い……こりゃ結構キツいな」

「ごめんなさい。ついでに能力もお願いします」

「うげっ」


 遥斗はさらにゲイブのステータスを素材に、「加速のポーション」と「力のポーション」を生成する。

 青と赤の液体を次々と飲み干し、装備を整えていく。


 その一連の行動を見て、仲間たちは息を呑んだ。

 遥斗は本気で勝つ気でいる。

 それがひしひしと伝わってくる。


 準備を終えた遥斗が、仲間たちを見回して静かに語り始めた。


「マーガスの気持ちは正直嬉しかった。僕の故郷をあんなに想ってくれるなんて……」

 その声は、僅かに震えていた。


「クロノス教団の言うことは、正しいのかもしれない」


 一同が緊張する。

 まさか遥斗まで教団に心を動かされたのか。


「でも」


「こんなやり方は間違っていると思う。僕はまだ世界の全てを知った訳じゃない」


「だから最後まで目を背けない。諦めない。この目で真実を確かめたいんだ」


 その言葉に、仲間たちの心が震えた。

 遥斗の真っ直ぐな想いが、沈んでいた士気を再び燃え上がらせる。


「遥斗くん……」


 エレナが涙ぐみながら呟く。


 その横で、エーデルガッシュも感動に打たれていた。

(この者は……本当に)


 皇帝として、戦士として、一人の人間として——遥斗への敬意が、彼女の胸に熱く宿る。



 戦場では、アマテラスが既に待ち構えていた。

 金色の瞳が、こちらをじっと見据えている。

 全てを見透かしているかのような、神々しくも戦慄の眼差し。


 遥斗は深く息を吸い込み、戦場へと歩を進めた。


 真実を見定める為に——そして、仲間たちの想いを背負って。

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