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【アニメーションMV有】最弱アイテム士は世界を科学する〜最弱の職業と呼ばれ誰にも期待されなかったけれど、気づけば現代知識で異世界の常識を変え無双していました〜  作者: 東雲 寛則
第1章 スタンピード編

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26話 覚醒

挿絵(By みてみん)

 研究所の魔法陣が青白い光を放ち、遥斗とアリアの姿を飲み込んでいく。

「気をつけてね、遥斗くん!」エレナの心配そうな声が響く。

 トムも真剣な表情で付け加えた。

「無理はするなよ。帰りを待ってるからな」

 ルシウスは満足げな笑みを浮かべながら言った。

「君の力を見せてくれることを願うよ」

 光と共に二人の姿が消えると、研究所に沈黙が訪れた。


 次の瞬間、遥斗とアリアはミストヴェール湖のほとりに立っていた。霧に包まれた湖面が、昨日と変わらぬ神秘的な景色を作り出している。

 アリアが遥斗の肩を叩いた。


「さて、準備はいいか?」

「はい、頑張ります」

「いいか、遥斗。今日は本気で鍛えるぞ。甘く見てると痛い目に遭うからな」


 アリアの声が真剣さを増す。

 遥斗は背筋を伸ばした。


「分かりました。全力で挑みます」

 アリアは満足げに頷き、剣を抜いた。

「よし、まずはアイアンシェルクラブの群れだ。現れたら即座に対応するんだ」


 その言葉が終わるか終わらないかのうちに、湖面が波打ち始めた。次々とアイアンシェルクラブが姿を現す。

「来たぞ!」アリアの声が響く。

 遥斗は深呼吸をし、集中力を高めた。(よし、いける...!)


「ポップ!」


 遥斗の声と共に、青い光が走る。最初のアイアンシェルクラブが光に包まれ、消滅した。

「その調子だ!でも油断するな。まだまだ来るぞ!」

 アリアが声をかける。

 次々と現れるアイアンシェルクラブに、遥斗は低級ポーションを連続して生成していく。アリアも剣を振るい、モンスターたちを牽制する。


 時が経つにつれ、太陽は西に沈み始めた。遥斗の額には汗が滲み、呼吸も荒くなっている。それでも、彼の目には強い決意の色が宿っていた。


「おい、遥斗!」アリアが叫ぶ。

「もう何時間も経ってるぞ。休憩は要らないのか?」

 遥斗は息を整えながら答える。「大丈夫です...まだ、やれます!」


 戦いが続く中、遥斗は自分の成長を実感していた。しかしここにきてレベルアップの速度が目に見えて遅くなってきた、レベル40を超えたあたりからだ。

「アリアさん、なんだか...」

 アリアは理解したように頷いた。

「ああ、ここらが限界かもな。このレベルの敵じゃ、もう大した経験値は得られん」


 遥斗は少し落胆した表情を見せた。


「でも、まだレベルは上がってます」

「そうだな。だが、上がり方が鈍くなってるだろう。最初の頃は1体倒すだけでレベルが上がったが、今じゃ5、6体倒してやっとだ」


 遥斗は疲れた表情で頷いた。

「確かに...最初よりずっと遅くなっています」

「こうなると、次のステップに進むしかないな。おそらくルシウスもそれを見越して...」


 その時、突然空気が重くなり、不吉な風が吹き始めた。アリアの表情が一変する。

「やばい...こんなのが来るとは...」


 遥斗が空を見上げると、そこには想像を絶する巨大な影が迫っていた。


 空から迫り来る巨大な影に、遥斗とアリアは息を呑んだ。漆黒の羽毛に覆われた巨大な鷲のような姿。その姿は、まさに死神そのものだった。

「シャドウタロン...」アリアの声が震える。「このレベルの魔物が、どうしてここに...」

 遥斗は動揺するアリアを見て、事態の深刻さを肌で感じ取った。


「アリアさん、どうすれば...」


 その言葉が終わる前に、シャドウタロンの赤い目がアリアを捉えた。一瞬の静寂の後、アリアが膝をつく。


「くっ...」アリアが苦しそうに呟く。

「麻痺...か...」

 遥斗は驚いて叫ぶ。

「アリアさん!大丈夫ですか?」

 シャドウタロンは高らかに鳴き声を上げ、その巨大な翼を広げた。紫色のオーラを纏った羽毛が、まるで風魔法のように二人に向かって飛んでくる。


「危ない!」

 遥斗は咄嗟にアリアを庇おうとしたが、羽毛の矢は避けられない。鋭い痛みと共に、二人は地面に叩きつけられた。

「ぐっ...」遥斗は傷の痛みに顔をしかめる。致命傷に近いダメージを負ってしまった。


 アリアも同じダメージを受けているが、その表情はそれほど苦しそうではない。


「くそっ...動けない...」


 遥斗は素早く低級ポーションを取り出し、自分とアリアに使用した。傷が瞬時に癒えていく。

「アリアさん、これで傷は...」

「ああ、助かる」アリアは頷くが、まだ体は動かない。


 シャドウタロンは空中で旋回しながら、次の攻撃の機会を窺っている。その赤い目には、アリアへの警戒心が宿っていた。

 遥斗は必死に考えを巡らせた。(どうすれば...そうだ!)


「アリアさん、低級麻痺解除ポーションを作ります!」


 遥斗の声に、アリアは驚きの表情を浮かべた。「待て、遥斗!危険だ!」

 しかし、遥斗の決意は固かった。彼は一瞬、躊躇したものの、すぐに心を決める。

(これしかない!でも...)

 遥斗の脳裏に、失敗した場合の最悪のシナリオが浮かぶ。シャドウタロンの爪に貫かれるアリアの姿。自分自身が無力に倒れる光景。しかし、それらの恐怖を振り払うように、遥斗は目を閉じた。

(今は恐れている場合じゃない。アリアさんを助けなきゃ!)

 遥斗は深呼吸し、集中力を高める。彼の意識が、目の前の巨大な魔物に向けられる。


「ポップ!」


 遥斗の声が響き渡る。一瞬の静寂の後、小さな黄色の小瓶が空中に現れた。


「できた!」


 安堵の声を上げる遥斗。しかし、歓喜に浸る暇はない。シャドウタロンが、その赤い目を遥斗に向ける。

「遥斗、気をつけろ!麻痺が来るぞ!」アリアの警告が響く。


 しかし麻痺にかかることはなかった。遥斗は咄嗟にポーションを掴み、アリアに向かって投げた。

「アリアさん、受け取って!」

 黄色の瓶が空を切り、アリアの元へ飛んでいく。シャドウタロンの羽毛の矢が、ポーションを狙って飛んでくる。

 時間が止まったかのような一瞬。

 ポーションがアリアの手に届く直前、羽毛の矢がそれをかすめた。しかし、奇跡的にポーションは無事だった。

 アリアは素早く瓶を開け、中身を飲み干す。


「効いた!よくやった、遥斗!」アリアが立ち上がる。

 シャドウタロンは驚いたように鳴き声を上げる。そして再び、その赤い目をアリアに向けた。

 しかし、アリアは動じなかった。


「残念だな。もう麻痺の視線は使えないようだ!」

 シャドウタロンの視線攻撃は、アリアに何の影響も与えなかった。


「もらった!」


 アリアが剣を構える。

 しかし、その瞬間、アリアの体が再び硬直する。

「な...何だ?」アリアの声に焦りが混じる。

 遥斗も驚いて叫ぶ。

「どうして?麻痺能力は奪ったはず...」

 二人が不審に思いながら空を見上げると、そこには想像もしなかった光景が広がっていた。

 もう一匹のシャドウタロンが、静かに空を舞っていたのだ。


「くっ...まさか、もう1匹もいるとは...」アリアが歯を食いしばる。

 遥斗の表情が凍りつく。

 シャドウタロンたちは、まるで勝利を確信したかのように、ゆっくりと二人の上空を舞っている。その赤い目には、人間への激しい憎悪が宿っていた。


 アリアは必死に体を動かそうとするが、麻痺の効果は強力だ。

「遥斗...逃げろ...」

 しかし、遥斗の目に決意の色が宿る。

 涼介たちの後姿、無力な自分、次々と走馬灯のように異世界に来てからの事が思い出される。


「嫌です!逃げません!逃げたくありません!」


 遥斗の声は、想像以上に力強さに満ちていた。その力強さに、アリアも驚きを隠せない。


「遥斗...?」


 遥斗は深く息を吸い、目を閉じた。彼の体から、今までにない強い意志が感じられる。

 そして、遥斗の目が開いた瞬間、その瞳の色が変わっていた。茶色がかった色から、漆黒に。


「アリアさん、もう一度やってみます」


 遥斗の声には、不思議な自信に満ちていた。アリアは言葉を失い、ただ見守ることしかできない。


 シャドウタロンたちが空から羽の攻撃を仕掛けようとした瞬間-

 遥斗の声が響いた。


「ポップ!」


 その声に、アリアは困惑の表情を浮かべる。何故か遥斗の手はアリアの方向を向いていた


「何を...?」


 遥斗の手には、黄緑色の小瓶が現れていた。麻痺ポーションだ。しかし、なぜこのタイミングで?

 答えは、すぐに明らかになった。

 アリアの体を縛っていた麻痺の効果が、まるで霧が晴れるように消えていく。

「え...?どうして...?」アリアは驚きの声を上げる。


 遥斗は冷静な表情で説明した。

「アリアさんの麻痺状態を素材にしました」

 アリアの目が見開く。

「な...何だって?そんな使い方ができるなんて...」


 遥斗の唇が小さく動く。

「僕にも、よく分からないんです。でも、できると...感じました」

 アリアは言葉を失った。彼女の知る限り、こんな使い方は聞いたことがない。しかし、考えている暇はなかった。

 シャドウタロンの羽が、鋭い矢のように二人に向かって飛んでくる。


「くっ!」


 アリアは素早く剣を構え、羽の攻撃をはじく。鋭い金属音が響き渡る。

 しかし、すでに遥斗は次の行動に移っていた。彼の目は、もう一匹のシャドウタロンを捉えている。


「ポップ!」


 再び、遥斗の声が響く。今度は黄色の小瓶が現れた。


「低級麻痺解除ポーション...?」


 アリアが驚きの声を上げる。

「麻痺能力を...封じたのか?」

「これで、もう麻痺攻撃は使えない」


 シャドウタロンたちは、明らかに動揺していた。彼らの赤い目に人間への憎悪と共に、新たな感情が芽生えていた。


 恐れ。


 そして、その恐れは即座に攻撃性へと変わる。麻痺能力を封じられたシャドウタロンが、突如として遥斗に向かって急降下を始めた。


「遥斗、危ない!」アリアが叫ぶ。


 しかし、遥斗の表情は変わらない。まるで、この展開を予測していたかのように。

「大丈夫」遥斗の声は冷静だ。

「これも、想定内です」

 彼の手には、先ほどアリアから生成した麻痺ポーションがあった。

 シャドウタロンが遥斗に迫る。その鋭い爪が、遥斗の体を切り裂こうとする瞬間—

 攻撃をかわしざまに、麻痺ポーションの中身をシャドウタロンにかける。


 魔物の動きが、まるで時が止まったかのように静止する。そして、麻痺したシャドウタロンは、重力に逆らえず地面へと落下していった。

 ドスンという鈍い音と共に、巨大な魔物が地面に横たわる。

 アリアは、目の前で起こった出来事を信じられない様子で見つめていた。

 彼女の声が震える。「遥斗、お前一体...」


 遥斗はほんの少し笑顔を浮かべながら


「僕にも、よく分からないんです。でも...」


「まだ終わっていません」


 遥斗の目が、空に残るシャドウタロンを捉えた瞬間、彼の動きが始まっていた。


「ポップ!」


 その声と共に、青い光が遥斗の手に集まり始める。アリアが気づいた時には、既に中級ポーションが完成していた。

 突如として襲ったダメージに、シャドウタロンは苦痛の叫びを上げ、その巨体が揺らめいた。

 そして重力に引かれるかのように、ゆっくりと地上へと落下し始めた。

 アリアの目が光る。


「そこだ!」


 彼女は剣を構え、跳躍する。その姿はまるで鳥が空を舞うかのようだった。剣に青白い光が宿る。


「氷霧剣・絶華!」


 アリアの剣が、シャドウタロンの首を切断する。魔物は悲鳴を上げる間もなく光となって消散した。

 アリアは着地し、息を整える。


「よし...!」


 しかし、遥斗の動きは止まっていなかった。彼はすでに次の行動に移っていた。

 マジックバッグから素早くMP回復薬を2つ取り出し、一気に飲み干す。

 遥斗の目は地面に横たわる麻痺状態のシャドウタロンに向けられていた。


「ポップ!」


 再び中級ポーションが生成される。

 魔物の体が光に包まれ、苦しそうにもがく。しかし、麻痺状態のため、逃げることもできない。


「ポップ!」


 2回目の中級ポーション。


「ポップ!」


 3回目。


「ポップ!」


 4回目の中級ポーションを生成した瞬間、シャドウタロンの体が光に包まれ、完全に消滅した。


 静寂が訪れる。

 アリアは、目の前で起こった出来事を信じられない様子で見つめていた。遥斗の動きは、まるで機械のように正確で冷静だった。その目には感情が宿っておらず、ただ効率的に行動を繰り返していた。


「遥斗...」アリアの声が震える。


 遥斗はゆっくりとアリアの方を向いた。その目は、まだ漆黒のままだ。


「終わりました」


 遥斗の声は、感情のない平坦なものだった。

 アリアは、思わず後ずさる。彼女の背筋に、冷たいものが走る。

(これが...遥斗の本当の姿なのか?)

 戦いは終わり、危機は去った。しかし、アリアの心に新たな不安が芽生えていた。目の前にいる少年の能力が、彼女の想像を遥かに超えていることを身をもって感じたのだ。

 遥斗の目が、徐々に元の色に戻り始める。そして、彼の表情に人間らしさが戻ってくる。


「あれ...?僕...何を...」遥斗が周りを見回す。


 アリアは、安堵と警戒が入り混じった複雑な表情で遥斗を見つめていた。


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