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カル&マクのどろり二人旅  作者: ブーブママ
第五章

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44/53

宴の終わり

 メンブリムの樹の下に集まった人たちは、最初の方こそ遠慮がちだったものの、すぐに陽気に騒ぎ出した。各々持ち寄った酒やつまみを振る舞い、話に花を咲かせている。


 多種多様な人たちが、こんなに近くで花が見れるなんてこれまでなかった、と口々に言っていた。


 ──で、ボクはというと。


「さ、さ、マクナちゃんも飲みなよ、グイッと!」


 ナガに絡まれていた。


「えぇ……」

「グイグイッと!」


 すでに目元の赤いナガが、ボクに酒を執拗に勧めてくる。


「これね、ザプル酒、飲みやすいから! ドンドンいけるんだよ」

「はぁ」

「飲んで酔って、それでもってヤらしてください! 大丈夫! 酔ってても人前でも勃つから!」


 ──何が大丈夫なもんか。


 カルは何やってるんだ──と辺りを見回すと、酔客たちに混じって肩を組んでゲラゲラ笑っているのを見つけた。誰かが弾き始めたリラの曲に合いの手を入れていたりする。最初はダークエルフだからって警戒されていたのに、もうすっかり溶け込んでいた。


 ──ボクが大変だというのに、ずいぶん楽しそうだな。


「ほらほら、マクナちゃん、飲もうよ~。ちょっとだけ、半分だけでいいから!」


 目の前に杯が寄せられる。干したザプルを落とした透明な液体。


「──じゃあ、半分だけ」

「よっしゃあ! 卒業だあ!」


 ボクは──杯を受け取った。いい加減、適当にあしらうのにも疲れてきたところだった。


 杯を両手で握って──集中する。


 錬金術。主に液体に働きかける法術の形態。達人は加熱し溶かした岩石の中から金を掬い上げるがゆえ、そう呼ばれている。


 それに比べたら初歩もいいところだ──酒と水を二つに分けることぐらい。


 ボクは法力を馴染ませたザプル酒を上澄みと酒精に分け、きっちり半分飲み干す。


「はい、お返し」


 そのままナガに杯を突き返すと


「やばい間接キスだよねコレ?」


 と気持ち悪いことを言いながら、ナガはニコニコして一気に飲み干して──


「アッ、これ効く、すご──ゥン゛ッ」


 倒れた。


 ──うん。めちゃくちゃ濃縮された酒精だから、そりゃそうなるよね。いびきをかいて寝てるから、大丈夫だろう、うん。


「なんだ、潰しちまったのか」


 そこへ、ヒョイッ、と──草むらから急に顔を出すウサギのように、カルがやってきた。


「悪いヤツだな、オマエも」

「今頃来て、なんだよ」

「オッ、なんだ? 助けて欲しかったのか? オレに?」


 ばかじゃないのか、このダークエルフは。


「そう睨むなよ。そろそろだから来てやったってえのに」

「──そろそろ?」

「オウ」


 カルがいやらしく笑った──とたん。


「な、なんだこれは! 何の騒ぎだ!?」

「貴様ら、どこから……ええい、ここは神聖なメンブリムの樹だぞ! 他の種族が近寄っていいものではない!」

「うわっ、エルフだ!」

「ひえええ! 逃げろぉ!」


 沸き起こる騒ぎ。あちこちで瓶が倒れて割れる音がし、悲鳴と怒号であふれかえる。


「な、なに……」

「エルフが戻ってきたんだよ。見張りがんな長時間持ち場を離れるわけがねーだろが」

「うわっ」


 カルの肩に担ぎ上げられる。


「えっ、ちょっと、ナガはどうするのさ!?」

「さすがに潰れてるの二人も抱えられねーよ」


 ナガだけかと思ったら、モルダも潰れてるのか。


「マッ、エルフの良識に期待するんだな」

「でも」

「せっかく狙い通り逃げやすくなったんだ、うだうだ言ってないで行くぞ」


 狙い、通り?


 担がれた姿勢のまま見下ろすと、カルはニヤニヤしながら手に持った何かを振って見せた。


 木の、枝──つぼみ、メンブリムの花!?


「リストにあっただろーが。驚くことかよ」

「あっ」


 ……あった気がする。カルとボクで探してくるように里から指示された、解呪のための薬の材料のリストに。


「じゃ、じゃあ、今までの騒ぎは全部、メンブリムの花を盗むために……」

「捕まってろよ!」

「うわっ!」


 カルが跳び、駆ける。


「ひゃあー!」

「げっ、誰だよ!」

「見えない! 暗い!」

「ええい、鎮まれ、狼藉者が!」


 背後で急に光の精霊が姿を消し、暗闇が舞い戻り、混乱と悲鳴がいっそう増す。


 夜の森を、カルは──


 それはそれは楽しそうに駆け抜けていった。

2022/1/7改稿

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