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カル&マクのどろり二人旅  作者: ブーブママ
第五章

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誤解の理由

「やぁ悪かったな」


 金と黒の髪。そして今度は丸い顔に丸い鼻。


 顎の長い男の次に現れたのは、革鎧を着た背の低いマトールだった。


 マトール族。その特徴は第一に毛髪に出る。数多くの種族の中で、多色の髪を生やすのはマトールの大きな特徴だ。家系によってさまざまな組み合わせがあるので、右と左でキッチリ分かれているこの二人は、たぶん兄弟なんだろう。


 ──体型と顔型はすごく違うけど。丸と棒って感じ。


「ほれお前もあやまれぃ」

「痛いなあ」


 キーキーという感じのトーンで、早口でまくし立てながら、丸いのが長いのの背中をバシーンと叩く。対して長いのは、低めののんびりした声でぼやく。


「だってさ兄さん、脱童貞チャンスだったんだよ」


 長いのの方が弟らしい。


「アホぅ!」


 丸いのがまた叩く。


「人様のモン勝手に盗ろうとすな!」


 ──ボクはモノじゃないんだけど?


「違うよ兄さん、分けて貰おうとしたんだよ」

「いゃでもな」

「だって性奴隷だよ!」


 ──ハ?


「いくら性奴隷でも人様のモンには変わらねだろ」

「でも毎日ヤリまくってるなら、一回ぐらいやらせてくれるかもしれないだろう? 一回ぐらい。兄さんだって、一回だけチューさせてくれって僕が頼み込んだら、一回ぐらいならいいかなあってなるだろう?」

「むぅ、ま一回ぐらいなら」

「だったらその可能性にかけて頭を下げてもいいじゃないか。脱童貞だよ? 一皮剥けた男だよ?」

「──確かに!」


 二人は──くるっとカルの方を向いて、深々と土下座した。


「「ダークエルフの兄さん! 貸してください! お願いします!」」


 ──なんだ、これ。


 カルを見る。と、カルはプイッと顔をそむけた──って、ちょっとニヤけてなかったか!?


「カル、どういうことなの」

「あァ? なにがだ?」

「その──奴隷とかなんとか。そういえば前もそんな勘違いされた気がするんだけど」


 竜のオルネルが捕まっていた街で、ボクは衛兵にそんな誤解を受けていた。


「さァ、なんでだろーなー」


 コイツ、絶対わかってる。


 ……そっちがそうなら、いいさ。えーと、心臓を握りこむイメージで……


「チッ。わーったわーった教えてやるからヤメロ。ったく、面倒な術だぜ」


 ボクらの間の不愉快な絆……命を共有する呪いの力を使って脅すと、カルはようやく観念して説明した。


「てか、オマエは娼館とか行ったことねーのか? あん?」

「な、そん──」

「俺はないス!」

「僕もないですね!」


 マトールの男たちが何か勝手に発言したけど、とりあえず無視。


「娼館がなんだっていうのさ」

「娼館じゃハーフエルフは重宝されんだよ」

「え? ……どうして?」


 ヒトとエルフから疎まれているハーフエルフが……?


「だってよ、ハーフエルフって種なしだろ? つまり、いくらヤッても仕事し続けられる。親に捨てられて食っていけねえハーフエルフは、大抵娼館に行きつくな」


 ──聞くんじゃなかった。


 鼻つまみものとして扱われているハーフエルフ。それを「都合がいい」と利用している場所があるなんて、知らなかった。


「んで、娼館じゃなけりゃ奴隷になってるな。軍隊に随伴したり、有力な冒険者に買われたりだ。もちろん、夜の相手としてな」

「──つまり、ボクはカルに買われた奴隷だと、勘違いされたってこと?」

「勘違いっつーか、ハタから見たらだいたいそう思うんじゃねーの?」

「そスね」

「揃いのマントを着てるから、そういう所有物アピールかと」


 な……な……。


「な、なんで言わなかったんだよ!」


 恥ずかしいやらムカつくやら──とにかくボクはカルに殴りかかり──あっさり腕を取られて動けなくなった。


「はな、離せよっ!」

「ケッ。言ったところでどうなったってんだよ。通行人にいちいち奴隷じゃありませんよ~、なんて自己紹介するつもりか? バッカバカしい」


 ぐい──と引き寄せられ、カルの顔が近づく。


「──他人がどう思おうと、そいつらの勝手だろ? オマエがどう思ってるかのほうが重要じゃねえか?」

「──ッ」


 なんとか──


 なんとか腕を振りほどいて、ボクはカルに背を向けた。


 どう思ってるか? 怒ってるさ。──頭がカッカッするぐらい。

2022/1/7改稿

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