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カル&マクのどろり二人旅  作者: ブーブママ
第三章

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27/53

背中

 結局──オルネルは、跳んで去っていった。


 翼で飛んだわけではなく、ジャンプで跳んだ。竜の姿でないと空は飛べないんだけど、かといって竜になったら大騒ぎなので──跳ねた。


 正直、空を飛ぶのと大差のない跳躍だった。……いったい法術使いはどうやって捕らえたのだろう?


 その後、脱け殻のようになって倒れたドワイトは館に運ばれて……カルは約束通り報酬と、法術使いの倉庫の鍵を貰い、さっそくその倉庫に向かって行った。


 ボクはというと、先に宿に戻っていた。やることがあるからだ。


「よいしょ、と」


 ゲランドの根腐れ薬を作業台に置いて、法力を練る。


「フー……──」


 錬金術の力を、行使する。


 根腐れ薬に法力を馴染ませて……錬金術の基本──減速を、薬に施す。


 薬品は放っておくと瓶のなかで反応が進んでしまう。成分がいろんなものの影響で劣化して、腐って、ダメになってしまう。


 だからこうして定期的に、反応を遅らせる法術を使用するんだ。達人になると反応を停止させることもできる──と言われている。嘘か真か知らないけど、とにかくボクは二日に一回は術をかけないといけない。これが、ボクに任せられた薬品の管理の仕事の一つだ。


「──よし、できた」

「オウ、戻ったぞ」


 道具を片付け始めると、ちょうどカルが部屋に入ってきた。


「ったく、何が倉庫だよ。大したもん残ってなかったぜ」

『期待はずれだったわね』


 弓から女の子の声がする。


「あれ、シルヴィア? どうして?」

『道具の鑑定の手伝いよ。私が見ればだいたいわかるから』


 至法弓から出てくる女の子──シルヴィアは得意気に言った。そういう特技もあったのか……本当に不思議な存在だ。


「ハー……勘弁してほしいぜ。結局、タダ働きみたいなもんじゃねえか。アイツらに関わるとロクなことがねえ」

「オルネルのこと?」

「アァ」

「まあ──すごかったよね」


 竜の凄さは充分にわかった。あれでまだ子どもだっていうなら、大人はいったいどれほどの力を持っているんだろう。


「もう二度と会いたくねえ」

「──そう? でも人間の姿はかわいかったじゃないか。好みなんじゃないの、ああいう子」


 美少年、と言っても差し支えなかった。


「中身を知ってたらそんな気は起きねえよ」

「あ、好みではあるんだ? フーン、だよねえ、ボクが見ても格好良かったしさ」


 ボクも体が大きな方じゃないし、もしかしてカルってそういう趣味──


「違ェよ」

「ええ、そう? バッチリ好みなんじゃないの?」

「──チッ」


 カルは──舌打ちして背を向けてしまった。


 えぇ……。別に怒らなくてもいいじゃないか。だいたい、男同士っていうのが変だし。イヤだって言ってるボクにそういうことをするんだから──むしろボクが怒る立場じゃないか?


 でも──


 カルの背中は、なんだか怒ってるだけじゃなさそうだった。


「ねえ」

「………」

「カル、聞いてる?」


 ──応えてくれない。理由はわからないけど、でも──こんなのは困る。


「……あの」


 ボクはカルの服の背をつまんだ。


「──ごめん」


 ………。


『──……クッハァァァァァァ! 萌え! 萌える!」

「うわッ!?」


 いつの間にかシルヴィアが実体をあらわしていた。小さな身体をベッドの上で転がせまくっている。


「なになになんなのよあんたたちもーっ!」

「テメエ、勝手に出るなっつってんだろ」

「これが萌え転がらずにいられるもんですか! 不器用な関係に急に素直な感情をぶちこんでヌホォォオォォ!」


 ──なんというか、ひどかった。奇声をあげて暴れまわるシルヴィアをどうもできないまま、時間が過ぎて──


 なんとなくうやむやのまま、ボクとカルの間の喧嘩? みたいなものもなかったことになったのだった。

2022/1/1改稿

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