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カル&マクのどろり二人旅  作者: ブーブママ
第四章

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33/53

里の子供

「なーなー、空なんか見てどうしたんだ?」

「えっ、ああ、うん」


 ──びっくりした。


 にゅっと視界の中に顔を出してきたダークエルフの少女に、そうと悟られないうちに答える。


「ここはずっと空が暗いから、日が落ちたかどうかわからなくて」

「ははー、なんだそんなことか!」


 銀の髪に黒い肌、赤い瞳の少女──グリズナは得意気に胸を張った。


「この森は光の精霊が守ってるからな! 太陽や星の光を──ねじ曲げてるんだ。昼も夜も物は見えるようになってるけど、微妙に明るさが違うんだぞ。目が慣れちゃうから気づきづらいけどな! そうそう、物は見えても影は落とさないから、方角がわかんないだろ? 万一誰か入ってきても、迷って出ていくことになるわけ、すごいっしょ?」

「う、うん、確かに迷いそうだ」


 日が──たぶん落ちてから。


 カルとボクは、広場でダークエルフたちと車座になって食事をしていた。その大半は子供で、その中でもグリズナが一番大きくてよく話しかけてくる。──大きいとはいえ、どうみても十歳ぐらいなんだけど。


 十歳ぐらいなんだけど──膨らみかけた胸を、ミロムと同じような格好で──だから──顔を合わせづらい。つい、空に視線を逃がしてしまう。


「そんなことよりマクナ、マクナの話をもっと聞かせてよ。森の外の話はいくら聞いても無駄にならないって、ミロムも言ってたし」

「そう言われても──だいぶ話したよ。旅に出るまではずっと街で暮らしてたから、そんなに話の種がなくって……」


 だいたい同じ話をもう三度はしてる気がする。いい加減顎も疲れてきた。


「そんなこと言わずにさー、ほら、肉あげるから肉。食べなよ。あたしが狩ったやつだぜえー?」

「お腹もいっぱいだよ。──そういえば」


 ボクは不思議に思っていたことを持ち出して話を逸らす。


「君たちは食事をするんだね。カルは全然食べないのに」

「そりゃーねー、しかたないよ」


 うんうん、と周りの子どもたちも頷く。


「子供は木を食べられない決まりなんだ。外にいけるようになった大人だけが許されてるの。でないと、すぐに木がなくなっちゃうじゃん?」

「え、そうなの? でも……ダークエルフって、木の命を食べないと生きていけないんじゃ」

「うん。あたしたちは今、お母さんから譲り受けた命だけで生きてる」


 グリズナは、胸に手を置いて言う。


「一人前になって、ようやく木が食べられるんだ」

「えっと……それって、一人前になれなかったら?」

「命が尽きて死んじゃうね」


 あっさりと言うグリズナに、ボクは衝撃を受ける。


「だから一人前になれるように、訓練をいっぱいしてるんだ。狩りはその一環! お腹に物を詰め込めば、なんとなく満足感は得られるからね、それで我慢だよ」


 得られない栄養を腹の中に入れて、耐えて……。


「……訓練?」

「うん。里の使命を果たすにね! 一人前になるために、いろいろやるんだよ! 武術だけじゃなくて生存術にいろんな知識──なんでも、ひとりでできるようにならなきゃ!」


 グリズナはどこか誇らしげに言った。


「そしていつか里を出て、使命のための旅をして、次の世代を作って帰ってくる。それがあたしたちの目標なんだ」


 グリズナが──ずいっ、とこちらに近づいてきた。ていうか近すぎ──腰がくっついてくる。


「だからさ、マクナ。協力してよー」

「あ、えと、里の外の話なら──」

「じゃなくてさあ、子作りしようよ!」

「うぇえええええっ!?」


 は!? え!?


「あたし、大人になったらイイ女になってるからさ! 予約!」

「いやあのその、そのっ」


 すると、ドッと周りの子供たちが笑った。


「ばかだなーグリズナ、ハーフエルフは種無しだから子ども作れないんだぞ」

「うっ──し、知ってたし! これは誘惑の訓練だし!」

「なら、なおさらダメじゃん!」

「な! ソイツ、男っぽいけど女だぜ!」


 なんだと。


「え、うそ、だって──」


 グリズナは、うろたえてボクをじろじろ見て──


「ごめんなさい」


 ──頭を下げて謝った。耳が垂れて、シュンとしている。


 いや、ボクは男で──って言ったところで、じゃあどうしたいんだボクは。蒸し返したいのか?


 したいのか? ──予約。


「──い、いいよ、気にしないで……」


 後ろでカルが声を殺して笑っている気配がした。くそっ……いつか見てろよ。


「そ、それより──そうだ!」


 ボクはなんとか話題を変えようとする。


「さっきから何度も言っているけどさ、使命ってなんのこと?」

「あれ、カルグから聞いていないの?」


 聞いてない。というか、カルも関係ある話だったのか。


 グリズナはキョロキョロ辺りを見回して──


「ダメだ」


 少し離れた場所にいた大人のダークエルフ……片腕のない老いた男が釘をさした。


「協力者であろうと、我らの使命を話してはならん」

「だってさ。ごめんねー」


 背後でカルが肩をすくめ、グリズナが申し訳なさそうに笑う。


 ──なんだか気まずい空気になってしまった。


「ね、ね、それよりさ! 小さい頃の話でもいいから──」


 そして子供たちが寝付くまで、ボクはまた里の外の話をさせられるのだった。

2022/1/5改稿

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