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馬鹿馬鹿しい話  作者: じいちゃんっ子


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2/2

クリスマスの夜に

再開!

 初めて訪れた街。

 眩いイルミネーションに彩られ、大勢の人達が行き交う。


「凄い人だかりだな」


 喫茶店の窓際席から外を眺める。

 どこを見ても人ばかり、時計は12時近い。

イブから翌日まで恋人達は一緒に過ごすのだろう。

 俺はクリスマスが好きじゃない、4年前の苦い思い出のせいだ。


 川田美香。


 思い出したくもない名前だが、悪い意味で俺の心に刻まれている。

 美香は初めて出来た恋人だった。

 勇気を振り絞り告白して、OKの返事を貰えた時は嬉しかった。


 高校を卒業してからも交際は続いた。

 お互い違う大学に進んだが、少しでも時間があれば会いに行ってた。


 記念日にプレゼントも欠かさず贈った。

 大学生のバイト代で買える物なんかしれていたが、美香は凄く喜んでくれたっけ。

 そんな記憶が別れの決断を遅らせてしまったんだ。


 遠距離恋愛は難しい、でも俺は大丈夫だと信じていた。

 少し我儘なところや、自分勝手なところも魅力的に思えていたのだから、思い込みは怖い。


 送ったラインの返事が素っ気なくなって、返って来ない事だってあったのに。


 [ごめんね、忙しくって]

 こんな返信が来ただけでも、既読スルーされなかったと喜んでいたんだから、当時の俺は救いようの無い本当のバカだった。


「別れて正解だったよ」


 別れた直後は落ち込んだ。

 だけど周りの支えもあり、立ち直りも早かった。


『そりゃ酷いのに掛かったな』


『とんでもない人だったんだね、颯太君大丈夫?』

 別れた時の話をすると、全員が口を揃えて言った。

 バイト漬けだった日々から解放され、遅ればせながらサークルにも入った。


 そこでようやく、俺は元カノの呪縛から逃れる事が出来たのだった。


「…ん?」


 窓に張り付く1人の女。

 どこかで見たことのあるような…


「颯太!」


「…え?」


 店に入るなり女が叫ぶ。

 店内の人達から注がれる視線をものともせず、女が俺の座るテーブルに走って来た。


「颯太よね、久しぶり!」


「誰だ?」


「私よ、もう白々しいわね」


 随分と馴れ馴れしい態度だ。

 白々しいもなにも、こんな人には覚えがない。


「ひょっとして忘れちゃった?

 颯太もだけど、私も随分垢抜けちゃったし」


 何度も俺の名前を言うって事は知り合いなんだろう。

 高校…大学時代…いや、こんなケバケバしい格好するような人間は、俺の知り合いに居ない。


 髪は金髪、化粧も濃い、キツイ香水の臭いに鼻が曲がりそうだ。

 なにより女の服装は露出が多すぎで、目のやり場に困る。


「美香よ、思い出した?」


「美香…まさか川田美香か?」


「そうよ、もっと早く思い出しなさい。

 私は直ぐ颯太だって分かったのに」


 これが美香なのか?

 昔の面影が殆ど無い、甘ったるく媚びたような喋り方も不快だ。


「本当に久しぶりよね、4年振りかしら」


「あ…ああ」


 唖然とする俺を他所に、美香は対面席に座る。

 こんな図々しい奴だったかな?


「こうしてクリスマスイブに会えるなんて、なんか運命感じちゃうね」


「はあ?」


 何が運命だ、悪夢の再来でしかない。


「ねえ、颯太はどうしてここに?」


「待ち合わせだ」


「待ち合わせ?誰と?」


「大学時代の知り合いだよ」


 彼女と言えば、間違いなくコイツは喚き散らすだろう。


「へえ、もしかして女の人だったりして」


「あのな…」


 何で言わなくてはならないのか。

 早く帰ってくれ、店にも迷惑になる。


「なんだか変わったわね、やっぱり社会人になったからかな?」


「…そうかもな」


『お前と別れたからだよ』

 そう言えたら楽なんだけど、余計に騒がれては大変だ。


「今どこに勤めてるの?

 やっぱり一流企業かな、颯太って勉強出来たし」


「普通の会社だよ」


 上目遣いの美香は値踏みするように俺を見る。

 それなりの会社には勤めているが、別に高給取りではない。

 美香は高校で遊び呆け、かなり大学のランクが下がってしまったから、それがコンプレックスなのかもしれないが、どうでもいい。  


「高校時代、楽しかったよね」


「それなりにな」


 美香の記憶を除けばの話。

 適当に相槌を打ちながら、気が済むのを待つ。

 興味が無いと分かれば、帰ってくれるだろう。


「…ねえ、今晩って暇?」


「暇な訳ないだろ」


 待ち合わせって言ったのを忘れたのか?


「用事が済んだら、一緒にディナーでも…私の・へ・や・で」


「止めろ」


 冗談では無い。

 何が悲しくて、トラウマ相手にクリスマスイブを過ごさなくてはならんのだ。


「ひょっとして、気にしてるの?」


「気にしてる?」


「4年前の事…」


 馬鹿らしくて返事をする気さえ失せるよ。


「あの日はね、どうしても外せない用事があったの」


「聞きたくもない」


 言い訳をするつもりなのが見え見えだ。

 4年前、イブにドタキャンされて翌日に別れ話をした。

 特に理由を言わなかったのは、美香が聞かなかったのもある。


「聞いてよ、だからあれは…」


「ドタキャンして男達と部屋で酒盛り、それ以上の別れる理由がいるか?」


「え…」


「行ったんだよ、お前のアパートに」


「嘘よね…」


 忘れたい記憶だ。

 イブに会う為、レストランの予約をしたらドタキャン。

 嫌な予感に美香のアパートへ行ってみたら、部屋の外まで数人の話し声が聞こえた。


「『チョロい男』、『セックスが下手』悪かったな。

 あとなんだったか、『ケチでつまらない奴』だっけ?」


「そ…それは、その場のノリで」


「ノリで約束をすっぽかして悪口三昧か、良い友達だな」


「わ…私は浮気してない」


「関係ないだろ」


 最後までその場に居た訳じゃない、しかし心が離れたと思い知るのに充分だった。


「お酒を飲んで…そうよ飲まされてたの」


「もう止めろ」


 酒のせいにするなよ、翌日はシラフだったのに。


「お願いだから…聞いてよ」


 どうしたものか。

 情けを掛けるつもりはない、だが美香の性格上これでは終わらないし。


「はい、おしまい!!」


 背後から手をパンと叩く音。

 振り返ると大学の1年先輩、真田瀬紗央里が呆れた顔で立っていた。


「誰よアンタ…」


「アンタこそ誰よ」


 美香に全く怯まない紗央里、大学時代の空手サークル元キャプテン、さすがは二段。


「私は颯太の…」


「馬鹿やって捨てられた元カノでしょ?

 大学の頃に颯太から聞いたわよ」


「うるさい…」


 確かに言ったな、紗央里にはよく相談に乗って貰った。


「その(なり)見れば大体の想像つくわ、男にドタキャンされたってとこね」


「うるさい!うるさい!!」


 おっと図星か、よく分かったな。


「お前に関係ないだろ!」


 バンとテーブルを叩く美香だが、止めた方がいいぞ。


「関係あるわよ、颯太は私の彼氏だから。

 やっと、ようやく初めてクリスマスを二人で過ごそうとしていたのに…」


「ヒッ…」


 あの眼光に耐えられる奴はそうそう居ないぞ、俺だって組手の時は縮み上がるのに。


「サカりたきゃ、他をあたりなさい…」


 美香は這いずるように店を出ていく、腰でも抜けたかな?


「…やっちゃった」


 紗央里の雰囲気が一変する。

 これが本来の姿、優しく綺麗で虫も殺せないように見えるね。


「いいよ、助かったから」


「ごめんね、仕事で遅くなったから、あんなのに絡まれちゃって」


 初めて紗央里の勤務先に来たから起こってしまった出来事だけど、気分は悪くない。


「おかげで悪夢は吹っ切れたよ」


 やはり過去に区切りは必要なのか、スッキリした。


「行こう、もう12時を回ったよ。

予約の時間が近い」


「うん!」


 これから紗央里と深夜レストランでのクリスマスディナー。

 差し出した右手を握る紗央里の笑顔、ようやくクリスマスが好きになれそうな気がした。

終わり

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― 新着の感想 ―
クリスマスのデートをドタキャンして男友達たちと宅飲み… その後は乱○パーリィーですねわかります。
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