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カル&マクのどろり二人旅  作者: ブーブママ
第五章

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38/53

飛ぶ二人

「フハハハハハハ! ついに尻尾をつかんだぞ、カルグゥゥゥ!」


 大木の生い茂る緑濃い森に、高笑いが響く。驚いた鳥がバサバサと木々から飛び立っていった。


「今日こそ貴様の最期だ! ハーッハハハハハハ!」

「しつけェな……」


 カルはうんざりした顔を、腕の中のボクに向けた。


「なんで森のエルフじゃなくて、アイツが出てくんだ?」


 リダンの森──大陸最大のエルフの国を、カルはボクを両手で抱えて逃げていた。地上を走る三騎を引き離すべく、大木の枝を跳躍して、とんでもない道順で移動していく。


 けれど追っ手もさるもので、木の根で複雑に隆起する地面を、馬を自在に操ってぴったり後……というか下をついてきていた。


「知らないよ──ていうか、前々から訊いてるけど、なんであのひと──フィンデリオンは、カルを追っているのさ?」


 金髪を複雑に編み込んだエルフ、フィンデリオン。どこか遠くの地方の貴族だという彼は、カルを殺すと息巻いて、旅の途中いくら撒いてもいつのまにか近くにやってくる。おかげで、同じ街に2日と滞在したことがない。


「まァ色々あったんだよ」


 カルはいつも通りごまかす。殺すほど恨まれてるっていうのに……そんなに話したくないんだろうか?


「──ところで、いつまでボクを抱えてるつもりなのさ。近いよ、離れろよ」

「あァ? 仕方ねェだろ。オマエの足じゃ追いつかれっし──なんたって、オレ達は一心同体だろ?」


 ボクの脚の裏と脇に手を通し……つまりその、お姫様抱っこをしながら……ニヤニヤとカルがイヤらしく笑う。


「──別に、フィンデリオンならボクを殺したりしないと思うな」


 あのエルフが、カルを目の前にしてハーフエルフなんかを気にするとは思えない。あれでいて、根はいい人みたいだし……差別意識は無意識レベルで染みついてるけど。


「バァーカ。確かにアイツはアホだが、部下のほうはデキんだよ。この状況じゃ見逃さねえだろうな」


 フィンデリオンに従う二人の騎士。いつも全身鎧に兜をかぶっているから素性が知れないけど──


「……強いの?」

「マトモにヤリたかねェな」


 カルは口をへの字にする。この自信家のダークエルフがこう言うのだから、どうやら本当に強いらしい。……仕えている主人は、あんなに残念なのに。


「それじゃあ、どうするのさ? このまま木を跳んで逃げるとか、疲れて落ちて捕まっちゃうんじゃ」

「ハ。こんぐれぇで息切れしたりなんかしねえよ。ヤツらの馬のほうが先にくたばるさ──たァいえ、そんなに付き合ってられるほど暇でもねえ」


 カルは顎で森の先を示した。


「あそこだ。しっかり捕まってろよ」

「? なにが?」


 ちらり、と顔を動かしてその先を見る。相変わらず森、緑の茂った枝で前が見えない。別に何も変わらないような──


「飛ぶからな」


 バサッ──と、枝葉を突き抜けた先に広がる、青空──


「え」


 崖だ。飛び出した先は、切り立った崖。遥か下にまた森が見えて──


「ええええええええーッ!?」


 カルは、ボクを抱えたまま、枝を蹴って崖から身を投げていた。


「おおおおお、落ちるッ!?」

「落ちねえよ、目ェ開けてみ」


 いやいや、落ちてるだろッ!?


「竜のいた街のこと覚えてるだろ。アレの報酬で、法術使いの倉庫を漁る権利を得たろ? ショボかったけど、それなりに使える道具もあってな。例えばこの、落下速度が低下する至法の指輪とか」


 ほら落ちて──落ちて……? ……確かに、なんだかぜんぜん風を感じない。


「どさまぎで抱きついてたいなら、そんままでもいいぞ」

「誰がッ!」


 抱きついてなんかいたもんか。ボクはゆっくり目を開けてカルから身を離す……まだ抱えられてるけど、とにかく距離を取る。


 眼下の森は、ゆっくりゆっくりと近づいていた。ボクたちはどうやら、羽のようにゆっくり落ちているらしい。カルの方を向くと、カルは指輪をした片手をあげていた。その指先から大きな、タイヨウの実のような大きな球が生えている。どうやらあれの浮力で落ちる速度が減っているらしい。


「ワリィな、アバヨ、フィンデリオン!」


 カルが後ろを振り返ってニヤリとイヤらしく笑い──


「──って、オイ、マテ」


 固まった。ボクも身をよじって後ろをみると──フィンデリオンが弓を構えてこちらに狙いを──


 バシュッ!


「マジかよ」

「ヒッ」


 矢に貫かれ、カルの指輪の先の球が弾け──ボク達は勢いよく落ち始めた。

2022/1/7改稿

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