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カル&マクのどろり二人旅  作者: ブーブママ
第三章

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19/53

予想外の助け

「そこまでだ、汚いウジ虫ども」


 バン、と音をたてて扉が開き、威圧的な声が高らかに響いた。


「なっ、何だあんたら!?」

「大人しくしろ」

「ぐえ」


 どどど、と人が雪崩れ込んできて、あっという間に部屋が制圧される。無事に立っているのはギグルのお頭だけで……その前に悠然と、侵入者のひとりが歩みを進める。


 長い耳。揺れるカンテラの明かりに、編み込まれた金髪がキラキラと輝く。


「穢らわしいハーフエルフの少女とはいえ、人さらいは重罪だ。我が領地の場合は、即刻首をはねてよいことになっているが?」

「……だ、誰だ?」

「我が名はフィンデリオン。貴族の義務を果たしにきたまで」


 そう。入ってきたのはエルフのフィンデリオンだった。カルを追っているというエルフ。顔を見回せば、お付きの全身鎧の騎士二人が、三人のヒトを抑え込んでいた。


 フィンデリオンは余裕そうに、優雅に言葉を続ける。


「縁も所縁もない土地ではあるが、人の上に立つ者として、このような犯罪を見過ごすわけにはゆかぬ」


 そういえば前もそんなことを主張していた。貴族の責務だとかなんとか。


「ま、待ってくれ、これには事情が──」

「宿で少女をさらったところを、我が部下が目撃してる。言い逃れはできぬぞ? さて、申し開きはこの街の長の前でしてもらおうか。さしあたっては、衛兵に引き渡して──」

「その衛兵ってのが俺たちなんすよぉ! ねえ、隊長!」

「……なんだと?」


 騎士に押さえこまれていた男が声を上げ、フィンデリオンが眉をひそめる。隊長と呼ばれたギグルのお頭は、ため息を一つ吐くと、懐から首飾りを取り出した。それをフィンデリオンはじろじろと検分する。


 その間に窓に目をやると──カルの姿はきれいさっぱり消えていた。いつの間に。


「──確かに、この街の領主の紋章だ。衛兵であるという主張は考慮の余地がある。だが……なぜ、衛兵が盗賊まがいのことをするのだ?」

「それは──」


 ギグルが言いよどむ。


 ──なんだか長くなりそうというか……話がややこしくなりそうだった。どうやら街の衛兵らしいし、ボクを解放する意思もあるみたいだから、ここは助け舟を出した方がいいかもしれない。


 なにより──このエルフに捕まると、カルと合流できなくなる。


「あの、その人たちは助けてくれたんですよ」

「衛兵が犯罪に手を染めているとなれば……貴族としてそれを我が正す必要が……」

「あの!」

「……ん? ああ、何か言ったか、ハーフエルフの少女よ」


 フィンデリオンはちらりと目をこちらに向ける。


「穢らわしいものの言葉は聞こえづらくてな。もう一度言うがいい」


 こ、こいつは……。


「……ダークエルフの、その──奴隷になっていたところを、彼らは救い出してくれたんです。ちょっと手荒な方法でしたけど……ね?」

「そ、そうなのだ」


 ギグルがこことぞばかりに声をあげる。


「ふむ? ではなぜ吊るしている?」

「えっと、身体検査ですよ。ダークエルフに何か仕込まれていないか……」

「そうだ。誤解を招くような格好で申し訳ない」


 ボクと隊長の言葉に、フィンデリオンは少し考えるそぶりを見せて──


「──まあいいだろう。我の目的はそのダークエルフだ。穢らわしいハーフエルフに必要以上に関わる気はない」


 ……こいつ、三回も言ったな、すごく自然に。ムカッとしたけど、抑える。我慢だ我慢。


「えっと。そのダークエルフですけど──もうこの街にはいないと思います。先を急いでいましたし、奴隷のことなんか気にもかけない人ですから」

「そうなのか──」


 なぜかギグルの隊長が肩を落とす。フィンデリオンは、フン、と鼻を鳴らした。


「ありえることだ、あのダークエルフならな。だがまだ遠くまでは行っているまい。追い詰めてやるぞ……そしてこの手で……ククク、フハハハハハハハ!」


 そして高笑いをしながら、あっさりと出ていった。全身鎧の騎士たちも、それについてさっさと消える。部屋の中の男たちは、まるで竜でも見たかのようにポカンとしていた。


 うん、気持ちはわかるな。……そもそも、あの人は有能なのかダメなのかよくわからない。これまでも何度か追いつかれたことがあるんだけど……近いところまではものすごい期間で追いついてくるのに、あっさりとカルを取り逃すんだよね。


「ああ──とりあえず、縄を解いてやれ」


 フィンデリオンたちがいなくなると、ギグルの隊長がやっとのことで指示をだし、男がボクをの拘束を解いて下ろしてくれた。やれやれ、血の巡っていなかった手首がジンジンするよ。


「ダークエルフがこの街を去ったのなら君を拘束する意味はない。申し訳なかった」

「いえ、そんな」


 ギグルが深々と頭を下げる。悪いことをするつもりじゃなかったのなら、別にそんなに謝らなくても──


「たく、甘ェなあオマエは」


 急に、耳元で声がする。


「縛られたんだから、もうチト、慰謝料ぐらいぶんどりにいけよな」


 ぽん、と肩を叩いてきたのは……カル。ダークエルフの男。男たちが、一拍遅れてギョッとして身構える。ボクも驚いた。一体、いつのまに入ってきたんだろう?


「さァて」


 ──カルはボクの肩に手を置きながら、イヤらしく笑った。


「街の衛兵が人質をとってまでダークエルフに通したい話とやら──聞かせてもらおうじゃねェか」

2022/1/1改稿

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