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☆14 奉納料理を作ってみよう




 ほくほくとした表情で、マケインはお婆さんからお礼として貰った収穫物しゅうかくぶつを眺める。

売り物だった幅広の銅製の足輪一つと、固くなったオレンジ色のチーズだ。少しだけ食べてみると、見た目通りチェダーチーズに似た味がする。


 うらやましそうにこちらを見ているルリイに小さな欠片を手渡すと、妹は嬉しそうにそれをゆっくりかじった。

かといって、沢山あげてしまうわけもいかない。

なんていったって、これから神殿に奉納する料理を一人で作るからだ!


 流石にかまどの扱いには慣れていないので、エイリスが火起こしの下準備をやってくれている。

 まず、買ってきた豆の下準備をする。

水に浸して膨らませたピーチク豆を、三十分ほど固めに煮たものがここにある。そこから湯を切り、水分をとって家にあった少量の粉をまぶしたら、少なめの油でげていく。

豆を揚げる分にはフライドポテトよりも油の分量が少なく済むので、今回はこういう形をとってみた。


 それに塩味が程よくついたところで、今度はそれを玉子に混ぜ、半熟のオムレツを焼くことにする。そこに使うのが、綺麗に洗った銅の足輪だ。これを型の代わりにして、フライパンの上に置き、卵液を中に注ぎ入れるのだ。

 これを今回は仮にハンバーグのパティの代用とする。

今度は家にあった酢と買ってきた油、新鮮な卵でマヨネーズソースを作る!!


「ま、マケイン様、何をするおつもりですか!?」

 見守っていたエイリスが悲壮ひそうな顔でマケインの手を止めようとした。ふんわりとした胸がマケインの後頭部に当たり、思わず意識がそちらに向かいそうになる。


「止めてくれるな、エイリス!」


「だって、貴重な油に生の卵なんて……っ」


 ええい、邪魔をしないでくれよ!


「エイリス、黙って見ててくれ。これでも自信はある方なんだ」

「料理の初心者はみんな同じことを言うものですっ」

 マケインにまとわりつき、わなわなと震えているエイリスに向かってルリイが制止の声を掛けた。


「エイリス、邪魔しちゃダメ。今日はにいちゃに全部任せるって言ったでしょ」

「そう……でしたね」

 ナイスだルリイ!

不承不承ふしょうぶしょうといった様子で、エイリスはマケインから距離を置く。ようやく自由になった肉体で、マケインは手元のボールの中のものを撹拌し始めた。

泡だて器がないので異常に時間がかかったものの、なんとかそれらしいものが出来上がる。少しだけ舐めてみると、どこか懐かしい味がした。


 マヨネーズができたところで今度はゆで卵を仕込む。黄身がしっとりするくらいの火加減で何個がでたら、水にさらして殻をく。いつしかこの世界の常識を持っていたエイリスのマケインを見る目が変わってきていた。

細かく切ったゆで卵とマヨネーズを和え、丸い形に焼かれたパンに具を挟んだ。マヨ和えのゆで卵とフライビーンズを混ぜた円形の半熟オムレツ。薄切りにしたチーズを多めに使い、庭に生えていた葉物野菜と薄切りの生玉ねぎを隙間に入れる。


「よし……できた」

 残ったフライビーンズを付け合わせにすれば、完成だ!

自分でも上手くできるか不安だったものの、出来てしまえば案外悪くない見た目だ。


「お兄ちゃん、これ……なんていう料理なの?」

 目の前の見慣れない料理に、ルリイが不思議そうに訊ねた。


「マケイン流ハンバーガーテイストエッグビーンズピタパンサンドってとこかな」

「ま……」

 ルリイは目を白黒させている。


「……ごめん、にいちゃ。もう一回言って」

「マケイン流ハンバーガーテイストエッグビーンズピタパンサンド……」


「長いよ」

 うん、自分でもそんな気は薄々していた。

しかも、見た目としては寄せてはみたものの、これは完全にハンバーガーとは別物の何かになっている。

むしろ、この世界の人間にこれがハンバーガーだと間違って周知されてしまったら、そのまま信じ込まれてしまいそうで恐ろしい。


「こんなものをハンバーガーと云ったらファストフードへの冒涜ぼうとくだ……」

 だってそもそも肝心の肉、入ってないし。

どちらかというと具材としてはコンビニのサンドイッチに近い内容だし、これはピタパンサンドと名乗らせた方が無難やもしれず。


「……元の世界のファストフードへの道は前途多難だよなあ」

 食材の縛りさえなければもっと色々作れたのに!! くっと涙を流し始めたマケインにエイリスが何か声を掛けようとしたところで、キッチンにミリアが我慢しきれずに踏み込んできた。


「いつまで作ってるのよ馬鹿兄貴……って、なんでアンタ泣いてるの?」

 不気味そうな表情でミリアは灰色の瞳をマケインへ向けてくる。


「まさか失敗したんじゃ……」

「……俺はですね、現実と理想の乖離かいりに苦しんでいるのです」


「何それ、意味わかんない」

 半目になったミリアは、深々とため息をついた。






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