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【アニメーションMV有】最弱アイテム士は世界を科学する〜最弱の職業と呼ばれ誰にも期待されなかったけれど、気づけば現代知識で異世界の常識を変え無双していました〜  作者: 東雲 寛則
第5章 クロノス教団編

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304話 赤き師弟

 刻限。


 一時間の猶予が過ぎ、運命の瞬間が今まさに始まろうとしていた。


 遥斗の前に、アマテラスたちが姿を現す。


 太陽神と呼ばれる金髪のエルフは、他を圧するような存在感を放つ。

 歩くだけで周囲を照らしていた。

 その隣には月の女神ツクヨミが、青く煌めくドレスに身を包み、優雅な微笑みを浮かべている。


「準備は出来たか?」


 アマテラスの声は低く響く。

 まるで太陽の光そのものが、音を持つかのように。


 エーデルガッシュは皆の前に踏み出し、サンクチュアリを地面に突き刺す。

「ああ、完了している」


 小さな体躯からは想像もできないほど、揺るぎない皇帝の威光を放つ。

 それは決して、アマテラスに引けを取るものではない。


「もう一度条件を確認させてもらおうか」

 アマテラスは両軍を見渡すように言った。


「三対三の代表戦。二勝した陣営の勝ち。敗者は勝者の言い分を聞く。我らが勝てば、ヴァルハラ帝国はクロノス教団に絶対服従。お前たちが勝てば、対話の機会と全ての情報開示を行う」


 その言葉に、エーデルガッシュは静かに頷いた。


 だが、ここで遥斗が会話を遮る。

「すいません、少し付け加えさせてください」


 アマテラスの金色の瞳が遥斗に向けられる。


 その眼差しには、好奇心が入り混じっていた。


「何だ?」

「はい。戦いが終わったら、次の対戦相手を提示してほしいのです。そして、その後に10分の準備時間をください」

「そうか、特に異論はない」


 そう言って、彼は薄く笑った。

「むしろ10分で何が出来るのか楽しみだ」


 その言葉に込められた軽蔑に、エレナが眉をひそめる。


 だが遥斗の表情は全く変わらなかった。

 その時間の重要性を知っているのだ。


「では第一戦だ」


 アマテラスが右手を軽く挙げると、マーガス・ダスクブリッジが前に出た。


 赤い剣、ミスリルの盾、銀の胸当て。


 普段とは異なる重装備を身にまとい、その立ち姿には強者の雰囲気が漂っていた。


 赤い剣は、先ほどアマテラスが渡した金属の塊が変化したものだった。

 生き物のような鼓動を持つ剣。


 遥斗は直感的に危険を感じた。


「はん!上等!」


 アリアが颯爽と踏み出すと、遥斗は慌てて彼女の腕を掴んだ。


「少し待ってください」


 彼女が振り返ると、遥斗は真剣な表情でブリードに向き直っている。


「ブリードさん、お願いします。剣を貸していただけませんか?」


 その予想外の要求に、ブリードの表情が一瞬固まる。

 彼は迷いなく首を横に振った。


「それは叶わぬ。これは皇帝から下賜された剣。他者には触れさせられないのだ」


「……必要なら持って行くがよい」

 エーデルガッシュがブリードに一瞥をくれながら命じる。


「えっ、いや、これは先代皇帝から賜ったもので——」

「現皇帝は余だが?」


 鋭い視線が、ブリードを貫く。


 雷神の異名を持つブリードでさえ、少女皇帝の前では為す術もない。


 彼は返す言葉もなく、シュトルムヴァッハーを恭しく差し出した。


「アリアさん、これも持って行ってください」


 遥斗がシュトルムヴァッハーをアリアに手渡す。


「二刀流は得意じゃねーぞ?」


 困惑の色を浮かべるアリアだったが、遥斗の真剣な表情を見て、何かを察したようだった。


「……分かった」

 アリアは剣を受け取り、一振りした後、背中に背負う。

 彼女の赤い髪が揺れた。



 マーガスとアリアが対峙する。


 二人の間には、言葉では表せられない何かが広がっていた。

 共有された時間、信頼、葛藤——様々な感情が目に見えない糸となって絡み合っている。


「師匠……師匠と手合わせできる日が、こんな形で来るとは思わなかった」


 マーガスの表情は真剣そのもの。

 そこには以前の傲慢さも、子供っぽさも見当たらない。


 アリアは、幼いマーガスの姿を思い出していた。

 まだ剣も満足に握れなかった少年が、必死に素振りを重ねていた日々。


 あの日も、今と同じような真剣な表情をしていた。


(大きく……なりやがったな)

 思わず感慨に耽るアリア。


「今日あなたに恩を返します!」


 マーガスの言葉に、アリアはニヤリと笑う。


「やってみろよ!」


 エーデルガッシュが進み出る。

「決着の方法は?」


「死ぬか、負けを認めるまでの決闘方式だ」

 アマテラスが告げた。

「開始は双方の合意を持って行う」


 二人の闘気は弾けんばかりに膨れ上がっていた。

 空気が震え、地面にまで緊張が伝播する。


 アリアはマーガスを見据えたまま、シュトルムヴァッハーを背に、自分の剣を右手に構えた。


 マーガスはミスリルの盾を掲げ、赤い剣を握りしめる。


「行くぞ!」「来い!」

 二人の声が重なり、戦いの火蓋が切られた。


「アルケミック!」


 マーガスが唱えると、手にした赤い剣が光を放ち、弓へと変化した。

 弓に魔力を集中させ、矢を生成させる


「おせぇよっと!」


 アリアの咆哮と共に、彼女の姿が一直線にマーガスへと迫る。


 矢を放つ前に、間合いを潰すのが狙いだ。


 アリアはマーガスの攻撃パターンを熟知している。

 間合いが開いていれば、まずは遠距離攻撃——それはアリア自身が叩き込んだ戦術。


 しかし、その戦術には明確な弱点がある。

 武器を弓にすると、距離を詰められた際の対抗策に乏しい。


 これを狙って、アリアは開始前から距離を離していたのだ。


 マーガスが剣を弓に錬金すると確信し、矢を生成させるまでの隙を突く算段。


 しかし——

 このアリアの動きは、マーガスが誘導したものだった。


 アリアが一直線に突進してくると踏んで、彼はバックステップからの鮮やかなジャンプで更なる距離を稼ぐ。


 距離を稼ぐことは、到達時間を稼ぐこと。

 その間に、マーガスは生成を終わらせて、赤き弓を引き絞った。


(これで!近距離からの不可避の一撃になる……!)


 マーガスの思惑は、的確だった。


 だが、アリアはすでに急制動をかけている。

 この距離なら、余裕をもって回避できるはずだ。


「マルチショット!」


 マーガスの声が響き、一本の矢が拡散される。

 5本となった魔力の矢がアリアに向かう。

 これなら距離があっても、何発かはダメージが見込める。


 戦術では、マーガスが一枚上手だった。

 アリアの口角が不気味に吊り上がる。


(この一合のやり取り。ここまで出来るやつがどれだけいる?)


 アリアの体は熱くなる。

 かつての弟子の成長ぶりに、戦士の血が沸き立つ。


「うらぁーーーー!」

 アリアの動きは高速で的確だった。

 その性格とは裏腹に繊細で正確無比。


 彼女は剣を振るい、すべての矢をはじき返す。


 アリアが矢に気を取られた瞬間、マーガスの手には既に紅い槍が握られていた。

 一足で間合いに入る。


 その赤き先端が、アリアめがけて伸びた。

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