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カル&マクのどろり二人旅  作者: ブーブママ
第四章

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34/53

暗殺者

「カル、どこ行くの?」


 ぴたり、とカルの背中が止まった。


「──起きてたのか」

「なんだか寝られなくて。それに身支度してるからどうしたのかなって──」


 里の外の話を喋りまくって、ようやく解放されて、寝床──といっても地面に毛皮が敷いてあるだけなんだけど──に案内されて。


 なんだか興奮してしまったのか、なかなか寝付けないでいた。横になって、夜でも物がはっきりと見える周囲に目をやっていたら……カルが立ち上がったのに気づいて、思わず声をかけた。何だか、よくわからない違和感があって。


「あァ……ん」


 カルは、背中を向けたまま首を掻いて──


「しゃーねェな、ついてこい」


 とだけ言ってまた歩きだした。ボクは慌てて起き上がって、それについていく。


「喋ってもかまわねーが、大声は出すなよ」

「ああ──子供たちが起きちゃうといけないよね、わかった」


 夜中だからね……たぶん。相変わらず、物が影を作らずはっきり見えるこの里の中は、夜なのか昼なのかもよく分からない。なんとなく、遠くの方が見えづらい気がするし……たぶん、夜。


「それで、どこに行くの?」

「どう思ったよ?」


 ボクの問いに答えず、カルが訊いてきた。


「どうって?」

「この里のことだよ」

「ああ──思ったより人が少なかったけど、子供はみんな楽しそうでいい雰囲気だったね」

「外から人が来ることがねえからな。外回りのヤツに話を聞くのがアイツらの唯一の娯楽だ」

「みたいだね。あとは……一人前になれないと死んじゃう、っていうのは驚いたけど。でも、脅しみたいなものでしょ?」

「脅しね」


 カルは立ち止まって、空を仰ぐ。


「2人減ってた」

「え? 何が?」

「ガキどもさ。この間は、もう2人いた。誰も口にゃしちゃいねえが、まァ──死んだな」


 死──


「ど、どういうこと? え、い、一人前になれなかった……から?」

「試験を受けるような歳でもなかったが……ある意味間違っちゃいねェな。訓練中に死んだんだろ」

「え……は?」


 カルの言うことがよく分からない。


「里の中で……訓練をしていて、死ぬ……子供が?」

「ヒトの街じゃなかなかないコトらしーな。平和なことだ」

「いや、そりゃ……事故とかで死ぬ子供はいるけど、訓練で死ぬようなことなんて……」

「オマエになついてきたアイツ……グリズナか」


 カルはゆっくりと歩きだす。


「アイツ、今の時点で並の冒険者を数人相手にしても、余裕で全滅させられるぜ。そうできるように訓練で鍛えられてる──そうでなきゃこの里じゃ生きられねえ」


 ぞっとした。話の内容より、なにより──カルの冷たい声に。


「使命を果たすため。その事だけを教え込まれて、周りのヤツがくたばっていく中、血ヘドを吐いて生き抜いてんだ。今日集まったヤツらから実際外に出ていけるのは良くて2人だろーな。……さて、どう思うよ?」

「……そこまでしなきゃならない使命って、いったいなんなのさ」


 マトモじゃない。


 いったい何があれば、そんな──子供をほとんど死なせるようなことができるんだ。


「そうだな。……オマエも知ってるだろ?」


 カルは唾を吐き捨てて言う。


「百年ぐらい前の話だ。──エルフの王女をダークエルフが殺したってやつ」

「え? ああ、うん。この間話題にしたね」


 エルフとダークエルフの関係に、修復できない亀裂の入った事件だ。


 ここリダンの森を治める王国のお姫様が、成人を迎える前に森の外へと出奔した。その後悪い人間に騙されて大陸を移動したお姫様は、火山の麓でダークエルフによって暗殺されたという。


「アレをやったのはな──この部族のヤツだ」

「──え、ええっ!?」

「騒ぐなっつってんだろ」


 ボクはなんとか口をふさいだ。


「……なんで、お姫様を暗殺したの?」

「その頃、エルフとダークエルフの関係はまァ……良くなかった。今もだけどな。そこに王女が森を出たって話が広まって、それを機会と見て暗殺が計画された──ウチを除いた、リダンの森のすべてのダークエルフの部族でな」

「……え? でも、ここの部族のひとが暗殺したって話なんじゃ?」

「ウチは数少ない穏健派だったんだよ。だから暗殺を防ぐために、護衛を派遣した。──ところがその護衛がヤりやがったのさ」


 カルは唾を吐き捨てる。


「な、なんで? どうして護衛が暗殺を?」

「知るかよ。とにかくソイツは里の命令に逆らってまで王女を殺した。んで、ダークエルフはエルフの復讐の対象になった」


 カルは静かに続ける。


「森全体で激しいダークエルフ狩りが行われて、種族が全滅させられるかどうかって時、ひとりのお人よしが名乗りを上げた。ダークエルフの部族間の交渉役をやってた女なんだが──まァ、ダークエルフにとっちゃ、エルフの王女ぐらいの重要人物だ。ソイツがウチの部族を騙って、犠牲になった。それでようやく事態が収まったわけだ」

「犠牲って──殺されたの?」

「それなら苦労はねえな」


 ──まぶしい。


 急に、前方が明るくなった──光が射している。


 よく見たら、周りの木々も白くなく、緑の葉を繁らせていた。


「ソイツはエルフに呪われ、封印された──」


 緑の木々の広場の中央に──


「そこの木の中にな」


 光を放つ大樹があった。

2022/1/5改稿

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